170 ヴィア・スパラーノ(Via Sparano)の改修事業 (イタリア共和国)

170 ヴィア・スパラーノ(Via Sparano)の改修事業

170 ヴィア・スパラーノ(Via Sparano)の改修事業
170 ヴィア・スパラーノ(Via Sparano)の改修事業
170 ヴィア・スパラーノ(Via Sparano)の改修事業

170 ヴィア・スパラーノ(Via Sparano)の改修事業
170 ヴィア・スパラーノ(Via Sparano)の改修事業
170 ヴィア・スパラーノ(Via Sparano)の改修事業

ストーリー:

 イタリアのプーリア州の州都であるバーリ。人口約32万人、大都市圏人口では130万人を擁する、アドリア海沿いの南イタリアの地方中核都市である。この都市の構造は大きく4つに分かれ、一つは海側にある昔からの集落がある旧市街地区で11世紀につくられた教会などが現存する。そして、その南側にはナポリ王国のジョアシャン・ミュラ王によって19世紀初めに整備された「ミュラ地区」があり、これが現在の都心部となっている。それは、格子状の区画であり、二つの商業軸が設置された。その後、1960年代に都市の拡張とともに都心部の周縁部に市街地が形成され、さらにその周縁部に1990年代になって郊外部が開発された。

 ヴィア・スパラーノは、上記のミュラ地区にある商業軸の一つであり(もう一つはヴィア・アルジーロ)、中央駅と旧市街地区の入り口とを直線で結ぶ、まさにこの都市における象徴的な空間である。800メートルの歩行者専用空間が伸び、沿道には19世紀の重厚なる歴史的建築物が建ち並ぶ。これらの建物の一階は商店が入っており、世界的なブランド・ショップから地元の老舗的名店までが軒を連ねている。まさにバーリ市民の居間のような公共空間である。とはいえ、そこには座る場所がほとんどなく、また軽犯罪の起きることもあり、必ずしも人々が安心して快適に使えるような空間ではなかった。

 そこで、このスプラノ通りの歩行快適性・安全性を大きく向上させるために2017年1月から改修事業が行われ、2018年12月に完成した。まず、防犯措置として、45の防犯カメラが設置された。特に交差点においては、死角がないように4つのカメラが置かれている。これらは防犯という観点からはもちろんだが、人々の不安を解消することが意図されている。これらのカメラは地元の警察のオペレーション室に直結しており、何か問題があったら警官が直行するようになっている。

そして、照明の輝度が20ルクスから40ルクスまで向上された。バリアフリーも徹底され、それまであった段差はなくなり、交差する歩道ともレベルを同じにして、身障者も安全に通行できるようになった。また、交差点には交差した道路側にちょっとした荷物の積み卸しや障害者のための駐車スペース、さらに自転車、オートバイの駐輪スペースが設けられている。加えて、ワイヤレスのWifiサービスが提供され、電源なども各所に設置されている。イベント時に活用できるスピーカーも20個ほど設置された。

そして何より、人々が座れる機会を多く提供した。これは、ここが都市の居間のように、人々が交歓できる場として機能することを期待したからである。改修以前は、この街路で座って話す場はほとんどなかったが、改修後はあちらこちらに座っておしゃべりをするような機会が提供されている。
この事業を遂行したデカロ市長は、この街路の改修事業は「バーリ市のこの数年で、規模や予算面が最大という訳ではないが、もっとも市民にとっては重要な事業である」と述べている。

キーワード:

歩行者街路

ヴィア・スパラーノ(Via Sparano)の改修事業 の基本情報:

  • 国/地域:イタリア共和国
  • 州/県:プーリア州
  • 市町村:バーリ市
  • 事業主体:バーリ市役所
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:アントニオ・デカロ市長(Antonio Decaro)
  • 開業年:2018年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 バーリは治安が決してよいとは言えない。治安がよくないと人々は公共空間に不安を覚え、あまり近寄らなくなる。公共空間の魅力をつくりだすのは、そこに多くの人が滞在していることが必要条件である。そのため、デカロ市長は、この「バーリの居間」と呼ばれる中心街路に人が安心して、そして快適に過ごせるための仕掛けをつくりあげた。ジェイン・ジェイコブスが名著『アメリカ大都市の死と生』で指摘しているように、人が来ることによって、その公共空間はより安全になるのだ。

 それにしても、800メートルの街路に45の防犯カメラを設置するというのは、相当の用心深さである。これは20メートルごとに1つ以上という多さだ。これについては監視社会の弊害も指摘されるかもしれないが、バーリの治安の悪さを考えると、公共空間の活用を促すためには致し方ない措置とも考えられる。実際、19世紀につくられた建物群をファサードに有するこの街路を歩くと、バーリという都市で生活することの豊かさ、そして楽しさのようなものを感じることができる。1947年生まれのバーリの映画監督そして俳優であるdi Vito Signorileは、改修した後のヴィア・スパラーノは「それまで見たことないほど多くの人で溢れている」と新聞のエッセイに書いている。

 どんなに素晴らしい公共空間があっても、それが使われなくては宝の持ち腐れである。そういう点では、このバーリのヴィア・スパラーノのプロジェクトは、まさに「都市の鍼治療」的な鋭いアプローチなのではないかと思われる。
 
【参考資料】
La Gazzetta del Mezzogiorno (2018年8月29日の記事)
https://www.lagazzettadelmezzogiorno.it/news/bari/1051585/bari-la-nuova-via-sparano-piu-sicura-innovativa-e-agibile-per-tutti.html
La Gazzetta del Mezzogiorno (2018年12月05日の記事)
https://www.lagazzettadelmezzogiorno.it/news/bari/1088112/via-sparano-a-bari-si-scopre-il-cantiere-e-ormai-chiuso.html

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