235 用賀プロムナード(日本)

235 用賀プロムナード

235 用賀プロムナード
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235 用賀プロムナード

235 用賀プロムナード
235 用賀プロムナード
235 用賀プロムナード

ストーリー:

 世田谷区の田園都市線の用賀駅から、その南西にある砧公園の世田谷美術館までを結ぶようにつくられた歩車共存の公園のようなプロムナードがある。淡路瓦による舗装、水遊び場、水路、ベンチなどが置かれ、街路樹からこぼれる日だまりが何とも気持ちよい、広場のような道路空間。それが1986年の世田谷美術館の開館と同時につくられた用賀プロムナードである。
 このプロムナードを設計したのは、多くの優れた建築作品を世に送り出してきた象設計集団である。それは、世田谷美術館への駅までの快適なアクセスを確保するだけでなく、「道」が有する交通機能以外の社会的な多様性などもしっかりと機能する生活道路となることを意図してつくられた。具体的には子供が道路で遊んだり、お母さん達が井戸端会議をするような日常生活の広場的空間としての道路である。自動車を排除せずに、しかし、道路の交通機能以外の機能を十二分に享受できるようなデザイン的な工夫が為されている。特に「せせらぎ」の水路はこの道に特別な個性をもたらしている。また、ベンチや階段など空間において滞在できるストリート・ファーニチャーが多く設置されているが、それらのデザインが素晴らしい。思わず、その空間にいたくなるような仕掛けがこの道を特別なものにしている。
 それらの工夫は、舗装にも表れており、駅から環状八号線に到達するまでの約900メートルは淡路瓦が敷かれていて、「甍道(いらかみち)」との愛称もある。瓦の形状は、同じものはほとんどなく、その組み合わせによって、この街路の空間は同じ素材を使っているにも関わらず単調さを回避したセンス・オブ・プレイスのようなものを感じさせる。それは素材、そして意匠の多様さ・洗練さだけがもたらしているのではなく、人々の関心を惹く遊び心によってももたらされている。その遊び心は、環状八号線に設置された鬼瓦や、王様と女王様の椅子と呼ばれる凝った意匠のベンチ、さらには用賀駅から数メートルおきに甍道に掘られた百人一首などに見ることができる。
 この道路は2002年度に第1回地域風景資産に選定されている。

キーワード:

道路

用賀プロムナードの基本情報:

  • 国/地域:日本
  • 州/県:東京都
  • 市町村:世田谷区
  • 事業主体:世田谷区
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:象設計集団
  • 開業年:1986

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 用賀駅の周辺の都市空間はちょっと不思議である。まず、極めて人工的である。その人工的な空間は郊外的であるのだが、そこは郊外として開発されてから時間が経っていることもあり、生活の垢のようなものが感じられる。そして、それがこの用賀プロムナードに生活感を与え、それを街中に上手く溶け込ませているのではないだろうか。その意匠が優れていることもあるが、用賀プロムナードは街から浮くことがなく、むしろ、この街にある共通したトーンをつくりだしている。
 それは、この道路づくりに繊細な感性でもって設計者が取り組んだからであろう。象設計集団のホームページには次のようにその設計意図が書かれている。

「現在の日本の道路は、道路構造令によって規定され、産業活性のための自動車交通が最重要視されている。このため住宅街などでは、道路によりコミュニティが分断され豊かな住環境をつくることがさまたげられている。
 用賀プロムナードは、住宅街の既存の道路を扱いながら、新たな交通規制と、交通量や目的に応じた道路ヒエラルキーを規定することにより、1本の線から面的な計画に展開できる根拠を持っている。住民の自動車によるアクセスの利便性を損なうことなく、住環境が改善される可能性を示している。」

 そして、そのような意図のもとテーマを「日本のみち」とし、それを具体化するうえでのコンセプトとして「やわらかな街」、「歴史を物語る道」を掲げた。前者は樹木、草、土、瓦、木材、水などのやわらかな素材によってやわらかな空間を構成し、後者は玉石の道、くわ、茶といった郷愁を誘うようなしかけによって、人々がそれぞれの思い出を喚起させるようにした。
 道に敷いた甍(いらか)に関しても、「やわらかいこと」「存在感があること」「時の移ろいに敏感なこと」「土地の記憶を継承しうる材であること」「無彩色かそれに近いこと」といったこだわりの条件を満たせる素材ということで淡路瓦が選ばれた。
 用賀プロムナードがつくられてから30年以上経っても、その魅力が色褪せないどころか、アンティークの家具のように街中にしっくりと溶け込んで、むしろ周辺の生活空間の魅力を向上させるような役割を果たせているのは、このような設計者の丁寧で思慮深い空間づくりが為されたからであろう。空間デザインの力を再確認させてくれるような事例である。

【参考資料】
象設計集団のホームページ
(https://zoz.co.jp/?work=用賀プロムナード)
世田谷区のホームページ
https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/sumai/005/002/d00038432_d/fil/mokuroku1-14.pdf

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