265 さいき城山桜ホール(日本)

265 さいき城山桜ホール

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265 さいき城山桜ホール
265 さいき城山桜ホール
265 さいき城山桜ホール

ストーリー:

 大分県南部にある佐伯市は人口6万5000人で、県南地域の中核都市である。しかし、佐伯藩以降、歴史や文化の中心地であり、また戦後は商業の中心であった大手前地区は、郊外の大型店進出などにより、空洞化が進み、そこにいかに賑わいを取り戻すかが、佐伯市の大きな政策的課題となった。
 そのポイントとなったのは、佐伯市の象徴的なランドマークであったデパート、寿屋(ことぶきや)の跡地である。寿屋の建物は地上9階地下1階の、市内でもひときわ目立つ建物であった。ここはまた寿屋の創業地でもあった。寿屋は戦後まもなく佐伯市に化粧品店として創業する。1968年に本店を熊本市へと移転するも、1974年には新店舗をここに落成させる。しかし、2002年寿屋が経営破綻し、寿屋佐伯店も休業を経て閉店となる。
 そして、2003年にはこの跡地を対象とした大手前地区市街地再開発事業基本計画が策定される。2006年には佐伯市土地開発公社が旧寿屋の土地を取得し、2010年には大手前開発事業基本構想が策定され、2011年には同事業基本計画が策定される。ただし、その基本計画の策定のプロセスがしっかりと市民に説明されなかったこともあり、この計画に対して市民の反対運動が展開する。そこで、2012年に市長が白紙撤回を表明。このような市民の行政不信状態がくすぶり続け、何をしたらいいか行き詰まった中、住民参加でのまちづくりの手法に長けた福岡大学の柴田久教授に市役所の職員が相談に行く。2013年夏頃である。
 その当時は、市民の市政に対しての不満は相当のものであったのを、柴田氏は丁寧に解きほぐし、市民ワークショップも応募者を選考するようなことをせずに、全員参加させるなどして、徐々に信用を回復し、合意形成を図ることを試みる。合意形成による基本計画案をつくるために、76名の市民と16名の高校生とで「市民会議・高校生部会」を結成し、多様な分野の有識者9名で「大手前開発基本計画協議会」をつくり、1年以上の歳月をかけて議論を重ね、市民が納得した基本計画提案書を作成し、2014年12月に市役所に提出する。そして、市民本位の施設実現へと踏み出した。
 それらをとりまとめた大手前開発基本計画が2015年7月に策定され、2016年5月からは供用開始後の利活用を促進するために、利用者として想定される人々(子育て支援、食育等各種市民団体)から意見を聴取し、同年12月に基本設計完成、管理運営基本計画を策定する。2017年4月には大手前開発事業建築等実施設計が完成する。2017年4月からは管理運営実施計画市民ワークショップを行い、市内全域各公民館(9カ所)で事業説明会を開催した。2018年3月には管理運営実施計画を策定し、プレイベント委員会「わくわく大手前隊」を結成。同年11月に「さいき城山桜ホール」という名称が決定する。2020年8月に竣工する。
