104 メトロポール・パラソル (スペイン)

104 メトロポール・パラソル

104 メトロポール・パラソル
104 メトロポール・パラソル
104 メトロポール・パラソル

104 メトロポール・パラソル
104 メトロポール・パラソル
104 メトロポール・パラソル

ストーリー:

 メトロポール・パラソルはセビージャの旧市街地の北側、エンカルナシオン広場に立地している世界最大の木造構造物である。大きなキノコの傘を彷彿させる6つの屋根が、下の市場を中核とする商業建築とそれに隣接する広場を覆う。そのスケールは150メートル×70メートル、高さは28.5メートル。敷地面積は1.8ヘクタールであり、地下1階、地上3階建ての床面積は12,670平方メートルである。
 建物の地下1階は工事中に発掘されたローマ人とムーア人の遺跡を展示する博物館となっている。1階は市場、そして市場の屋上部分である中2階にあたる部分はイベントなどが開催できる広場空間となっており、2階そして3階はレストランなどが入っている展望テラスとなっている。さらに、3階の展望テラスからは、キノコの傘の屋上を散策できる歩道が設置されており、この歩道からの旧市街地の中心部の展望は素晴らしいものがある。
 ここは、19世紀から市場の建物が存在していた。そして1948年に再開発のために部分的な解体が始まったにもかかわらず、市場はそのまま1973年まで存続した。さらに、建物は撤去されたが、再開発に手がつけられたのは1990年からであった。しかし、再開発するとすぐにローマ時代の遺跡がみつかり、遺跡調査による中断を経て、再開発をすることをセビージャ市が再決定するのは2004年であった。そして、その跡地開発の国際コンペを実施し、ドイツの建築家ユルゲン・マイヤーの案が選ばれた。このキノコの傘は、セビージャ大聖堂のヴォールトのデザインと近隣にあるクリスト・デ・ブルゴス広場のイチジクの巨木から着想を得ている。
 現在では旧市街地につくられた新しい公共広場として、人々に日々利用され、親しまれている施設となっている。

キーワード:

アイデンティティ,都市デザイン,オープン・スペース,歩道

メトロポール・パラソル の基本情報:

  • 国/地域:スペイン
  • 州/県:アンダルシア州
  • 市町村:セビージャ市
  • 事業主体:セビージャ市
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:Jurgen Mayer H. Architects
  • 開業年:2011年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 メトロポール・パラソルは、その設計通りに建設するには構造的に問題があることが発覚するなどして、完成が大幅に伸び、また費用も当初予定の倍近くの9,000万ユーロ(日本円でおよそ100億)かかるなど多くの批判を浴びた事例である。
 しかし、完成してから5年、この建物は近代的で極めてユニークな意匠が為されているにも関わらず、世界遺産にも指定されている地区を擁するセビージャの旧市街地に見事に融和している。セビージャのヒラルダの塔から旧市街地の全体を展望できるのだが、メトロポール・パラソルの存在は気をつけないと分からない。高さと屋根の緩やかに隆起する意匠が見事に周辺の建物と調和しているからだ。それにも関わらず、メトロポール・パラソルの屋根に架けられた歩道からはセビージャの市街地の見事な展望を得ることができる。また、その歩道は緩やかに高低差が変化をすることで多様な視座を通行するものに提供してくれるので、ちょっとした空中散歩のような感覚を与えてくれる。それは、なかなか新鮮な都市の空間体験であると思われる。
 セビージャの人々にもメトロポール・パラソルは、新しい現代的な広場として受け入れられている。私が訪問をした週日の午後も多くの市民達が、ここで小春日和の中で思い思いの時間を気持ちよさげに過ごしていた。世界遺産都市の旧市街地は極めて高密であり、広場的な空間を確保するのが困難であるが、このメトロポール・パラソルの広場は、そのような状況下で、多様なイベントを開催させることを可能にし、セビージャの新しい社会的・文化的な結節点として機能している。
 メトロポール・パラソルは世界遺産都市において、その旧来の価値を減じることなく、新たなる価値を提供することに成功した優れた事例であると思われる。京都タワーや京都駅などと比較しても、周辺との調和をしっかりと意識しており、都市の鍼治療効果も高い事例であると考えられる。

類似事例:

・ スコットランド国会議事堂、エジンバラ(スコットランド)
・ 郵便貯金局、ウィーン(オーストリア)
・ ベルン駅前広場、ベルン(スイス)
・ ダンシングビル、プラハ(チェコ)
・ 黒い聖母の家、プラハ(チェコ)
・ オペラ座、リヨン(フランス)
・ バウハウス大学、ヴァイマル(ドイツ)