111 ハッピー・リッツィ・ハウス (ドイツ連邦共和国)

111 ハッピー・リッツィ・ハウス

111 ハッピー・リッツィ・ハウス
111 ハッピー・リッツィ・ハウス
111 ハッピー・リッツィ・ハウス

111 ハッピー・リッツィ・ハウス
111 ハッピー・リッツィ・ハウス
111 ハッピー・リッツィ・ハウス

ストーリー:

 ハッピー・リッツィ・ハウスはドイツの中堅都市ブランシュヴァイクの都心部にある漫画のようなイラストが描かれた家の集合体である。アメリカ人のイラストレーターであるジェームス・リッツィが2001年に放置されていた公爵の住居跡地に、人目に付くようなユニークな建物をつくることで、残された古い建物を保全することを意図したプロジェクトである。
 ジェームス・リッツィが描いたスポンジ・ボブのような過激な描写のイラストは、その色彩も派手で大変、目立つ。しかし、そのスケールがほどよく、違和感や不快感は不思議なことに与えない。
 リッツィ・ハウスのアイデアは、ジェームス・リッツィとギャラリー店主であるオラフ・ジェシュケ氏との対話から始まった。そして、ブラウンシュバイク市がプロジェクトに許可を出し、建築家であるコンラッド・クロスターがそのアイデアを二年間で具体化させた。構造設計そして材料において、当時は革新的な建物であった。外壁はメンブレンに印刷されたものであり、このポップ・アートのイラストは発光性があるような見映えがする。
 ただし、これがつくられた当初は若者にこそ受け入れられたが、高齢者は顔をしかめたという。そもそも、この建物を建設するというアイデアに反対していた人が少なからずいる中、マグニ地区という歴史建築物を復興させる地区に立地させることにはさらに反対が強かった。マグニ地区とデューカル広場は第二次世界大戦中の1944年、連合軍による爆撃で破壊された。マグニ地区は、ブラウンシュバイク市において伝統的な木組みの歴史建築物を復興させる5つのプロジェクト地区の一つに指定されている。そのような歴史的地区に、この斬新すぎる建物をつくるというアイデア自体、不快なのに、それが許可されるというのは耐えられないという人も少なくなかった。
 ただし、さらに道路を隔てて隣接しているブラウンシュバイク城の改修工事が2007年に終わり、都心部がこのマグニ地区へとシフトされた現在、歴史建築物の中でリッツィ・ハウスは一際目立っており、それはもはやブラウンシュバイク市のアイコンにまでなっている。時間が経ち、人々が馴れ始めたことや、観光名所が少ない同市の数少ない観光地となったこともあって、徐々に市民は受け入れるようになっている。
 2017年3月、この建物はニューヨーカーというアパレル企業のマーケティング関連事業を展開する事務所として使われており、中に入ることはできない。しかし、窓から中を覗くと、建物内部もリッツィ・ハウスのおかしな意匠などがされている。リッツィ・ハウスの保全管理は民間からの寄付金等に依存している。

キーワード:

歴史保全, アイデンティティ, シンボリズム, ジェームス・リッツィ

ハッピー・リッツィ・ハウス の基本情報:

  • 国/地域:ドイツ連邦共和国
  • 州/県:ニーダー・ザクセン州
  • 市町村:ブラウンシュバイク市
  • 事業主体:James Rizzi
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:James Rizzi、Konrad Kloster(建築)
  • 開業年:2001年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 ハッピー・リッツィ・ハウスは都心部のど真ん中に位置している。城から道を隔てた一角に立地しているのだ。もの凄い存在感で、探すのに苦労するかもしれないという心配は一蹴された。
 都市において建築は一つの記号である。その建築の特徴について、ロヴァート・ヴェンチューリはその著『Learning from Las Vegas』において極めて鋭く指摘した。そして、その特徴を非常に上手く具体化させている建築家がザハ・ハディドやフランク・ゲーリー、ヘルツォーク&ド・ムーロンなどであろう。このリッツィ・ハウスは、その看板性という記号をより特化させた建物であり、目立つという点に関しては図抜けている。ただ、それがいわゆる看板とは違い、不快感をもたらせない。これは、まず商業主義的な側面がほとんどなく、芸術的な作品として捉えられるようにデザインが徹底しているからであろう。また、この建築をそもそもつくるきっかけは周囲の歴史建築物を保全することであったが、歴史建築物と対極にあるような建物にすることで、それらが逆に映えているという面白い効果も発揮している。そして、それはブラウンシュバイクという都市が、歴史と未来を共存させる理念を有していることを発信しているのである。
 ジェームス・リッツィは2011年に亡くなられた。アメリカのバンド「トム・トム・クラブ」のファースト・アルバムのデザインなどを手がけたアーティストは、ドイツの地方都市において、その都市の顔ともいうべき空間を創出することに成功した。都市のイメージを大きく刷新したという点では、注目すべきプロジェクトであろう。

類似事例:

051 ホートン・プラザ
081 フンデルトヴァッサー・ハウス
286 ポティの壁画
305 遷都1000年記念モザイク壁画
・ セントロ・ショッピングモールの天蓋、オーバーハウゼン(ドイツ)
・ カサ・ミラ、バルセロナ(スペイン)
・ ユニヴァーサル・ウォーク、ロスアンジェルス(アメリカ合衆国)
・ グアナファトの歴史地区、グアナファト(メキシコ)
・ ラ・ボカ地区のカミニート、ブエノスアイレス(アルゼンチン)