029 マレーニの地域通貨「レッツ」(オーストラリア)

029 マレーニの地域通貨「レッツ」

029 マレーニの地域通貨「レッツ」
029 マレーニの地域通貨「レッツ」
029 マレーニの地域通貨「レッツ」

029 マレーニの地域通貨「レッツ」
029 マレーニの地域通貨「レッツ」
029 マレーニの地域通貨「レッツ」

ストーリー:

 マレーニは、オーストラリアのクイーンズランド州のサンシャイン・コースとのそばにある人口1500人の小さな町である。
 このマレーニは1987年10月、地域通貨のレッツを導入する。このレッツを導入したのが、マレーニに信用組合や生協を設立したジル・ジョーダンである。ジル・ジョーダンは、信用組合ではカバーできない人々の経済活動を促進するために、カナダのヴィクトリアにて普及していた地域通貨システムLETSを現地に研究しに行き、そのノウハウを持って帰国、そのマレーニ版を導入することを提案する。マレーニの人々は早速、これに飛びつき、マレーニ地方に多く育つバニヤ松の名前を取り、バニヤという単位の地域通貨システムレッツを始動させる。マレーニ信用組合から事務所を借りて、事務職員は1時間当たりメンバーから10バニヤをもらって作業をすることにした。
 ただし、ヴィクトリアのレッツは、Local Exchange Trading System であるのに対して、マレーニのレッツ・システムはLocal Energey Transfer Systemの略である。日本語に訳すと、地元のエネルギー交換システム。ここで、エネルギーとはその地元のコミュニティの人々が有する能力のことである。昔からコミュニティに存在していた相互補助の関係のようなものだが、それをより促進させ、活性化させるために、この地域通貨というシステムは寄与している。すなわち、お裾分けなどの交換が個人レベルで行われるのに対して、地域通貨はコミュニティ・レベルで交換が行われることになる。そして、その交換によって、潜在的にあったコミュニティの力や資源が顕在化し、活性化されているのである。
 レッツには利子がない。また、負債はむしろ多くすることが奨励されている。貯金をすることはむしろマイナスなのである。このレッツを機能させるのに重要な役割を果たしているのが「伝言板」と「取引記録」である。
「伝言板」は、メンバーがどのような商品やサービスを提供しているかを記したものと、どのような商品やサービスを必要としているのかを記したものとから構成される。メンバーはこの伝言板をみて連絡を取り合うのである。そして、月ごとにメンバーは、彼らのその月の取引記録、収支記録、それに新たな商品、サービスの提供リストを受け取る。この取引記録は、地元コミュニティが有する人々のエネルギーの交換記録でもあるのだ。
 通常の市場経済からははじき出されてしまうサービスや商品も、この地域通貨がつくりだす「経済圏」では価値を有する。それなりの技術を有する失業者や高齢者のポテンシャル(エネルギー)を活用するためには極めて有効な手段なのではないかと思われる。

キーワード:

地域通貨,コミュニティ・デザイン

マレーニの地域通貨「レッツ」の基本情報:

  • 国/地域:オーストラリア
  • 州/県:クイーンズランド州
  • 市町村:マレーニ
  • 事業主体:Maleny Local Energy Transfer System
  • 事業主体の分類:市民団体
  • デザイナー、プランナー:ジル・ジョーダン
  • 開業年:1987

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 地域通貨は決して、新しい試みではない。戦時中や大不況時には、臨時的につくられたし、また現在でもイギリスとアイランドの中間にあるアイリッシュ海に浮かぶマン島やイングリッシュ・チャンネルに浮かぶジャージー島といった地域では、独自の通貨が使われている。
 日本でも、江戸時代には藩札の広範な流通をみる。藩札というのは、まさに地域通貨そのものだ。日本には地域性を重んじる複数の通貨の並行流通に関して、豊かな歴史を有していた。その通用が禁止されたのが1899年と100年ちょっと前にしか過ぎない。
 そのような地域通貨が、現在、また注目されているのは、経済のグローバリゼーションが進み、そのためにお金が地方のために機能できなくなっているからであることと、インターネットというツールを我々が獲得しているからである。地域通貨を流通させる場合、どこにその需要があるのか、そしてどこに供給があるのか。その情報が交換される市場をどのように構築するかというのが課題となる。例えば、マレーニでは、それは生協やカフェの掲示板であったり、定期的に出される新聞を情報交換のメディアとして活用したりしているわだが、もう少し、アップ・トゥ・デートで、情報が欲しい時にアクセスできるスピードがより、地域通貨が交流するうえでは望ましいと考えられる。そういった点でインターネットをその情報交換の場として活用できるメリットは非常に大きなものがある。それは、即時性、そして検索性という点で極めて優れているからだ。
 地域通貨はコミュニティ力を発揮させ、また活かすという点では極めて強力なツールであると思われる。それが通用するためには、コミュニティの多くの人達が、この地域通貨という「幻想である価値」を共有しなくてはならないのだが、これができた時には、とてつもない効果を発揮させる都市の鍼治療的手法であると思われる。マレーニのレッツはまさにその証拠である。

類似事例:

150 クリチバ市の羊による公園の芝生管理
257 三津浜まちづくり
297 さるぼぼコイン
・オリオン、小倉北区(北九州市、福岡県)
・白虎、会津若松市(福島県)
・イサカアワーズ、イサカ(ニューヨーク州、アメリカ合衆国)
・LET System、ヴィクトリア市(カナダ)
・Minaコイン、南島原市(長崎県)
・大分銀行デジタル商品券、大分市(大分県)
・せたがやPay、世田谷区(東京都)
・アクアコイン、木更津市(千葉県)