ナウムブルクは旧東ドイツ、ザクセン・アンハルト州にある人口約33,000人の古都である。ザーレ川沿いに位置しており、ライプツィヒから鉄道で1時間ほど南西に行ったところにある。2018年に同市にある1000年近い歴史を有するナウムブルク大聖堂がユネスコの世界遺産に登録されるなど、その歴史的建築物、街並みがこの都市に強烈なアイデンティティを与えている。
このナウムブルクの歴史的な空間の中を縫うようにトラムが走っている。ナウムブルクの駅から中心市街地までを結ぶ延長2.9キロメートルという短い距離だけであるが、30分間隔で走るこのトラムは観光客だけでなく住民も多く利用している。1メートルという狭軌(標準軌は1435mm)を、1950年代から1970年代の旧東ドイツ時代につくられた車輌がのんびりと走る光景は、まるで50年前にタイムスリップをしたような錯覚を覚えさせる。そのあだ名も「野生のやぎ(Wilde Zicke)」というもので、これはドイツでも最小のトラム・システムである。
このトラムは1892年の開業以来、いくたびも廃線の危機にさらされたが、それらを見事に克服した。最大の危機はドイツ再統一後、1年も経たない1991年8月の運行中止であった。これは線路の状態がトラムを走行させるには危険であるほど劣化していたからである。しばらく運行中止の状況が続いたが、1994年には修繕をし、お祭りなどのイベント開催時には臨時運行をするようになった。その後も、おもに同市や周辺の若者が中心となって、これを復活させるための活動が展開し、1999年以降には随分と線路の修繕を行うことができ、2007年には念願の定常的なサービスを再開できるようになった。さらに2014年11月にはフォーゲルヴィーゼ駅からザルツトア駅まで300メートルほど延伸され、加えて2018年8月には、中央駅の目の前まで80メートルという短い距離であるが延伸された。これによって、それまで中央駅からは見えなかったトラムの駅が可視化されることになり、中央駅まで行く乗客の利便性が高まっただけではなく、観光客の利用なども促進された。
このトラムは上下分離で運営されており、「下」の部分である軌道などの鉄道施設はナムブルク市が所有している。しかし、「上」の部分はナムブルク鉄道会社(the Naumburger Stra?enbahn GmbH)という民間会社が運営をしている。ナムブルク市は鉄道事業に対しての責任を有していないが、ナムブルク鉄道会社は経営上の赤字を補填するための補助金を受けている。
保有車輌も7車輌しかないが、運行間隔は30分を維持しており、利用者も最近は増加している。昨年の利用者は年間で18万人、運行距離は6万キロメートルに及んだ。
171 ナウムブルクのトラム (ドイツ連邦共和国)







ナウムブルクは旧東ドイツ、ザクセン・アンハルト州にある人口約33,000人の古都。その歴史的な空間の中を縫うようにトラムが走っている。1メートルという狭軌(標準軌は1435mm)を、1950年代から1970年代の旧東ドイツ時代につくられた車輌がのんびりと走る光景は、まるで50年前にタイムスリップをしたような錯覚を覚えさせる。
ナウムブルクのトラム の基本情報
- 国/地域
- ドイツ連邦共和国
- 州/県
- ザクセン・アンハルト州
- 市町村
- ナウムブルク市
- 事業主体
- The Naumburger streetcar GmbH, Nahverkehrsfreunde Naumburg-Jena e.V.
- 事業主体の分類
- 市民団体
- デザイナー、プランナー
- N/A
- 開業年
- 1892年(開業)、2007(再開)
ストーリー
地図
都市の鍼治療としてのポイント
ナウムブルクの2017年末の人口は3万2755人である。そこに路面電車が走っている。いや、走っているどころか、2014年にはこの路線を延伸させた。日本では政令指定都市の堺市でトラムの計画が挫折した。人口52万人の宇都宮市が紆余曲折の末、ようやくトラムを開業するという政策的判断が下せたことを考えると、なぜドイツでは小都市においてでもこのようなトラムの運営が可能となるのであろうか。
ナウムブルクのトラムが運営できている鍵の一つは、民間が運営していることである。1994年以降、このトラムの維持管理などは、ヴォランティア的に市民団体が実施している。そして10人の従業員を採用し、そのうちの6人は運転手である。彼らによって日々の運行が遂行されている。
さらに路面電車を始めとした公共交通政策に対する大きな理解の違いが日本とドイツではある。いや、正確には日本とそれ以外の国、と括ってもいいであろう。日本以外の国では公共交通は赤字である。赤字が前提で運営されている。ドイツで黒字の路面電車は一路線もない。例えば、人口50万人で人口密度も高い(人口密度は路面電車を始めとした公共交通の採算性と相関性がある)シュツットガルト市役所の職員に取材をしたとき、同市のトラムの運営コストのおよそ60%を州や国の補助金で充当しているとのことであった。シュツットガルト市でさえ、これだけの赤字なのだからナウムブルクはまともに採算性をみたら、とても走らせることはできない。
しかし、一方でこのトラムがナウムブルクからなくなったら、それは都市の魂の一部が欠けたようなことになってしまうということを多くの人が理解しているのであろう。ドイツが再統一された後の混乱期には閉鎖していたトラムを人々の力によって、再開させ、さらに延長までさせた。都市やコミュニティは経済性だけで存在しているのではない、ということを考えさせられる興味深い事例である。
【参考資料】http://www.naumburger-strassenbahn.de/geschichte/historie/
【取材先】Naumburger Stra?enbahn GmbH
ナウムブルクのトラムが運営できている鍵の一つは、民間が運営していることである。1994年以降、このトラムの維持管理などは、ヴォランティア的に市民団体が実施している。そして10人の従業員を採用し、そのうちの6人は運転手である。彼らによって日々の運行が遂行されている。
さらに路面電車を始めとした公共交通政策に対する大きな理解の違いが日本とドイツではある。いや、正確には日本とそれ以外の国、と括ってもいいであろう。日本以外の国では公共交通は赤字である。赤字が前提で運営されている。ドイツで黒字の路面電車は一路線もない。例えば、人口50万人で人口密度も高い(人口密度は路面電車を始めとした公共交通の採算性と相関性がある)シュツットガルト市役所の職員に取材をしたとき、同市のトラムの運営コストのおよそ60%を州や国の補助金で充当しているとのことであった。シュツットガルト市でさえ、これだけの赤字なのだからナウムブルクはまともに採算性をみたら、とても走らせることはできない。
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【取材先】Naumburger Stra?enbahn GmbH
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