050 マドリッド・リオ(スペイン)

050 マドリッド・リオ

050 マドリッド・リオ
050 マドリッド・リオ
050 マドリッド・リオ

050 マドリッド・リオ
050 マドリッド・リオ
050 マドリッド・リオ

ストーリー:

 スペインの首都マドリッド。イベリア半島のほぼ中心、欧州の首都の中では最も高い655メートルの標高に位置する。人口は約325万人、都市圏人口は約540万人で、これらの数字はヨーロッパ第三の都市であるベルリンと拮抗する。
 マドリッドは2000年以降、都市デザイン、都市整備に力を注いでいる。その推進力となったのが2003年6月から2011年12月まで市長を務めたルイス・ガジャルドン氏である。彼は2003年に市長となると、すぐに市税を上げて、彼の構想する都市計画を実現させる財源を確保し、矢継ぎ早に都市開発を進めていくのであるが、その中でもマドリッドの都市の方向性を象徴的に知らしめることになったのがマドリッド・リオとよばれるM30ハイウェイの地下化プロジェクトであろう。
 M30ハイウェイとは、マドリッドの4つの環状高速道路のうち、最も都心側を走るもので、このM30ハイウェイがマドリッド唯一の川ともいえるマンザネラス川と並行して走るマドリッドの南西部の区間を地上から地下に埋設することにしたのが同ハイウェイの地下化プロジェクトである。これは交通渋滞、そして沿道への騒音、排気ガスといった公害の被害を最小化させるために意図されたが、それと同時に、高速道路が地下埋設されることで開放された上部空間をプロムナード型公園として整備することでそれまでマドリッドには存在しなかった新たなるリバーフロントという公共空間を創出し、さらには低所得者向けの住宅も建設するなどして、それまで劣悪に近かった都市環境を大幅に改善することも目的とした。2004年にこの事業は計画され、M30のマンザナレス川沿いの高速道路区間の一部は2007年には地下化された。その事業費は約39億ユーロであった。

キーワード:

ウォーターフロント,アクセス,オープン・スペース,アイデンティティ,都市観光

マドリッド・リオの基本情報:

  • 国/地域:スペイン
  • 州/県:マドリッド州
  • 市町村:マドリッド市
  • 事業主体:マドリッド市
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:Burgos and Garrido, Porras La Casta, Rubio A. Sala, West 8 Urban Design & Landscape Architecture
  • 開業年:2011

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 このプロジェクトを「都市の鍼治療」と形容するのは抵抗がある。開発期間は、市長の一任期中に実現させたのだが、その規模は80ヘクタール。
 しかし、将来の長期にわたってマドリッドというスペインの首都を大きく改変するきっかけをつくったという点からは、世紀という時間単位を考えれば、またその効果の大きさを考えれば、その費用に対しての効果は絶大なものがあると考えられる。そういった点では、「都市の鍼治療」として捉えることができるかと思われる。鍼は太いが。
 高速道路を地下化したことで、それまで高速道路が通っていた上部空間を緑地にし、歩道や自転車道を整備したり、新しい集合住宅などを建築したりすることができる。これによって、この沿道の周辺環境はすこぶるよくなった、というか様変わりである。
 この事業の目的は二つ。M30の交通容量を増やすこと、そしてM30の沿道に劣悪な環境を再生することであった。特に後者、M30に並行して流れるマンザナレス川を清掃して再生させることは、決して大河川ではないが、マドリッドで一番大きな川であることから重要視された。マンザナレス川はマドリッドの唯一のリバーフロントであり、そのリバーフロントを親水空間として整備することに大きな期待が寄せられたのである。
 マスター・デザイナーの一人、フェルナンデス・ポラス氏に取材をさせてもらったことがあるが、「自然と人とを共生させる」というコンセプトに徹底的に拘り、川沿いの松の木の多くは山から移植させ、自然の景観をここに再現させようとしたそうだ。設計をした一週間後にはもう工事が始まるという「クレージー」な状況を5年間続けて実現されたそうだが、市長を始めとしてデザイナー達が眠る暇も惜しんで労力を注ぎ込んだことで、このような大プロジェクトが実現されたことを知る。
 この大プロジェクトによって、マドリッドは河川という新たな都市景観を獲得し、また数少ない貴重なウォーターフロントを憩いの場に変容させた。週末には6万人が訪れるレクリエーション空間にもなっている。それまで自動車が占用していたウォーターフロント沿いのプロムナードを歩くと、ルイス・ガジャルドンはマドリッド市民にとって、とてつもなく素晴らしいプレゼントをあげたのだな、ということに気づかされる。世紀の大鍼治療である。

類似事例:

011 ライン・プロムナード
016 チョンゲチョン(清渓川)再生事業
035 オーフス川開渠化事業とプロムナード整備
101 観塘プロムナード
116 ポルト・マラビーリャ
187 セーヌ河岸のパリ・プラージュ
245 大分いこいの道
247 グアナファトのミギュエル・イダルゴ通りの地下化
284 オクタビア・ブルバードの道路再編
・トム・マッコール州知事ウォーターフロント・パーク、ポートランド(アメリカ合衆国)
・ビッグ・ディッグ、ボストン(アメリカ合衆国)
・ギュータ・トンネル、ヨーテボリ(スウェーデン)