237 長崎水辺の森公園(日本)

237 長崎水辺の森公園

237 長崎水辺の森公園
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237 長崎水辺の森公園

237 長崎水辺の森公園
237 長崎水辺の森公園
237 長崎水辺の森公園

ストーリー:

 長崎市の中心部に位置する港内を再開発事業の一環として埋め立ててつくられた公園。長崎県は、長崎港に豊かなオープンスペースを県民に提供するために、環長崎港地域アーバンデザイン専門家会議を2000年に創設した。この会議は伊藤滋、篠原修、石井幹子、林一馬、松岡恭子、柳原博史といった都市デザインの専門家によって構成され、この専門家会議の審議のもと、長崎港周辺の環長崎港地域を対象とし、様々な建築物や構造物などをしっかりとしたコンセプトのもとデザインの検討を行った。長崎水辺の森公園は、隣接する長崎県立美術館とともに、この事業を象徴するような、そして港湾のイメージを大きく刷新するようなプロジェクトである。
 その設計を担当したのは上山良子氏である。そのデザインの特徴は以下の通りである。

1) 敷地は、長崎港の広がる様々な視点場から見られることを意識し、広角的な視点からのデザインと目線で見るマクロなデザインが織りなす豊かな空間であること。
2) 長崎県民のための貴重なオープンスペースとして、彼ら・彼女らの要望に応えるものとして、また県外からの来訪者を誘う場として、質の高く、かつ安全な公園であること。
3) 都市デザイン、橋梁、建築、照明、ランドスケープの各分野の専門家がデザイン監修に当たり、全分野が協働することで総合的に練り上げられた空間を持つ公園であること。

 このような丁寧な取り組みを経て、長崎水辺の森公園は2004年3月に全面オープンした。長崎港に面した6.5ヘクタールの敷地には水路が縦横に交差し公園を大きく3つのエリアに区分している。市街地に面する「水辺のプロムナード」、海に面した芝生広場と森の「大地の広場」、山からの湧水を利用した「水の庭園」。そして、これらのエリアを橋梁が繋げている。また、県民がパフォーマンスをするための野外劇場として「月の舞台」や「森の劇場」などのステージがつくられている。
 この公園は港そして対岸の山並を展望する視点場としては極めて優れており、長崎という恵まれた自然景観をここからは楽しむことができる。また、平地が少なく、広い空間が乏しかった長崎中心部に人が集まる開放的な空間を創出した。6.5ヘクタールという面積であるが、空間の細部の作り込みが絶妙であるために、それよりはるかに大きい印象を訪問者に与えることに成功している。また、橋梁の使い方が見事で、それによって3つのエリアがそれぞれ異なった個性を有する空間として人々が認知するような仕掛けとして機能している。
 この公園は2004年にグッド・デザイン・アワード、2006年に土木学会デザイン賞、2013年には長崎市景観賞を受賞した。

キーワード:

公共空間, 公園

長崎水辺の森公園の基本情報:

  • 国/地域:日本
  • 州/県:長崎県
  • 市町村:長崎市
  • 事業主体:長崎県
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:上山良子
  • 開業年:2004

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 水辺の森公園は、長崎湾の一部を埋め立ててできた土地につくられた。土地の記憶がない中、そこはまったく新しい都市空間として長崎市の中心部に出現した。そのような土地をつくるうえでの設計コンセプトをどのように考えるのか。既存の土地の文脈を配慮しようにも、そこには土地がない。もちろん、生態系や微気候といったミクロな環境、周辺からのアクセス性などを配慮しなくてはいけないのは当然だが、既存市街地の再開発と違い、思い切って新しいアイデンティティをそこに付加するような空間コンセプトを導入することも選択肢としてはある。しかし、その場合、新しいがゆえに、そのコンセプトは多くの人が納得するだけの優れたものであることが必要となる。その難しい課題に答えたのが、水辺の森公園を設計したランドスケープ・アーキテクトの上山良子氏である。
 極めて個人的な話で恐縮だが、ランドスケープを担当した上山良子氏は、私が卒業した大学院(カリフォルニア大学バークレイ校ランドスケープ学科)の先輩である。大先輩の傑作について、私ごときが口を挟むのは憚られるが、この公園のデザイン・コンセプトにはバークレイ校のランドスケープ的なものを強く感じる。それは、同氏が師事されたローレンス・ハルプリンの空間意匠を彷彿させ、日本的な土着さを感じさせない。それでいて、その場所性のなさに違和感を覚えないのは、ここが埋め立て地であることと、また長崎という風土と関係があるように思われる。そもそもが海であったために、土着性(ヴァーナキュラー)という制約から解放されたデザインの自由度がある。そして、長崎という歴史的に多様な外来文化を受け入れ、それらを日本的なものとして融合して新たな価値を創出してきた(チャンポンやカステラ、卓袱料理などがすぐ浮かぶ)土地柄ということもあるだろう。
 そして、それはデザイナーである上山良子氏の半生とも重なる。日本で生まれ育つが、上智大学の外国語学部を卒業し、スカンジナビア航空で働いた後、設計の道に進む。カリフォルニア大学バークレイ校の大学院でランドスケープを学び、アメリカランドスケープアーキテクト協会から全米最優秀学生賞を受賞し、卒業後は前述したローレンス・ハルプリン事務所で働く。8年間のアメリカでの暮らしを経て、日本に帰国した後は、数々の作品を手がけると同時に大学教員として後進の指導に当たる。その国という枠組みにとらわれない彼女のコスモポリタンな生き様が、この長崎の新しく、初めて港につくられた公園の設計者としては、極めてうってつけだったのではないだろうか。ローレンス・ハルプリンの作品を想起させる小高い丘に設置された噴水から、勢いよく水が流れる小川の淵に立ちながら長崎湾とその先にある山並みを展望すると、そこが日本であることをふと忘れてしまう。
 上山氏はグッド・デザインの受賞の言葉として「長崎の文化の種を蒔いた「土地の記憶」を継承し、未来の子供たちに伝える空間として」、この公園を設計したと述べているが、そのような役割は出島やグラバー邸、中華街などとは比べるべくもない。むしろ、この公園の価値は、長崎市というコスモポリタン都市に、これまでなかった新しい価値、そしてアイデンティティを既存の伝統的な価値を損なうことなく付加させることに成功したことではないかと思われる。

【出所】
グッド・デザイン・アワード2004のホームページ
https://www.g-mark.org/award/describe/30600

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