308 ヴロツワフの小人(ポーランド共和国)

308 ヴロツワフの小人

308 ヴロツワフの小人
308 ヴロツワフの小人
308 ヴロツワフの小人

308 ヴロツワフの小人
308 ヴロツワフの小人
308 ヴロツワフの小人

ストーリー:

 ヴロツワフはポーランドで四番目に人口が多く、2022年の人口は67万人であり、周辺の都市まで含めた大都市圏では125万人ほどを擁する。ポーランドの南西のシレジア地域に位置し、市内をオーデル川が流れる。ヴロツワフは当地域の重要都市であり、1000年もの歴史を有する。第二次世界大戦まではドイツに属していたが、戦後はポーランドに属するようになった。その結果、100年前はドイツ人が98%、ポーランド人が2%という人口構成は現在では逆転し、ポーランド人が98%、ドイツ人が2%となっている。そして、この都市がドイツであったと想起させる看板、文字等は撤去された。
 1982年の戒厳令下で、ヴロツワフでも他のポーランドの都市のように反共産主義の地下組織が設立する。これらの運動はポーランドの経済改革へつながり、市場開放をもたらすことになる。そして、この代表的な地下組織のオレンジ・オルターナティブのシンボルが小人であった。オレンジ・オルターナティブは、反共産運動の一環として、建物の壁に小さく小人の絵を落書きすることで共産党を批判するという活動を行った。
 現在、市内のあちこちに置かれている小人像はそのような歴史的な活動を記念するために、2001年から始まった。最初の像は反対運動に参画した者がよく集会していたスイドニカ通りに置かれた。これは、パパ小人と呼ばれ、人の指の上にちょこんと立っている。2003年に当時のヴロツワフ市長が、このような像を市内のあちこちに設置することを企画した。そして、実際に設置され始めたのは2005年からである。最初の5つの像は地元の作家トーマス・モチェックによってデザインされた。
 現時点では、この小人像は全市 (一部、市域を越えたところにも置かれている)で800数を越えるまで増殖している。これらの小人は20センチから30センチと決して大きくなく、それぞれ皆、異なったキャラクター、異なった服装をしている。そのキャラクターはカウチ・ポテト、ミュージシャン、盲人、囚人、セルフィーを取っている者、などまさに多彩である。これらの小人は市のイベントに関連してデビューしたりもする。ヴロツワフ市がバリアフリー・キャンペーンを実施した時には、盲目と唖の小人がつくられた。
 このヴロツワフの小人を祝福するお祭りが毎年9月に開催される。

キーワード:

アイデンティティ,パブリック・アート

ヴロツワフの小人の基本情報:

  • 国/地域:ポーランド共和国
  • 州/県:ドルヌィ・シロンスク県
  • 市町村:ヴロツワフ
  • 事業主体:ブロツワフ市役所
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:トーマス・モチェック 他
  • 開業年:2005年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 ヴロツワフ市は歴史的に非常に複雑な立ち位置にある。それは、ポーランド王国の都市として始まったが、その後、ボヘミア王国、ハンガリー、ハプスブルク家、プロシア、そしてドイツと変遷した。そして1945年にはポーランドに属することになる。戦前はポーランド人の人口は2%であったが、現在は98%である。多くの住民が、この都市の豊穣なる歴史とは関係ない。そのような都市においてアイデンティティづくりはなかなか難しい。なぜなら歴史を有してはいるが、その歴史が、現在、そこに住んでいる人たちとは直接関わりがなく、そのためにその歴史的アイデンティティがシビック・プライドの醸成になかなか結びつかないからである。そのような中、この小人の銅像は、ソ連の共産主義下への抵抗、というほとんどのヴロツワフ市民が共有し、それにシビック・プライドを持つ歴史的イベント(ソリダリティ運動)を象徴しており、それはヴロツワフ市民が維持するアイデンティティとなっている。このような象徴を都市づくりに使うことで人々の都市への帰属意識を高めることができるだろう。
 また、この小人の彫刻は観光都市ヴロツワフにとっても極めて、効果的な仕掛けとして機能している。小人は市内に800以上も散らばっている。これらの小人は、目立つようなところにいないので、しっかりと目を凝らさずに歩いていると見落としてしまう。しかし、注意をして街中を歩いていると見つけることができる。結構、意外なところにいるので見つけると嬉しくなる。これらは、徒歩でする観光に気の効いたスパイスのような役割をもたらす。決して、主食ではない。しかし、箸休めとしては絶妙である。そのキャラクターはヴロツワフの戦後の歴史を象徴しているだけでなく、最近、新たにつくられたものは観光客や最近の若者を軽く揶揄したようなものもあり、ちょっと辛口だったりもする。しかし、その辛さが効いた風刺的要素が面白かったりもする。ウィットに富んだ都市の鍼治療事例であると考えられる。

【参考資料】
ヴロツワフ市観光局の資料
https://visitwroclaw.eu/wroclawskie-krasnale

財務省の資料
https://www.mof.go.jp/pri/research/conference/zk051/zk051e.pdf

類似事例:

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