290 チングイ公園(Parque Tingui)(ブラジル連邦共和国)

290 チングイ公園(Parque Tingui)

290 チングイ公園(Parque Tingui)
290 チングイ公園(Parque Tingui)
290 チングイ公園(Parque Tingui)

290 チングイ公園(Parque Tingui)
290 チングイ公園(Parque Tingui)
290 チングイ公園(Parque Tingui)

ストーリー:

 チングイ公園はバリグイ川の上流部分につくられた。バリグイ公園とタングア公園の中間に位置する。その名称は、この場所に最初に定着した原住民の名前に由来している。チングイ公園は、上流のタングア公園、下流のバリグイ公園とで、バリグイ川の河川敷を公園化するプロジェクトの一つとして位置づけられている。これはバリグイ川が頻繁に氾濫するから、その洪水対策としての意味も有している。
 チングイ公園にはバリグイ川に沿って、洪水氾濫時の貯水池の役割を担う湖、そして自然林、さらにはそれらを結ぶハイキング・トレイルが整備されている。また、この公園にはウクライナ記念館がつくられている。これは、ウクライナ教会のレプリカがつくられており、その中ではイベントが開催されたり、その内部にあるキオスクのようなお店ではウクライナ関係のお土産なども購入することができる。
 クリチバにはウクライナ移民が多く、このチングイ公園となった土地もウクライナ移民の3家族が所有していた。この土地を公園、そして洪水時の貯水池として確保するために、市役所は交渉のテーブルで二つの提案をした。一つ目は、所有する土地の半分を市に提供してくれれば、残りの土地の開発規制を緩和するように土地用途を変更して戸建て住宅が建設できるようにするということ。二つ目は、ウクライナ移民を記念するような施設を設置するということである。ここで補足をすると、クリチバ市は日本の都市に比べてはるかに土地利用の制限が厳しいのと、未だ成長都市であるため住宅需要は高いので、これは地主にとっては非常に有り難い提案であった。また、この事業が行われたのはレルネル市長の後を継いだグレカ市長の時なのだが、グレカ市長はドイツ、日本、ポーランドといった移民の出身国をコンセプトとした公園を次々と整備していたので、ウクライナの公園としては、ここはうってつけであった。
 そして、チングイ公園はつくられ、見事、バリグイ川の氾濫の被害は緩和されるようになり、さらに隣接した地主の所有地はクリチバ屈指の高級住宅地として開発されることになる。2000年頃からは、我が国ではみられないような大豪邸が緑の中にどんどんと建設するようになっている。地主は土地の半分は寄付したが、残りの土地を戸建て住宅地として開発できることになったので、結果的には多大な利益を得ることができた。市民は公園を獲得し、市役所は洪水を防ぎ、そして地主は利益を得る。一石三鳥のクリチバらしい公園整備である。

キーワード:

公園,治水,開発権移転(TDR)

チングイ公園(Parque Tingui)の基本情報:

  • 国/地域:ブラジル連邦共和国
  • 州/県:パラナ州
  • 市町村:クリチバ市
  • 事業主体:クリチバ市
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:中村ひとし(ランドスケープ)
  • 開業年:1994年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 この公園を設計したのは、グレカ市長時代も環境局長を務めた中村ひとし氏と彼のチームであった。中村氏は、チングイ公園を設計するうえで、まず水害を減らすことを最優先に置いた。そのために池を多くつくろうと考えた。目測で、ここは池にできる、と考え、どんどん植物が生えていないところを池にしていった。さらに、その池を面白いものにしようとして、橋に屋根をつけた。この屋根は機能的な意味はなく、面白味を演出するためと彼は私への取材で述べている。この彼の茶目っ気はクリチバ市のあちらこちらで見られるが、それらがクリチバの公共空間に人間味をもたらしていると思う。 
 地主との見事な交渉で、クリチバ市はカピバラが生息するような38ヘクタールもの広大なる見事な空間を市民のために確保すると同時に、バリグイ川の洪水氾濫を防ぐ貯水池をも整備することに成功した。そして、地主は持っている土地は市に提供したが、その代わり、残りの土地で大きな利益を確保することに成功した。何より、このような事業を行ううえで、市役所は地主に一銭も払っていない。これこそ、素晴らしい「都市の鍼治療」事例であるし、「都市の鍼治療」を市政の方法論に掲げた本家本元の凄みを感じさせる。
 この原稿を書くうえで、7年ぶりぐらいにチングイ公園を訪れ、南端から北端まで歩いたが、河川に沿っているために長細いということもあるが、その広大さ、さらには保全されている自然の豊かさに驚いた。そして、公園周辺に以前に比べても多くの大豪邸が建てられていることにも気づかされた。ウクライナがロシアの侵攻を受けている時であったこともあり、この公園内にあるウクライナ記念館の前で祈りを捧げている人がいたのも印象的であった。遠く、祖国を離れた移民にとっては、このような記念館があることは、心の拠り所となるであろう。

類似事例:

019 針金オペラ座
043 ラベット・パーク
057 オーガスタス・F・ホーキンス自然公園
105 エスプラナーデ公園
109 オスカー・ニーマイヤー博物館
110 バリグイ公園
208 クリチバの植物園
289 ドイツの森
319 アウグステンボリ団地の治水対策
・ 環境市民大学、クリチバ(ブラジル)
・ パサウナ公園、クリチバ(ブラジル)
・ タングア公園、クリチバ(ブラジル)
・ ラビレット公園、パリ(フランス)