120 ひまわり号 (日本)

120 ひまわり号

120 ひまわり号
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120 ひまわり号
120 ひまわり号

ストーリー:

 鳥取県は伯耆富士とよばれる大山の麓にある江府町、日野町。1996年から2015年にかけての人口減少率はそれぞれ29%と31%。この20年間で3割ほどの人口を失っている。多くの過疎集落を抱え、哲学者杉田聡が2008年にその著『買物難民』で警鐘を鳴らした、買物難民が生まれるような条件をほぼ満たしている地域である。しかし、ここではそのような問題は深刻化していない。それは、安達商事という一民間企業が「ひまわり号」という移動販売をそのような過疎地において提供しているからだ。
 安達商事は5台の「ひまわり号」を有している。3トン・トラックをベースにつくられたものが1台、2トン・トラックのものが2台、そして軽トラックのものが2台である。これらは、すべて大型冷蔵庫が備え付けられており、食料品から雑貨、生鮮食品を販売している。現在、江府、日野全域と伯耆、日南町の一部を含めた90集落を週2回ずつ巡回している。
 安達社長はこのひまわり号の運営主体となる安達商事を平成2年に設立した。それまで、彼は西部生協の社員であったが、そのスーパーが閉店する。生協という地域の人のためにある筈のスーパーが閉店することに安達社長は釈然としないものがあった。そこで働いていた人達も同じ思いを抱いていた。職員から「店を閉鎖しないで自分達でやりたい」という声があがったこともあり、安達さんは、この生協を引き継いだ。
 しかし、経営は大変であった。そもそも、生協が経営を放棄するような赤字店である。さらに、大型スーパーが出店(日野町)することで客数も減少した。そこで、顧客を待つのではなく、顧客がいるところに行くという移動販売を開始したのである。ただ、移動販売の基幹となるのは店舗。商品を常に確保するためには店舗は不可欠である。店舗と移動販売という両輪が回ってこそうまく行く事業だそうだ。その後、地元の農協の店舗も閉鎖されたので、それも引き受け、加えて国道沿いの誰もやりたがらなかったコンビニまでも引き受けており、現在5店舗を持っている。
 この取り組みは、さらに自治体と協定を結び、高齢者の見守り活動や、看護師が移動販売に同行し、過疎地住民の健康チェックや健康相談をするようにもなった。御用聞きをしながら、元気かどうかを確認している中、異常事態を発見し、すぐ連絡をして助かったケースもあるそうだ。
 人口減少の過疎地では、買物難民だけでなく様々の社会的課題を有している。それらの問題が、買物難民という課題を解消させようとする安達さんの活動を通じて顕在化したのである。彼らの活動は、地域をどのようにして守ればいいのか、ということを実践を通じて我々に知らしめる。
 安達社長は、上記の取り組みで2008年に地域づくり総務大臣表彰を受賞した。

キーワード:

人口縮小,高齢化,買物難民,ソーシャル・ビジネス

ひまわり号 の基本情報:

  • 国/地域:日本
  • 州/県:鳥取県
  • 市町村:日野町・江府町
  • 事業主体:安達商事
  • 事業主体の分類:民間
  • デザイナー、プランナー:安達亨司
  • 開業年:1993年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 大山の麓の雄大な景色の中、メガホンから流れでる演歌とともにひまわり号がやってくる。ひまわり号は道の端に停まると、3トンほどの小さなトラックの車両はスイッチ一つで横に広がり、ちょっとした店舗へと早変わりする。その中に入ると、まず目に付くのは烏賊と鯖であった。特に烏賊は、新鮮さが一目で分かるほどだ。このことを安達社長に言うと、彼はこの会社を立ち上げてから、ほぼ毎朝、自ら境港まで仕入れに行っていると回答してくれた。
 移動販売車というと、買物難民という人達の足下をみて、とりあえず生活必需品を提供するというような商売をしているのかと邪推していたが、「ひまわり号」はむしろ、そこらのスーパーマーケットなんかより、遙かに高い質の生鮮品を提供していたのである。安達社長は毎朝、市場に通うのは大変ではあるが、そこで妥協をしたらお客さんに申し訳ないので、この点は譲れない、と言う。
「ひまわり号」はドライバーと売り子女性とのペアでやりくりをしている。「ひまわり号」は演歌のBGMを流して、来ていることを周辺の人々に伝える。このBGMを聞いて、集落の人々は三々五々と集まってくる。「ひまわり号」のお客さんは「有り難う、また来てね」と帰る時に言う。「有り難う」と店側が客に伝えることに慣れているものには、これは新鮮である。「ひまわり号」が来ると、人々が集まるので、コミュニティのハブとしても機能している
 日野・江府町は安達社長が踏ん張っているおかげで、「地域の店」を守れているが、普通の人口減少地域では、「地域の店」がなくなることは「地域の生活」が崩壊することである。なぜなら、それは消費の機会だけではなく、雇用の機会も提供しているからだ。安達社長がいなければ、大型スーパーが閉店した後、この周辺地域の人口減少は今よりさらに激しいものになっていたであろう。
 この商売は儲からないが、地域の人を支える意味では、こういう商売をなくしてはいけない。「地元の人が地元のお店を守るという意識なくして地域再生は不可能である」。安達社長の言葉は重い。それは、買物難民という限定された地域の問題だけでなく、ソーシャル・ビジネスとしても極めて優れた事例である。高齢化を迎え、縮小に悩む都市・コミュニティに対する傑出した「鍼治療」の事例であると思われる。

【取材協力】安達亨司社長

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