203 デンバー美術館(ハミルトン・ビルディング)(アメリカ合衆国)

美術館 アイデンティティ

デンバー美術館はデンバーのシビック・センター(行政地区)にある。ダニエル・リベスキント設計のハミルトン・ビルディングは、その斬新な意匠によって、ほとんど一夜にしてデンバー市の重要なランドマークとして人々に認識されることになった。また都市計画的にも、行政地区の西端に集客施設をつくり、都心部を西に拡張させる役割も果たしている。

デンバー美術館(ハミルトン・ビルディング)の基本情報

国/地域
アメリカ合衆国
州/県
コロラド州
市町村
デンバー市
事業主体
デンバー市
事業主体の分類
自治体 
デザイナー、プランナー
ダニエル・リーベスキント
開業年
1948
再開業年
2006

ストーリー

 デンバー美術館はデンバーのシビック・センター(行政地区)にある。デンバー美術館は1923年に開設されるが、1948年に現在のシビック・センターへと移転してくる。その後、増設を続けるが、特に大きく拡張したのは2006年にハミルトン・ビルディングとダンカン・パビリオンを建設した時である。その中でもダニエル・リベスキント設計のハミルトン・ビルディングは、その斬新な意匠によって、ほとんど一夜にしてデンバー市の重要なランドマークとして人々に認識されることになった。
 ハミルトン・ビルディングは、現代美術、アフリカ美術、海洋美術の収蔵、展示のための施設であるが、その一方で、この建物はデンバー美術館群の玄関であり、ハブとしての役割も担っている。床面積が1.36ヘクタールあるこの建物がつくられたことで、デンバー美術館はその規模を二倍に拡張させることにもなった。
 何よりこのハミルトン・ビルディングをユニークなものにしているのは、その建物の斬新な脱構築主義の幾何学的な意匠だ。その屋根は21,400平方メートルのチタンのパネルによって覆われており、その鋭角な20ある突起物のどれ一つもが同角度を向いていないようなデザインが為されている。リベスキントは、この大胆な建物の形状は、「デンバーの驚愕するようなヴァイタリティと成長」にインスピレーションを受けたと述べている。実際、そのぎざぎざのような建物の鋭角は、近くにあるロッキー山脈のランドスケープ、そしてその麓で採れる結晶岩を彷彿とさせる。
 設計者のリベスキントは、この建物が単体として位置づけられるのではなく、それが立地するシビック・センターの一つの要素として設計され、開発余地のある周辺地区へ良い影響を及ぼせるように意識したとも述べている。そして、この建物はスタイルが先行したのではなく、公共と有機的な関係性を持ち、知的、感情的、感性的な体験を提供するのに適した形状として現れたのであるとも述べている。
 この美術館は、鉄鋼建設協会から2007年に最優秀賞を受賞している。

地図

都市の鍼治療としてのポイント

 デンバー美術館に関しては、その建築的な評価は概ね絶賛されているが、美術館としては二つの評価に分かれている。一つは建築としては素晴らしいが美術館としては今ひとつというもの。もう一つは美術館としてもその多様な展示を可能とする点や、美術作品を鑑賞するうえでの新しい視座を提供していて素晴らしい、というものである。
 私、個人の意見は後者のものである。建物の構造が極めて複雑であるために、通常では認識しにくいところが展示空間となっていたりする。その空間のユニークさが、そこにある展示物への興味をむしろ喚起させる。建築内部の空間体験だけでもちょっとしたエンタテインメントであるのに加え、それらの空間がアート作品によって埋められているというのは、なかなか刺激的であり楽しい気分にさせられる。
 また、このデンバー美術館はデンバー市の行政地区の西端に立地しているのだが、この行政地区は東側にある都心部からは大通りによって阻まれており、人がなかなかアクセスしにくい。そのために、都市計画的にも行政地区の西端に集客施設をつくり、ダウンタウンから人の流れを行政地区、そして西側につくることは重要な課題であった。
 そういう観点からも、この美術館は単に新たなランドマークとして機能するだけでなく、デンバーの都心部を西に拡張させる一つのきっかけづくりという役割も担ったのである。そして、その強烈な建築的個性と空間的な魅力によって、その役割を見事に果たしている。

類似事例

ニテロイ現代美術館、ニテロイ(ブラジル)
グッゲンハイム美術館、ニューヨーク(ニューヨーク州、アメリカ合衆国)
科学博物館、ヴォルフスブルク(ドイツ)
サグラダ・ファミリア、バルセロナ(スペイン)
EPM博物館、シアトル(ワシントン州、アメリカ合衆国)