145 エディブル・ウェイ (日本)

145 エディブル・ウェイ

145 エディブル・ウェイ
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145 エディブル・ウェイ

145 エディブル・ウェイ
145 エディブル・ウェイ
145 エディブル・ウェイ

ストーリー:

 千葉県の松戸市にあるJR松戸駅から千葉大学のある松戸キャンパスまでの、いわば大学生達の通学路。この1キロメートルほどの通学路に沿って、「Edible Way」というロゴと大きな葉っぱが印刷された黒い布でつくられたプランターが住宅の前や空地のスペースに点々と置かれている。Edibleとは、英語で「食べられる」を意味する形容詞である。Wayはそのまま「道」でもあるが、「方法」という意味も有する。つまり「Edible Way」、カタカナで書くと「エディブル・ウェイ」とは「食べられる道」もしくは「食べられるやり方」という意味を持つ。
 このように通学路に沿って、そのようなプランターが置かれているのは、同大学の園芸学研究科の木下勇地域計画学研究室が、「食べられる景観(エディブル・ランドスケープ)」づくりの事業の一環として取り組んでいるからだ。木下教授は、「食べられる景観がひとのつながりづくりに貢献する」という考えのもと、地先の園芸に注目し、私的な営みながらも公的な町並みづくりにも貢献しているこの試みをさらに、「食べられる植物」にしてもらい、エディブル・ランドスケープづくりを進めることにしたのである。
 沿道の住民の多くは、千葉大学の園芸学部のそばに住んでいることもあって、園芸に親しみがある。プランターを設置しようというアイデアは木下研究室の大学院生、江口亜維子氏が発案した。千葉大学の修士生であった時、東日本大震災を経験したこともあり、木下先生が言う「食べられるランドスケープ」がいざという時にコミュニティの安全弁になるだろうとの考えと、駅から大学までの道のりを緑の回廊にしたらプレイス・メーキング的な試みに繋がるとの考えから出てきたアイデアである。
 そして、ある財団から助成を受けることができたこともあって、布のプランターを購入する。布のプランターにしたのは、もし怒られたとしても簡単に動かせるからである。木下研究室は10年間ほど、「みんなの庭」というコミュニティ・ガーデンを運営してきた実績があり、住民からの信頼があったので、「エディブル・ウェイ」も徐々にではあるが、肯定的に地域に受け入れられつつある。
 2018年1月時点で、47世帯。合計100近いプランターが設置されている。住民は費用の負担はしないが、管理はすべて任されており、育った野菜等はもちろん勝手に食べることができる。土の管理などが難しい高齢者は学生達が助けている。
 これらの活動結果として、ゆるやかなコミュニティを形成するうえでは資することができたと江口さんは捉えている。また、園庭がない保育園にもプランターを設置してもらったのだが、園児が植物や、その植物目当てに来る昆虫などに親しみをもつきっかけづくりにもなったそうだ。
 さらに、このエディブル・ランドスケープを地域のひとのつながりづくりへと展開させるために、地元の「株式会社まちづくりクリエイティブ」と「株式会社あゆみリアルティーサービス」がその活用に取り組んでいる空き家で、このプランターで育った収穫物をみんなで食べるプロジェクトなども展開している。

キーワード:

環境共生,コミュニティ,エディブル・ガーデン,市民参加,地域協働,都市農園

エディブル・ウェイ の基本情報:

  • 国/地域:日本
  • 州/県:千葉県
  • 市町村:松戸市
  • 事業主体:千葉大学園芸学部木下勇研究室
  • 事業主体の分類:大学等教育機関
  • デザイナー、プランナー:木下勇、江口亜維子
  • 開業年:2016年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 エディブル・ランドスケープという言葉を初めて耳にしたのは、カリフォルニア州のデービスにある実験的住宅開発地ヴィレッジ・ホームズを訪れた時であった(都市の鍼治療事例no.89)。ヴィレッジ・ホームズでは果物が食べられる木(林檎や桃など)を積極的に街路樹などにも使うなどしており、その斬新なアイデアに興味を惹かれたことを覚えている。
 今回、千葉大学の木下研究室が発案したエディブル・ウェイを取材し、木下先生もエディブル・ランドスケープという概念をヴィレッジ・ホームズで知ったことが判明した。ただ、私と木下先生との違いは、知った後、それを日本というフィールドで実践しようと考えてしまうことだ。私は大学のある地元の商店街と一緒にゆるキャラをつくったり、カフェを開業したりはしたが、エディブル・ランドスケープを実践してしまおうとは想像の外である。造園学科の先生ならではの発想であろう。
 また、このエディブル・ランドスケープを実践するうえで後押しをしたのが東日本大震災であった。東日本大震災のような大災害が関東地方を襲ったら、その震災自体を生き延びても、その後をサバイバルしていくことには相当の困難が伴う。特に飲料水と食料の確保が、生存していくうえでは不可欠になるだろう。そこで、自分達の前庭に植わっている、もしくは花壇に植えてある植物が食べられれば、少しはプラスになるだろう。そのような意識を木下研究室の学生達は考えたそうである。
 とはいえ、そのような切羽詰まった考えを住民に押しつけるようなことはしていない。あくまでも柔軟に、邪魔になったらプランターを移動すればいいぐらいの気持ちで協力を仰いだ。幸い、千葉大学造園学部が存在していたことから、造園に対しての理解があったことが多くの協力者を獲得したことに繋がる。
 柔軟な大学の先生と、若さゆえのエネルギーと楽観主義を持つ学生達がうまく連携することで、単に景観を改善するだけでなく、社会的にも意味のあるようなプロジェクトがボトムアップで展開している。興味深い「都市の鍼治療」的プロジェクトであると考えられる。

【取材協力】 江口亜維子
【参考Homepage】
https://www.facebook.com/edibleway/
http://localnippon.muji.com/news/2905

類似事例:

030 エコロニアの環境共生まちづくり
089 ヴィレッジ・ホームズ
090 デッサウ「赤い糸」
・ ケントランド、メリーランド州(アメリカ合衆国)
・ ファウバーン、フライブルク(ドイツ)
・ りんご並木、飯田市(長野県)
・ 大阪ふれあい港館、大阪市(大阪府)
・ 宮代町進修館、宮代町(埼玉県)