150 クリチバ市の羊による公園の芝生管理 (ブラジル連邦共和国)

150 クリチバ市の羊による公園の芝生管理

150 クリチバ市の羊による公園の芝生管理
150 クリチバ市の羊による公園の芝生管理
150 クリチバ市の羊による公園の芝生管理

150 クリチバ市の羊による公園の芝生管理
150 クリチバ市の羊による公園の芝生管理
150 クリチバ市の羊による公園の芝生管理

ストーリー:

 クリチバ市の多くの創造的な政策の中でも最も独創的であると考えられるのが、公園の芝生の管理に関しての試みである。クリチバ市はレルネル市長の時代に独創的な予算確保の手段を用いて(公園を整備するという名目ではなく、河川の氾濫を防ぐための貯水池を整備するという名目で予算を確保して、結果、多くの公園をつくってしまう)緑地を多く整備することに成功したが、多くの芝生をつくってしまったために、その維持管理費の予算が不足することになってしまった。そこで、いつものように課題を解決するためのブレイン・ストーミングを市役所でしたら、ある職員が羊にやらせればいい、と提案した。
 最初は皆半信半疑であったそうだが、専門業者と契約をする前にとりあえず試してみよう、と当時の環境局長の日系ブラジル人である中村ひとし氏が判断をし、実践をしてみた。その結果、羊がやることにはまったく支障がなく、しかも80%の維持管理費が節約できたそうである。「羊飼い」が必要ではあるが、それは市の職員がやることになった。また、羊は糞をするので、それが肥料代わりにもなり、そして羊が公園にいると子供達がとても喜ぶので、副次的効果も大きなものがあった。そして何より、環境都市クリチバのイメージにもぴったりマッチしたエコロジー的風景をつくりだした解決法でもあったので、一石四鳥的な効果を生みだした。当時は、「羊飼い」の職員に羊飼いの服装を着させるなどのユーモアもあったのだが、現在はそのようなことはしなくなっているが、現在でもクリチバ市の風物詩として広く市民にも支持された政策となっている。羊による公園の芝生管理は、イグアス公園やバリグイ公園などで実施されている。

キーワード:

環境保全, リサイクル, 公園管理, 羊, 中村ひとし

クリチバ市の羊による公園の芝生管理 の基本情報:

  • 国/地域:ブラジル連邦共和国
  • 州/県:パラナ州
  • 市町村:クリチバ
  • 事業主体:クリチバ市
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:クリチバ市環境局(中村ひとし局長)
  • 開業年:1990年頃

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 ブラジルのパラナ州の州都であるクリチバ市は、1992年にリオデジャネイロで開催された世界環境サミットにおいて、ローカル・アジェンダの会議を開催したことで、その独創的な環境政策が広く世界的に知られることになる。その政策の肝は「金がなければ知恵を使え」というもので、「都市の鍼治療」というコンセプトも、お金がないが問題は解決しなくてはならないという、ある意味で背水の陣的状況から生み出されたとも言えよう。
 そして、そのクリチバらしさを見事に表現しているのが、この羊による公園の芝生の管理ではないかと思うのである。その説明のための背景を整理させてもらう。まず、1970年のブラジルには公園を整備するための予算がなかった。これは、公園を行政が整備するという発想がなかったからである。クリチバも1970年には、都心に動物園を兼ねるちょっとした公園的空間が整備されていたのと、広場に木が植わっているような公園的には極めて貧相な状況であった。人口当たりの公園面積は1?に満たないほど少なかったのだ。そのような状況を変えるために、レルネル元市長は、クリチバ市を流れている河川沿いに公園をどんどんと整備していく。しかも、予算がないために前述したように、河川氾濫防止という名目で得た予算を使って、公園用地を確保していくのである。そして、あっという間に人口当たりの公園面積が50?近くに跳ね上がり、今度は世界の都市でもトップクラスの公園が溢れた都市へと変貌させることに成功する。しかし、その公園の芝生を管理する予算がなかった。これは万事休す、と思われたところ、羊にやらせる、という斬新なアイデア、そしてそれを受け入れた部長の度量の広さから、問題を解決したどころか、むしろ「災い転じて福と成す」で、新たな価値をもたらすことになった。
 ジャイメ・レルネル氏はよく、「成功する確率が失敗する確率より高ければ実践することが大切だ」とか「問題は成功の元」といったことを述べるが、まさにそのような考えが具体化されたような成功事例であると思われる。
 また、役所という一般的には官僚的で、前例主義に陥り、思考停止になりやすいような組織において、このような民主的で創造的な解決法を採用できた当時のクリチバ市役所の組織文化の素晴らしさも示唆するような見事な「都市の鍼治療」事例であると考えられる。

(参考:『人間都市クリチバ』服部圭郎)

類似事例:

026 みんなでつくるん台
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138 ねこじゃらし公園
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・ マーティンルーサーキング・ミドルスクールのエディブル校庭、バークレイ市(カリフォルニア州、アメリカ合衆国)