257 三津浜まちづくり(日本)

257 三津浜まちづくり

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ストーリー:

 三津浜地区は松山市の西部に位置し、松山市駅から伊予鉄道で10分ちょっと乗ったところにある。この地区は藩政時代から海運の要所として栄えてきた。しかし近年は、海運が陸運、空運に取って代わられ、その重要性が低下したことに加え、近隣にある高浜旧港、松山観光港等が整備されたことによって、港町としての三津浜地区の相対的位置づけが後退した。この動きと連動し、同地区の事業所数・従業者数、人口は減少傾向にあり、高齢化の進行と相まって、まちの活力が大きく低下していた。大正時代には三津浜地区(旧三津浜町)の人口は1万人以上あったのだが、1995年には約6,700人、2020年には4,536人まで減少している。空き家も増え始め、商店街でシャッターを閉じている店舗が6割と半数を越えるような状況になってしまった。
 このような中、住民が主体となった「三津浜地区まちづくり協議会」が2010年に設立された。同協議会のホームページでは次のように設立趣旨が述べられている。

「古くから栄えたこの三津浜地区は、今活気を失っています。この活気を取り戻すべく私たちは想いも新たに、三津浜のまちづくりに果敢に取り組みたいと想います。まちづくり協議会は、これまで行政にお任せしていた部分を、自分たちのできる範囲で、自分たちの知恵を工夫で自分たちなりのまちづくりをこなしていくことです。この設立を契機に、地区住民がもう一度自らまちのことを考え、自分たちのまちに夢と誇りを抱いていただけることを願っています。みなさんの積極的なご参加とご協力を心からお待ちいたします。」

 さらに、2013年には、まちづくり協議会に加え、公民館、商店街組合など10団体で「三津浜地区にぎわい創出実行委員会」を発足させた。このような動きに呼応して、2014年には松山市が「三津浜地区活性化計画」を策定する。この計画は、「地域や住民の動きを尊重しながら、地域の振興を図ることを目的として、三津浜地区の地域住民や民間によるまちづくりへの機運を一層高めるとともに、三津浜地区のにぎわいの創出や交流人口の拡大を図るための活動の指針となる計画を策定するもの」としている。
 そして、この計画をもとに三津浜地区の活性化を目的として、三津浜地区の空き家や古民家などの情報を収集し利活用を図る「町家バンク」を構築し、さらに三津浜地区のまちづくり活動の支援やにぎわいづくりの拠点となる「三津浜にぎわい創出事務所(三津ハマル)」を築150年の日本建築に開設した。三津ハマルでは三津にハマル雰囲気作りや、ハマれる環境づくりを行っており、三津に注目してもらったり、訪れてもらう機会となるようなイベント開催したり、街の空き家を調査し、新たに街へ越したかったり、お店をやりたい人に紹介するマッチング事業を行っている。ウェブでも空き家の情報や三津浜の魅力を発信したりもしている。マッチングだけではなく、空き家・空き店舗を「チャレンジショップ」、「シェアショップ」に改装し、新規出店・移住による新たなにぎわい創出をも図っている。チャレンジショップは格安の施設利用料(床面積45平米で月額4,000円〜5,000円)で、施設を利用できる制度であり、これまで自転車屋、木製雑貨店、イタリアン・レストランなどが開業している。シェアショップは、古民家などの空き家建築をリノベーションして数店舗が入れる商業施設であり、雑貨屋や飲食店などが入居している。2021年10月までに「町家バンク」で84件のマッチングを成立させ、新規出店63件(営業中35件)、移住26件を実現させている(愛媛新聞)。
 この高いマッチング数の背景には、三津浜は戦災の被害が少なく、江戸時代から昭和初期の民家が多く点在していることがある。三津浜の路地には、今ではめずらしい土間や中庭のある町家づくりの家や昭和レトロを感じさせる洋風な建物が多く、主に若い人たちを引きつけるような町並みが残っているのである。しっかりと、その魅力とそのような物件があることを需要がある人に伝わることができれば、空き家という負の資源が、新たな社会増のトリガーとなることを、三津浜の取り組みは示している。
 また、大正時代の「一銭洋食」をルーツに持つお好み焼きを、ご当地グルメ「三津浜焼き」としてブランド化を図っている。加えて、ユーチューブにて「みつチャンネル」を開設し、三津浜の魅力をプロモーション動画で発信している。 
 このような取り組みをすることで、見事、三津浜の魅力を掘り起こし、発信し、顕在化させ、そこの住民はもちろんのこと、外部の人たちにもその価値を再発見してもらい、空き家が埋まり、外部からも多くの人がここに生活の営みをするようになっている。その結果、賑わいを生み出すことに成功し、衰退していた街の再生するきっかけを創出することができている。
 2021年10月に国土交通大臣賞(地域づくり部門)を受賞した。

キーワード:

歩行者空間, 景観保護

三津浜まちづくりの基本情報:

  • 国/地域:日本
  • 州/県:愛媛県
  • 市町村:松山市
  • 事業主体:三津浜地区まちづくり協議会、松山市
  • 事業主体の分類:自治体 市民団体
  • デザイナー、プランナー:三津浜地区まちづくり協議会
  • 開業年:2010年(まちづくり協議会の設立年)

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 三津浜は伊予鉄道で松山市駅から6駅ほどのところにある。駅から港に歩くと、商店街が続く。この商店街は、以前はアーケードも設置されており、相当の賑わいがあったそうだが、今ではアーケードも撤去されており、住宅と商店が混在しているような昭和レトロ感が漂う牧歌的な空間となっている。
 戦災を受けなかったことで、ところどころに古民家や古い洋館が残っているだけでなく、道幅も狭く、ヒューマン・スケールの空間が安堵感をもたらし、歩いていて楽しい。そして、ところどころにオシャレにリノベーションをした建物がポツポツとある。入っているテナントも、マーケティングや資本の論理と縁遠いようなお店であって、楽しい気分にさせられる。
 この事業が成功した最大の要因は、それまで住民を含めて人々が気づかなかった街の魅力、ポテンシャルを掘り起こし、それをSNS、ユーチューブ、ウェブサイトを器用に活かして発信をしていった。そして、三津浜のような街を訪問したい、そのような街でお店をしたいという潜在的な需要を顕在化させた。そのことで、停滞していた三津浜の地域経済が回転し始めたことであろう。
 チャレンジショップで出店していたイタリアン・レストランで昼食を取ったのだが、そのクオリティの高さに驚いた。また、鯛やに訪れた時は、二階にある資料室に連れて行ってもらい、ご主人の森さんに三津浜の歴史を直接、ご講義いただいた。そこにはユビキュタスではない、この三津浜ならではの「本物(オーセンティック)」的な体験をすることができる。歴史が培った「本物」な要素を、見事、現代のニーズと合致させるような取り組みを展開させて、街の潜在的な価値を具体化させた。衰退が激しい地方都市の活性化に多大なるヒントや知恵を与えてくれる興味深い事例であると考えられる。

【参考資料】
愛媛新聞(2021.10.20)

【参考ホームページ】
みつはまるホームページ
http://www.mitsuhamaru.com/map/
三津浜地区まちづくり協議会ホームページ
https://mitsuhama-machikyou.com

【取材協力者】
松山市役所 都市・交通計画課 木村将伸氏、まちづくり推進課 山本彰一氏

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