060 ストラスブールのトラム(フランス共和国)

060 ストラスブールのトラム

060 ストラスブールのトラム
060 ストラスブールのトラム
060 ストラスブールのトラム

060 ストラスブールのトラム
060 ストラスブールのトラム
060 ストラスブールのトラム

ストーリー:

 フランスは20世紀初頭では多くの都市において、路面電車が走っていたが戦後、そのほとんどが廃線となった(リールとサン・テティエンヌだけが路面電車を廃止しなかった)。しかし、1985年にナントで路面電車が復活すると、1987年にはグレノーブル、1992年にはパリでも相次いで路面電車が新たに整備された。そして、2015年現在では28都市で路面電車が運行されるようになっているが、それらの中でも、もっとも都市計画と連動して整備され、その都市の様相を大きく変容させたのは、ストラスブール市のライトレールである。
 ストラスブールはフランス北東部、ライン川西岸に位置する。アルザス地方の中心都市ではあるが、人口は約26万人、大都市圏でも約46万人とそれほど大きくはない。ストラスブールは、以前は充実した路面電車のネットワークを有していたが、1960年に廃止してバスに替えた。その結果、自動車利用者が増大するのだが、ユネスコの世界遺産にも指定された歴史的中心市街地は道路が狭く、自動車交通の処理もできず、ひっきりなしに通る自動車は、素晴らしい街並みを楽しむことを困難にした。
 このような状況を打開するための対策として、1990年代に入りストラスブールは歴史的街並みの通過交通を排除する環状道路を整備し、それと同時に中心市街地から自動車交通を排除し、さらに新しい近代的な路面電車システム(トラム)を導入することにした。都心の通過交通を遮断し、中心市街地から自動車を排除し歩行者空間を創出し、またその空間にトラムも走らせるようにしたことで、単に自動車の代替交通手段としてだけでなく、トラムは活力を失っていた中心市街地へアクセスしやすくし、その活性化にも寄与することになる。
 その後もトラムのネットワークは段階的に拡張しており、現在では、路線数は6本、駅の数は72、そして一日当たりの利用者数は30万人に及ぶ。

キーワード:

ライトレール,トラム,ヒューマン・スケール,中心市街地再生,街並み保全

ストラスブールのトラムの基本情報:

  • 国/地域:フランス共和国
  • 州/県:アルザス州
  • 市町村:ストラスブール
  • 事業主体:CTS: Compagnie des Transports Strasbourgeois
  • 事業主体の分類:準公共団体 
  • デザイナー、プランナー:ストラスブール市
  • 開業年:1994年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 ストラスブールは、LRT導入をはじめとした一連の都市内交通政策によって「まちの活性化に成功した事例として世界的に広く知られている」、「世界的に有名なストラスブールの交通政策」などと日本の文献では紹介されている。
 今でこそ、トラムの導入は中心市街地の活性化も促し、また世界遺産でもある都心部の歴史的街並みの魅力を再生させたことで、見事な「都市の鍼治療」(鍼は結構、太いが)として捉えられている本プロジェクトであるが、1989年の市長選挙では、トラムにするかVAL(ゴムタイヤ走行・側方案内式の全自動運転輸送システム)にするかが争点となり、随分と議論がなされた。都心部の商店主は、当時はVALを支持していた。これは、トラムは都心部の駐車場数を減らすため、顧客を逃すと考えていたからである。しかし、VALはトラムに比べると建設費が4倍にも及ぶことなどもあり、トラム派の市長であるトロットマンが当選し、その結果、トラムを整備することに決定する。しかし、むしろトラムにしたことで、より都心部が歩行者空間として再生することになり、集客力が向上し、商店主にとってもプラスとなった。クリチバ(ブラジリア)の花通りでも、コペンハーゲン(デンマーク)のストロイエでも、商店主は一般的に短絡的に自動車の利便性を損なうことに反対するが、実際は自動車が顧客を遠のかせている場合が多い。ストラスブールも商店主の考えと反対の結果となり、商店主は得をすることになった。その後、都心の駐車場を郊外に設置したパーク・アンド・ライドへと置き換わるようにし、廃棄した都心の駐車場は1000台分にも及んでいる。この空いた駐車場のスペースは、都心の魅力を向上させるように使われている。
 ストラスブールの成功は、フランス中の都市にライトレールを新たに整備するきっかけとなる。このプロジェクトは、単にライトレールを整備したというだけでなく、都心部の再生を促すためのツールとしてライトレールを位置づけ、都市計画的に連動させた。このことが、ライトレールの利用者をしっかりと確保するだけでなく、都心部の再生をも具体化させることになる。それは、都心部の脱自動車化を可能にしただけでなく、空間をヒューマン・スケールへとリデザインすることを促すことに成功したのである。

類似事例:

077 富山ライトレール
095 メキシコ・シティ・メトロバス(BRT)
121 姫路駅前トランジット・モール
166 クリチバのバス・システム
318 カールスルーエのデュアル・システム
・ 都電荒川線、北区(東京都)
・ フライブルグのライトレール、フライブルグ(ドイツ)
・ ヴッパータルのモノレール、ヴッパータル(ドイツ)
・ サンノゼのライトレール、サンノゼ(カリフォルニア州、アメリカ合衆国)
・ ポートランドのライトレール、ポートランド(オレゴン州、アメリカ合衆国)
・ マンチェスターのライトレール、マンチェスター(イングランド)