 その中核的な複合施設のコピーは「人がいる風景」。建物は都市デザインでいうところの「トランスペアレンシー」(透過性)に優れ、周囲の環境に溶け込み、融合されたかのような工夫がなされている。これは、本施設を設計するプロセスにおいて、住民参加という「透過性」を意識したこととも繋がり、その理念が空間意匠にまで昇華されたかのような印象をも受ける。この透過性の高さによって、施設内の活動が見え、内外の繋がりが生まれている。
 施設内容は大ホール、小ホール、スタジオが5室、食育活動室(キッチン・コート、セミナー・コート)、子育て・子育ち支援室、創作工房、和室、会議室、交流スペース(市民協働センター)である。佐伯市民の日々の暮らしを支え、文化活動を繰り広げられる多様な機能が組み込まれている。その中でも一番の目玉施設は大ホールである。佐伯市には文化会館が存在しているが、耐震性のことを考えると近い将来、閉館せざるをえない。そのような事態に対応できるよう、客席を計算した。しかし、子供の数が少なくなってきたために、成人式のイベントでも現行の文化会館ほどの席数ほどはいらないだろうということでシューボックス形式時では916席、通常は810席とした。
 市民が強く要望したのはキッチン・コート、子育て・子育ち支援室である。佐伯市は、そもそも食育を強力に推進してきた自治体である。2009年3月には「食のまちづくりのための推進条例」(2009年3月)をつくっている。それもあって、食育関係団体が増えてきて、それを街中で実践できればいいね、という話がでてきて、本施設においても「食育」と「子育て」が重要であるということになった。そして、この2つと関係する施設として1階に食育のキッチン・コート、2階に子育て・子育ち支援室である「さくらっ子」を設けた。これらは、施設外から活動内容がよく見える場所に設置している。
 また、周辺との環境とは、広々とした芝生広場により緩やかに繋がるようにしている。この芝生広場には芝生マウンドがつくられているのだが、これは国道への遮蔽効果を意識している。壁などの遮蔽物ではなく、このような柔らかい境界をつくる細やかな配慮によって、その周辺とうまく空間的に調和している。特に感心するのは、バスターミナルの設置である。バスターミナルは当初は、施設の前面道路に設置される計画であったが、それをとりやめて、少し離れた場所にある駐車場に隣接するように設置した。このことによって、施設の前面道路は歩行者モールのように歩行者に優しい空間となっており、この通りに立地する商業店舗とともに、施設に界隈性をもたらしている。駐車場が施設に隣接していないことも、そのような界隈性をもたらすことに寄与している。この界隈性があることで、近年、新たに抹茶カフェなどが立地するようになっている。
 計画段階からの市民参加のアプローチは、開館後も引き継いでおり、自主事業の企画運営を担う「さいき城山桜ホール運営委員会」が市民の代表で組織されている。特に中学生・高校生の意見を十分にくみ取れるようにも意識している。
 さいき城山桜ホールは2021年の国土交通省の「都市景観大賞」を受賞する。陣内秀信審査委員長は総評で次のように述べている。「旧再開発計画の白紙撤回を受け、市民参加を徹底的に推し進め、公共施設づくりを契機にその周辺に魅力あふれる市民の広場を実現したこの貴重な成果は、地方における今後のまちづくりに勇気を与えるに違いない。」
 さいき城山桜ホールの建築面積は3,872㎡、延べ床面積は6,481㎡、地上3階建てである。

