現場での交流がまちづくりを促進する

編集局 大澤 昭彦

■ 外部評価を取り入れるということ
 個人にせよ都市にせよ、自らを客観的に評価することは難しい。外からの評価によって、はじめて自らの価値や問題点に気づくことが少なくない。

 その点、佐原は客観的な評価を意識的にまちづくりに取り込んできたまちである。田口氏が「どの団体も行事が終わると必ずレビューをやるんです。それもできるだけ外部の意見を取り入れて。やった、終わった、疲れた、じゃあ先に進まないんで。自分たちで独りよがりになったら絶対にだめだと。市もそういう考え方だし、商工会議所もそうですよね。」と述べているように、佐原では外部の視点を大切にし、実践してきた。

 もともと佐原のまちづくりの出発点は、外部評価をきっかけとしたものであった。視察に来た飛騨高山の人からの「この川(小野川)すごいですね、どうしてまちづくりに活かさないんですか」との一言で、はじめて自らのまちの価値に気づいたという。

■ 現地に行って初めて分かること
 佐原に限らず、視察による自治体間の交流は、外部の視点をとり入れる絶好の機会となり得る。しかし、田口氏によると、近年、地方公共団体の職員による行政視察は難しいとのことである。自治体の財政状況が厳しい折、直接的な成果が現れにくい「視察」は予算から削られてしまうのであろう。また、インターネットにより自治体の情報収集が容易になってきたことも「視察」にとって不利に働いているのかもしれない。

 しかし、インターネットは知るきっかけとしては非常に有用ではあるものの、公表されている情報は限定的であり、現場に行かなければ手に入らない情報は多いはずである。田口氏は、自らが教鞭をとる大学の授業で佐原のフィールドワークを行っているが、「現場で手に入る情報とインターネットの情報の違いの落差に気がついてから、学生たちの探求がはじまった」という。このことは、現場で手に入る情報が、いかに豊かで活きたものであるかを教えてくれている。

 活きた情報の直接的なやり取りが、自治体相互に刺激となり、自らの価値や問題点の発見につながるのである。国や自治体は、目先の成果にとらわれず、人と情報の直接的な交流を下支えするネットワーク・インフラの整備に力を注ぐことが求められているのではないか。

注)
授業の成果は、「香取市市民協働指針策定基礎調査報告書」(東京大学公共政策大学院、2009年2月)としてとりまとめられている。

また、田口氏による佐原の調査研究として「まちづくりのソフト・ロー研究 ―香取市佐原小野川周辺地区の事例を巡って―」(2009年3月)がある。
http://www.lij.jp/index.phtml?page=sien/list20

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