024 北浜アリー(日本)

024 北浜アリー

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024 北浜アリー
024 北浜アリー
024 北浜アリー

ストーリー:

 高松港の貨物保管場所のために、昭和初期に建設された古い倉庫群がある。これらの倉庫は、宇高連絡船が営業中止になり、その結果、その役割を果たさなくなった。そして、周辺も人々に忘れられた賑わいのない地域へと変貌してしまった。その古い倉庫を活用して商業開発をして、新しい情報も発信するようにして、地域もまた人々に目を向けさせるようにしたのがこの北浜アリーである。ギャラリー、レストラン、カフェ、雑貨店などが入居し、また中心につくられた広場ではコンサートなどのイベントが開催されている。延べ床面積は1000㎡ちょっとと決して大きくはないのだが、周辺のレトロ感あふれる街並みとうまく共鳴していることもあり、はるかに広く感じることができる。
 古い倉庫の活用、また瀬戸内海を借景としてうまく活用した店舗デザイン、「ノスタルジーとチープさが醸しだす手作り感」(北浜アリーのHP)など、「新しいものをつくらない新しい店」というコンセプトが、高松という都市の個性をうまく表出すること、高松という港町のお洒落な感性を表現することに成功し、若者を中心として人気を博している。
 この北浜アリーの再生は、井上雅子と井上秀美という商業建築家の構想からはじまった。そのきっかけはある会合で若い女子学生が「高松にも遊びができる場所があったら」という意見を述べたことであった。彼女のニーズを、この北浜アリーであったら具現化することができる。そして、そこはまた、商業施設としてもボストンのファニュエルホール・マーケットプレイスなどと同様に、ウォーターフロントの魅力を演出することができれば、きっとうまくいくであろうという考えもあったのではないだろうか。井上達は、この倉庫群の地権者であるJA香川県に企画を持って行き、見事、説得し、公共が一切関与しない民間開発による新しい商業空間が出現したのである。
 この商業空間の魅力を高めているのが優れた都市デザインである。前時代の港の景観、街並みをうまく活かしたデザイン。さらには、リノベーションをした4つの倉庫のうちの一つは撤去をして広場にするという構想力の豊かさ。この広場は、テナント料はとれないが、いろいろなイベントを開催したりすることで、準公共的な空間としての役割を果たしている。結果的に残りの商業床面積の価値を高めるような貢献をしているのではないかと推察される。
 井上は、ここのテナントの管理をもしている。その結果、しっかりと北浜アリーのコンセプトに則ったテナント・ミックスが図られている。これも北浜アリーの商業施設としての魅力の要因の一つではないかと思われる。
 高松の若者にとっては貴重な都市の刺激を満喫できるような空間となっていると考察される。

キーワード:

ウォーターフロント,アクセス,アイデンティティ,歴史保全,都市観光

北浜アリーの基本情報:

  • 国/地域:日本
  • 州/県:香川県
  • 市町村:高松市
  • 事業主体:JA香川県
  • 事業主体の分類:民間
  • デザイナー、プランナー:井上雅子
  • 開業年:2000

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 高松市は機会があって頻繁に訪れている。多くの補助金事業が施行されている都市であり、郊外を含めて社会基盤整備がしっかり遂行されている。道路も立派であるし、駅も立派。衰退している中心市街地でさえ、豪華でお洒落なアーケードが整備されている。それでいて都市の魅力が乏しい。これは、同じ四国の他の県庁所在都市である松山、徳島、高知とは大きな違いである。都市の個性というか人を魅了するようなアイデンティティが高松市では感じられにくいのである。
 そういう陰鬱とした気分にさせられた後、この北浜アリーを訪れるととてもホッとする。ここは、高松という都市の個性、ゲニウス・ロキを感じることができる。ようやく、エニープレイス(Any Place)という無個性のユビキュタスな空間ではなく、しっかりと歴史を有し、そこで生活する人々の息吹が感じられるような場所を見つけたという気分になるからだ。そこには、いい時間が流れている。デジタルではなく、アナログの時間である。調和したデザインが施された空間ではあるが、デザイン・ルールはないそうだ。その規制はゆるいのだが、そのゆるさがまた魅力を醸成しているのではないかと推察される。
 北浜アリーはとても小さい。テナント数は13店舗だけである。ただ、実感としてはもっと大きい。それは、おそらく白黒のようなイメージのする高松市において、この一画だけが色彩豊かな空間として人々に映るからではないだろうか。補助金漬けというコレステロール過多の高松市において、見事に問題を解決するツボを押さえた「都市の鍼治療」であると考えられる。

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・キャナリー・ワーフ、サンフランシスコ(アメリカ合衆国)
・ウィリアムスバーグ、ニューヨーク(アメリカ合衆国)
・ファニュエルホール・マーケットプレイス、ボストン(アメリカ合衆国)
・昭和の町、豊後高田市(大分県)