キーワード:

市民参加,地域資源,交流施設,アイデンティティ

さいき城山桜ホールの基本情報:

  • 国/地域:日本
  • 州/県:大分県
  • 市町村:佐伯市
  • 事業主体:佐伯市
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:柴田久、久米設計、スタジオテラ
  • 開業年:2020年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 「住民参加がなぜ必要なのか。それをする意義はどこにあるのか」。このような質問に見事に回答してくれるのがさいき城山桜ホールであると思う。
 佐伯市の都市計画では、行政の不手際により、住民の行政への信頼は地に墜ち、もう二進も三進もいけない状況に追い込まれた。そのような中、市民参加という方法論で、市民に下駄を預けることでそれを突破させようとした。そして、そのような方法論でのまちづくりに長けていた福岡大学の柴田久先生にお願いをし、彼のガイダンスの元で、それを進めていくことになる。柴田先生自身も「どこから来てるんだ」みたいな怒号を受けつつ、辛抱強く、丁寧に市民の意見を聞いて、その行政不信をゆっくりと解きほぐしていき、「市民の想い」をかたちにするようワークショップを積み重ねていく。
 さらに、施設がつくられた後も、その運営をしていく佐伯市の考え方を「市民の想いをかたちに」にすることを合言葉としている。それは、佐伯市の施設であっても、運営側の考えではなく、利用者側の考えをなるべく、優先させるというものである。
 具体的にはどういうところか。例えば、貸出施設の利用時間を前後30分延長した開館時間がある。スタジオでの利用が22時までだとしても、ホールの開館時間も22時までだと実質的に22時まで利用できない。類似の公共施設ではそういう形で運営されてきたが、そうすると利用者は22時まで使えずに不便だ。そのような利用者の声を受け止め、貸出施設の利用時間とホールの閉館時間にタイムラグを設けるようにした。
 また、大ホールも小ホールも壁の一部が開閉して、施設に隣接する広場とつながって極めて広々とした空間をつくりだすことができる。これによって、ちょっと大きな屋根のある野外空間のような利用も可能となる。その他にも、大ホール以外は当日でも利用申込みを受け付ける、1時間単位での利用ができる、和室・会議室も楽屋として利用できる、軽い飲食を共用部では可能とする、など利用者目線での施設運営がなされている。
 そして、このように市民主体での設計、運営をした成果は、施設を訪れると実感できる。施設前の芝生広場には子供たちが鬼ごっこのようなことで遊んでいるし、そのベンチにはお母さんが座っている。施設内に入ると、イベントがある時はホワイエとして使われる空間に、高校生達が図書館代わりに勉強するために使っている。キッチン・コートではお母さん達が何か料理をしているようだし、交流スペースでは日本舞踊の披露会の打ち合わせを10名ぐらいの人でしている。そして、佐伯市の職員の方が「大人気」という子育て・子育ち支援室である「さくらっ子」には、多くの幼児が元気に遊んでいる。まさに、ここは市民に愛されて、使われている場所であることが直感で理解できる。
 ただし、この施設の成功は市民参加手法だけがもたらしたものではない。それは、この施設が立地する場所の特性も大いに貢献している。さいき城山桜ホールが建つこの地区は、建物がつくられる以前こそ閑散としていたが、佐伯市のまさに中心であった。それは、象徴的な意味合いだけでなく、公共交通のハブ的な場所でもあったのだ。モータリゼーションの最終形に近いような自動車社会となった日本の地方都市において、公共交通のハブにどのような意味があるかと思われる読者もいるかもしれないが、それは中学生・高校生にとっては極めて重要な意味合いを持つ。地方都市の公共交通の主要交通目的が「通学」であるという状況下では、バスターミナルのそばに、自分達が使いたい施設があれば使い勝手は極めて優れているし、特に用事がなくてもバスの待ち時間にちょっと寄れたりもする。そのような立地特性を考えれば、佐伯市が中学生・高校生の意見を市民参加手法によってしっかりと汲み取ったのは、彼らがこの施設に所属意識を持つようにするためには有効であった。
 佐伯市の人口は7万人を少し割るくらいであるが、旧佐伯市だと4万5千人程度の都市規模となる。そのような人口規模であるが、2006年には2ヘクタールを越える店舗面積の郊外ショッピング・センターが中心部から車で5分ぐらいのところにつくられた。このような状況になったら、5万人も満たない都市の中心市街地が衰退しない訳がない。しかし、衰退してもそこが佐伯市の歴史的中心性であることは変わらないし、どこにでもあるテナントが入ったどこにでもある景観の郊外ショッピング・センターは、その都市のアイデンティティを発現できる訳がない。
 そのような中、寿屋跡地にマンションを中心としたような、佐伯市のアイデンティティや公共性ともほぼ無縁な開発を阻止した市民、そして、その後、市民としっかりと向き合って新たな施設をつくろうとした行政のおかげで、大げさでなく、佐伯市という都市の将来が守られたと私は思うのである。もし、当初の計画がここに実現されたら、佐伯市という都市は人口縮小を極限まで止められなかったのではないかとさえ、大げさでなく思っている。
 さらにいえば、住民参加に長けた先生にしっかりと依頼できたことや、市民の想いをしっかりと空間へと具体化させられる力量を有した設計者に依頼できたこと、また中学生・高校生の意見をしっかりと汲み取ったことも、この素晴らしい施設の具体化に大きく貢献したと考えられる。
 さいき城山桜ホールができただけで、人口縮小する佐伯市の命運が大きく変わる保証はない。ただ、このような施設の優れているところは、人間を育てる役割を担っていることである。この施設があることで、多世代による多様な交流及び活動を推進し、もって市民の豊かな心を育むことができれば、それは人々の佐伯市への愛着や想いを強化することができるであろう。そのような想いこそが、人口減少する自治体に必要なことであり、その将来を形成していく推進力になるのではと思うのである。そのような役割は郊外のショッピング・センターは有していない。
 「住民参加がなぜ必要なのか。それをする意義はどこにあるのか」に対する明解な答えが、このさいき城山桜ホールであると考える。

【取材協力】
佐伯市役所 地域振興部 高橋和孝氏

【参考資料】
国土交通省のホームページ
https://www.mlit.go.jp/toshi/townscape/content/001408114.pdf
「都市の鍼治療」特別インタビュー 柴田久
http://www.hilife.or.jp/cities/data.php?case_id=9007

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