271 ヘルシンキ中央図書館(Oodi)(フィンランド共和国)

271 ヘルシンキ中央図書館(Oodi)

271 ヘルシンキ中央図書館(Oodi)
271 ヘルシンキ中央図書館(Oodi)
271 ヘルシンキ中央図書館(Oodi)

271 ヘルシンキ中央図書館(Oodi)
271 ヘルシンキ中央図書館(Oodi)
271 ヘルシンキ中央図書館(Oodi)

ストーリー:

 フィンランドのヘルシンキ中央駅のすぐ北側のカンサライストリ広場につくられたヘルシンキ中央図書館オーディ(Oodi)は、フィンランド独立100周年の目玉事業である。それは、「市民が集うリビングルーム」としてフィンランド独立100周年の翌年、独立記念日の前日の2018年12月5日に開館した。それは、ヘルシンキ市にある37の図書館の一つであるが、その先進性と象徴性は抜きん出ている。
 オーディは誰にでも開放されている非商業的な公共空間として、従来の図書館の概念を超えてつくられた。それは、それをつくるうえで、その所有者となる「市民」の多様なニーズに応えるために、そのデザインを市民との協働作業で行った成果である。2012年には市民から2,300を越えるデザイン・アイデアを募集し、さらには、4つの事業の予算配分をどのようにすべきかを市民に問いかけた。オーディというユニークな名前も市民公募によって決められた。ちなにみに、フィンランド語のオーディ(Oodi)は、英語のOdeと同義であり、特定の人や物を称える詩のことである。このように市民と共にデザイン作業をすすめてきたのは、それをすることによって初めて市民にとって望ましい図書館をつくることができるとヘルシンキ市が考えたからだ。市民のアイデア、意見、夢は、ワークショップやイベント、ウェブサイトを通じて収集された。
 オーディはまたその特徴ある建築でも存在感を放っている。1.7ヘクタールの敷地面積に水平に広がる建物は、フィンランドの湖の穏やかな波を彷彿させるようなガラス張りの上部と、フィンランドの森のぬくもりを感じさせるような滑らかな曲線のトウヒのファサードからなる。人工物と自然、伝統と現代、という対立軸が共生しているデザインは素晴らしい。それは、完成した時点でヘルシンキのランドマークとなっている。
 2013年に国際コンペが行われ、設計者は市民の直接投票で選ばれた。設計を担当したのは、フィンランドの設計事務所であるALA Architectsで、施行はYITが担当した。オーディを設計するうえでALA設計事務所が掲げたコンセプトは3つの階の相互作用である。1階では、建物の全面に広がる公共広場を建物内にまで引き込むことを意図した。1階は頑丈で、忙しく、そこを通り抜ける人や立ち寄った人に合わせて、頻繁に空間は更新されている。活力にあふれたバリアフリーの公共空間である1階は、すべての人に広く公開され、魅力的で、理解しやすいように工夫がされている。複数の入り口が設けられ、広いロビー、カフェ、イベント会場などが、居心地のよさをつくりだしている。2階は仕事、活動、学習、交流、そして友達・家族とのだらだら時間のための機能を提供している。そこにはスタジオ、ゲーム・ルーム、会議室、作業室、交流のための空間施設が設けられている。3階は愛読者の天国のような空間であり、思考に適した静かな空間である。また、隣接する広場に向かってつくられた広大なるテラスがあり、そこから素晴らしい周辺の公園と都市の展望を得ることができる。
 開業時間は平日が8時から21時、週末は10時から20時である。オーディは2019年に国際図書館連盟(IFLA)において「公共図書館賞(Public Library of the Year Award)」を受賞した。

キーワード:

図書館,公共施設

ヘルシンキ中央図書館(Oodi)の基本情報:

  • 国/地域:フィンランド共和国
  • 州/県:ウウシマー
  • 市町村:ヘルシンキ
  • 事業主体:ヘルシンキ市
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:ALA Architects
  • 開業年:2018

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 インターネットの時代における図書館の価値って何だろうか。まだ、インターネットが普及される以前、情報源は本をはじめとする紙媒体であった。そもそも、どこにどんな本があるのか。それすら分からない中、図書館は情報の宝庫であった。極めて私事であるが、まだツタヤもなく、レンタル・レコードもない時代、近くの図書館でレコードが借りられることはお小遣いの少ない中学生・高校生の私にはとても有り難いことであった。そこで、私はグレートフル・デッドやジェネシス、ムーディー・ブルースというバンドがこの世にあることを知った。現在、私が中学生や高校生であったら、図書館に行かず、ユーチューブを検索して好みの音楽を探したであろう。インターネットは情報へのアクセスを極めて容易にし、それまで図書館でしか得られない情報を広く社会に拡散させることを可能とした。それは、図書館を時代遅れのものに追いやっているのではないだろうか。
 そのような図書館像を抱いていた私に対して、オーディはインターネットの時代における新しい図書館像を提示しているかのような強烈な印象を与えた。それは3つのフロアごとに違う機能を提供している。まず、一つ目は従来の図書館と同じように、本を貸す機能である。フィンランドでは、年間190万の人々が本を借りている。これは人口553万人の国としてはなかなかの数字である。オーディではインターネットの時代でも、まだ現存する従来の図書館的なニーズをしっかりと満たすためのフロアとして3階が提供されている。そして二つ目は多くの人々が集うための機能であり、コンサートや講演会、展示会などのイベントをここで開催する機会が1階では提供されている。三つ目は、創造的活動を支援するための機能であり、スタジオや仕事場、遊び場などが2階で提供されている。これが、個人的には最も驚いた機能である。オーディの2階には、アーバン・ワークショップ、スタジオ、ゲーム場、ワークステーションなどがある。アーバン・ワークショップでは、3Dプリンターやレーザー・カッターなどの最新の工具や伝統的な工具などを借りて物づくりをすることができる。必要に応じて作業補助などもしてもらえる。スタジオには撮影スタジオと音楽スタジオがある。音楽スタジオでは、ギターやベースなどの楽器やエフェクターなどを借りることができ、しかも、それらは安物ではなく、個人ではなかなか手が届かない高級品であったことが印象的であった。ゲーム場は、まさにゲームをするための場所でヴァーチャル・ゲームなどを個人、グループで体験することができる。そして、ワークステーションは、フリーランスの人などにリモート・ワークや打ち合わせをする機会を提供している。コンピュータ、プリンターやスキャナーや高速LANなどを借りることができる。
 オーディは、個人ではアクセスが難しいものを共有することで、必要なものにアクセスできることが可能であるということを改めて人々に知らしめたのではないだろうか。図書館というと、その名称「図書」、「Liber(ラテン語で「本」)」 から本を貸すというイメージを与えてしまうように思われるが、それは何も「本」や「CD」といったものである必要はない。音楽スタジオ、撮影スタジオ、仕事場(オフィス)、ゲーム機とゲーム・ソフト、高級工具であっても構わないのである。それを「共有」することで、皆がアクセスすることができる。さらに、イベントなどを開催する「機会」をも提供することができる。
 インターネットの時代でも、図書館という機能はまったく時代遅れでないということをオーディによって私は思い知らされた。ALA Architectsの設計者は、「この建物はヘルシンキで最も自由な建物である」と述べているが、考え方によって「図書館」という建築は極めて自由になれるということをオーディは確認させてくれる。

【参考資料】
ヘルシンキ中央図書館のホームページ
https://www.oodihelsinki.fi/en/what-is-oodi/
ALA Architectsのホームページ
https://ala.fi/work/helsinki-central-library/

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