129 サン・ホップ公園 (カナダ)
ストーリー:
ヴァンクーバーの都心部から南へ向けて走る幹線軸であるメイン・ストリート。ほぼ直線なのだが、18番街と交差するところで、ちょっとクランクのようにずれるところがある。そのずれるところに生じた場所はパーム・デイリー・ミルク・バーといった飲食施設が立地していたのだが、それが閉店したのを契機として、ここは交差点の右折レーンとして整備された。ただ、この右折レーンとして自動車のためだけにこの空間をつくるのはもったいないとヴァンクーバー市が判断し、右折レーンをつぶして、ちょっとしたポケットパークのような広場を整備した。
そこは、東西約30メートル、南北約70メートルの細長い三角形の形状をしたスペースであるが、その狭さを否定するかのように、広大な曲線状のベンチが置かれ、また平坦な地形に変化をもたらすために中央に盛り土をした丘をつくり、舗装などの意匠にも工夫を凝らした。そして、交通量の多いメイン・ストリートとは透視性を確保しつつ、植栽によって空間的連続性をうまく遮断させることに成功している。そして、真っ赤な京都の稲荷神社を彷彿させるような鳥居のようなストリート・ファーニチャー(これはどうもストローをモチーフにしているそうだ)を設置することで、小さいながらも主張の強いランドマーク的な性格を帯びさせることにも成功させている。そして、それは東ヴァンクーバー地区のちょっとした歴史に対してのお洒落心に溢れた敬意を表現してもいるのだ。
ここをデザインした地元のランドスケープ事務所Hapaは、市民参加のデザイン・プロセスを重視し、雨水管理や街路樹の保全などもしっかりと考えたうえで、この小さいながらも山椒の小粒のようにぴりりとイケている公共空間をつくりあげることに成功した。
この公園はミッド・メイン公園(Mid Main Park)という平凡すぎる名前がつけられていたが、2017年5月に1923年に開業した近くの中華系のよろず屋の店名を取り、サン・ホップ公園と改名された。
キーワード:
都市デザイン,広場
サン・ホップ公園 の基本情報:
- 国/地域:カナダ
- 州/県:ブリティッシュ・コロンビア州
- 市町村:ヴァンクーバー市
- 事業主体:ヴァンクーバー市
- 事業主体の分類:自治体
- デザイナー、プランナー:Hapa
- 開業年:2012年
ロケーション:
都市の鍼治療としてのポイント:
サン・ホップ公園は、本当に小さな公園である。名称は公園ではあるが、実際は広場と呼んだほうがいいような空間である。それは小さいながらも、単調なメイン・ストリート、そして画一的なこの地区の郊外的景観に素晴らしいアクセントをもたらすことに成功している。
この公園の特筆すべきところは幾つかあるが、まずはこの小さい空間をランドスケープ・デザインによって最大限に活かしていることだ。真ん中にちょっとした土盛りをすることで空間を文節化し、小さい中にも変化をもたらしつつ、一方でベンチはおどろくほど長い弧状のものにするなどしてスケール感を演出している。
さらに伏見稲荷大社の鳥居を彷彿させるような強烈なオブジェを設置したり、犬のオブジェを空中に置いたりすることで、空間としてのアイデンティティ的な性格付けを上手くしている。アイスクリーム屋が1980年代に閉店した後、この空間は18番街を右折するためのレーンが設置されていた。このレーンの空間を市役所が潰すと判断したことで、この豊かな公共空間が生まれた。右折レーンがなくなることで、多少、ドライバーは不便を被るかもしれないが、この空間が生じたことのプラスの方が社会的には遙かに大きいものがあったであろう。
ヴァンクーバーはアメリカの諸都市ほどではないが、それでも日本やヨーロッパに比べれば自動車優先型の都市づくりを推進してきた。そのような都市づくりに疑問を呈し始めたのが、アメリカのニューヨークやシアトルであり、2000年代の後半頃からである。このヴァンクーバーの動きも、自動車から人へと都市の貴重な空間を取り戻す、極めて小さいけれども、大きな一歩であると考えられる。まさに効果覿面(てきめん)の「都市の鍼治療」事例ではないだろうか。
類似事例:
176 ブライアント・パークの再生事業
177 ペイリー・パーク
185 グリーンエイカー・パーク
226 ハウザープラッド
・ パークレット・プログラム、サンフランシスコ(カリフォルニア州、アメリカ合衆国)
・ プラカ・デル・レイ、バルセロナ(スペイン)
・ マルクト広場、ゴスラー(ドイツ)
・ パイオニアコートハウス・スクエア、ポートランド市(オレゴン州、アメリカ合衆国)