177 ペイリー・パーク(アメリカ合衆国)

177 ペイリー・パーク

177 ペイリー・パーク
177 ペイリー・パーク
177 ペイリー・パーク

177 ペイリー・パーク
177 ペイリー・パーク
177 ペイリー・パーク

ストーリー:

 ペイリー・パークはニューヨークのマンハッタンのミッドタウンの超高層ビルに囲まれたオフィス街にオアシスのように存在する。53番街のマディソン・アベニューとフィフス・アベニューの中間にある。この1967年に設計された13メートル×30メートル、わずか390㎡にしか満たない小公園は、しっかりと管理された私有地における公共空間の好例である。
 アメリカの三大テレビ放送局の一つであるCBS会長のウィリアム・ペイリーが構想し、100万ドルの私財を投じてつくったものである。その空間意匠の具体的なディテールにまで指示を与えてつくった広場である。ペイリーの構想を受けて、設計をしたのはランドスケープ・アーキテクトとして高名なロバート・ザイオンである。若干、道路より高くつくることで、その空間の差別化を意識している。公園には7メートルほどの滝が設置されている。その水量は、1分あたり6814リットルという大量のもので、園内にはマイナスイオンが溢れている。
 この公園は道路に面する部分が狭い細長い長方形の形状をしており、道路と反対側に滝があり、その両脇にある壁は、緑色のツタに覆われている。また、17本のニセアカシアの木々が木漏れ日と木陰をこの公園に供している。さらに、金網でつくられた椅子とテーブルが置かれているため、この公園で座って、ボーッとしたり、本を読んだり、食事をしたり、またラップトップ・コンピューターで仕事をしたりすることもできる。
 この場所は、1966年まではストーク・クラブという多くのセレブリティを顧客とするナイトクラブが営業していた。ちょうど、1960年代中頃からニューヨーク市の公園協会や建築家連盟が、マンハッタンの空き地に小公園をつくることなどを提案していたので、このナイトクラブが解体された跡地をペイリー・パークにすることにした。ペイリー・パークの設計者であるロバート・ザイオンは、このマンハッタンの空き地に小公園(ポケット・パーク)をつくることの主唱者でもあった。
 管理はウィリアム・ペイリー・ファンデーション(財団)が行っている。

キーワード:

ポケット・パーク, 公園, 公共空間, 広場

ペイリー・パークの基本情報:

  • 国/地域:アメリカ合衆国
  • 州/県:ニューヨーク州
  • 市町村:ニューヨーク市
  • 事業主体:William Paley Foundation
  • 事業主体の分類:民間
  • デザイナー、プランナー:Robert Zion, William Paley
  • 開業年:1967

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 『都市の鍼治療』の著書の中でもジャイメ・レルネル氏は、このペイリー・パークを小さな鍼治療としての好例として紹介している。
 ペイリー・パークはマンハッタンの摩天楼のまっただ中にある。注意をしていないと歩いていても見過ごしてしまうような小さな、小さな空間である。そして、マンハッタンの喧噪の中にあるのだが、ひとたびこの空間に入るとその喧噪が気にならない。これは、ペイリー・パークに設けられた滝のせいである。滝の音によって、それらが打ち消されてしまい、むしろ静寂の中にいるような気持ちにさせられる。松尾芭蕉の「閑さや岩にしみ入る蝉の声」の句を彷彿させるような空間である。また、ほどよい高さのニセアカシアの木々が、周辺の高層ビルの高さを意識しないで済むようにしている。時間に追われるオフィス・ワーカー達が自分を取り戻すような癒しの広場として、この空間は機能している。それは、都市の人々を集わせ、交歓させるような広場ではなく、むしろ個人を取り戻すような役割を担っている広場ともいえる。
 興味深いのは、このような小さな空間ではあるが、しっかりと守衛が治安を維持することである。守衛の待機室は道路側からは一切見えない。このようなサービスが提供されているのは、治安に対しての不安を払拭させなくては、人々の公共空間利用を促すことが難しかったからであろう。
 このような空間が提供されることで、マンハッタンのクオリティ・オブ・ライフが大きく向上していると思われる。それは、都市の魅力の向上にも通じる。大きな公園をつくる必要はない。このような300㎡ぐらいのスペースを素晴らしい意匠でつくりあげることによって、まさに鍼治療のように都市のアメニティが大幅に改善されるのだ。日本の都市でも駐車場としても狭いぐらいのスペースである。駐車場をつくるのではなく、このペイリー・パークをつくろうという気概のある地主が登場することで、都市の魅力もアップするのではないかと思われる。

類似事例:

042 バターシー・スクエア
102 観塘工業文化公園
113 クレーマー橋
129 サン・ホップ公園
176 ブライアント・パークの再生事業
185 グリーンエイカー・パーク
226 ハウザープラッド
・ パイオニア・スクエア、シアトル(ワシントン州、アメリカ合衆国)
・ ケラー・ファウンテン公園、ポートランド(オレゴン州、アメリカ合衆国)
・ バルフォア・ストリート・パーク、シドニー(ニューサウスウェールズ州、アメリカ合衆国)
・ 代官山アドレス、渋谷区(東京都)
・ ジャーディン・エディス・ラミレズ・サンチェス、メキシコ・シティ(メキシコ)
・ ポラリス・ファンダース後援、コロンビア(オハイオ州、アメリカ合衆国)
・ ドイチェ・バンク・プラザ、ニューヨーク(ニューヨーク州、アメリカ合衆国)
・ ヴェリゾン・ポケット・パーク、ニューヨーク(ニューヨーク州、アメリカ合衆国)
・ コンチネンタル・イリノイ・ビルディング、ニューヨーク(ニューヨーク州、アメリカ合衆国)
・ セオドラ・パーク、チャールストン(サウスカロライナ州、アメリカ合衆国)
・ クラウド・ガーデンス、トロント(オンタリオ州、カナダ)
・ シーグラム・プラザ、ニューヨーク(ニューヨーク州、アメリカ合衆国)
・ ファースト・ナショナル・バンク・プラザ、シカゴ(イリノイ州、アメリカ合衆国)