089 ヴィレッジ・ホームズ (アメリカ合衆国)

089 ヴィレッジ・ホームズ

089 ヴィレッジ・ホームズ
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089 ヴィレッジ・ホームズ

089 ヴィレッジ・ホームズ
089 ヴィレッジ・ホームズ
089 ヴィレッジ・ホームズ

ストーリー:

 ヴィレッジ・ホームズは、カリフォルニア州北部の大学都市デービス市の環境共生型コミュニティであり、1973年ごろから建設が開始された。その敷地面積は28ヘクタールと決して大きくはない。しかし、周辺の広い道路や大きな庭をもつカリフォルニアの典型的な住宅地とは極めて対照的に、道路は狭く、しかも家の玄関は道路に面してなく、家の境界には塀が設けられていない。代わりにコミュニティ内を歩行者用の道路がつくられており、家々の玄関はこの歩道に面している。そして、共同菜園を始めとしたオープンスペース、児童公園などのコミュニティ・スペースが充実している。ほとんどの家がソーラーシステムを設置しており、雨水処理を敷地内で行えるように排水溝はコンクリートではなくむき出しの土のままである。また、コミュニティとして食糧を自給するための市民農園が整備され、そして街路樹も果実が食べられる木が選ばれ、エディブル・ランドスケープがつくられている。
 開発当時は環境共生やサステイナブルといった概念は一般的ではなく、マイケル・コーベットは自立型のコミュニティをつくることを強く意図していたが、その後、サステイナブル・コミュニティの先駆けとして大いに注目されることとなった。実質的には3人でヴィレッジ・ホームズのプロジェクトは遂行された。マイケル・コーベットがデザイン、計画、そして建設施行までを実施した。そして、当時マイケル・コーベットの妻であったジュディがインテリア・デザインや共有地の管理システム、プロジェクトの社会的問題の検討を担当し、さらにジョン・クラインというライターが市役所の職員を説得するための報告書作成を担当した。
 開発当初は、銀行が相手にしてくれなかったために、事業を推進するうえでの資金繰りに大いに苦労したそうであるが、現在ではこのコミュニティに住みたい人が多く、不動産価値はデービス市の中でも最も高い部類に属してしまっている。環境に優しい住宅は、結果人々の生活満足度をも高くすることに繋がることがヴィレッジ・ホームズの事例からは理解できる。

キーワード:

環境共生,住宅地,コミュニティ

ヴィレッジ・ホームズ の基本情報:

  • 国/地域:アメリカ合衆国
  • 州/県:カリフォルニア州
  • 市町村:デービス市
  • 事業主体:タウン・プラナー
  • 事業主体の分類:民間
  • デザイナー、プランナー:マイケル・コーベット、ジュディ・コーベット
  • 開業年:1975年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 カリフォルニア大学デービス校のマーク・フランシスが著した『ヴィレッジ・ホームズ』という本がある。その中で、「デービスが環境都市として有名になったので、世界中から視察しに人が訪れるが、それほど特別なものがないので多くの人が肩すかしを喰らう。しかし、彼らの期待に確実に応えるものがある。それはヴィレッジ・ホームズだ」という記述がある。それは、ヴィレッジ・ホームズが、人々が環境都市に期待しているものを見事に体現しているからであろう。
 北カリフォルニアに住んでいたこともあり、ヴィレッジ・ホームズにはよく行った。設計者のマイケル・コーベットにも取材をして、本にまとめたことがある(『衰退を克服したアメリカ中小都市のまちづくり』学芸出版社)。そういう点から、日本人としては、相当のヴィレッジ・ホームズ通なのではないかと自負しているが、行くたびに新たな発見がある。これは、それだけ奥が深いということもあるが、このコミュニティが日々、進化しているからでもあると思われる。
 ヴィレッジ・ホームズで印象に残るのは、そこで生活している人々が、周辺の自然環境と共生していることが感覚的に理解できることである。まず、子供達が子供のように外で遊んでいる。住宅地が子供達を社会化させるうえで、しっかりとその役割を果たしている。住宅の市有地を削って、その分、公有地を増やした。その最大の成果であるローン(芝生)のゆとりある空間がつくりあげる豊かさ。コミュニティの豊かさは、この公共空間の質がもたらすのである、ということをヴィレッジ・ホームズに来ると改めて理解する。
 これは、何も住宅地でなくて都市レベルでもそうである。クリチバの元市長であるジャイメ・レルネルはそういうことをしっかりと理解している。逆に、私がどうしてもお台場や豊洲といった日本の錚々たる都市計画家が設計した新たな都市空間が好きになれないのは、豊かな公共空間を創造しようとする意思が見受けられないからなのである。土地利用の有効活用といったお金の指標に振り回されすぎており、結局、大規模商業施設、オフィス向けの高層ビル、そして高層マンションが、お互いの相互連携が図れないような状態でどんどんと造られている。そこには新たに土地を埋め立てでつくりだして儲けよう、という考えしか読み取れない。真に豊かな都市をつくりあげるためには、そして都市空間を豊かにしようとするには、公共性を豊かにすることが重要であり、そのための公共空間の質を高めることが必要なのである。ヴィレッジ・ホームズはコミュニティの真ん中にコミュニティ・センターとプール、そして芝生を置いた。これは、「都市の鍼治療」の中の鍼治療ともいうべき鋭いデザインである。この中央に一番、重要な広大なる公共空間を置いたこと。これがヴィレッジ・ホームズのまさに肝というべき見事なデザイン解決法であると考える。

類似事例:

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207 長門湯本温泉の再生マスタープラン
210 ウエスト・ポンド
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