086 セオドア・シュトローム通りの減築プロジェクト(Dismantling Project of Theodor Strom Strasse)

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キーワード:

コミュニティ, 減築, ドイツ, 空き家対策

鍼レベル:

ストーリー:

 ザクセンドルフ・マドローはコットブス南部につくられたブランデンブルク州最大のプラッテンバウ団地地区である。それは、主に褐炭産業を中心としたエネルギー産業の雇用者のための住宅として1974年から1986年にかけて開発されたが、荒廃した中心市街地の住宅を代替することも目的とされた。開発は4段階に分けて進められ、合計で12500戸の住宅が供給され、1993年まで34000人がここで生活していた。
 しかし、東西ドイツが再統一した後、エネルギー産業が地域間競争に敗れたこともあり、コットブスから旧西ドイツなどを始めとした市外への流出、また市内でもより住環境の優れた郊外の戸建て住宅への流出、さらには高齢化の進展などによりこの地区からも50%ほどの人がいなくなり、ザクセンドルフとマドローのプラッテンバウ団地は合わせてほぼ3分の1が空き室になるような状況となった。
 そのような状況にザクセンドルフ・マドローは2つの側面から対応した。1つは、長期的に安定した住空間を維持し、さらに強化していくという対策。もう1つは、過剰にある住宅を撤去するという対策である。このような対策を提示した背景には、供給過多にある住宅市場を調整する経済政策が求められていたことがある。すなわち、ひとつは市も保有している住宅会社の経営状況を改善するため。もうひとつは、住宅の絶対数は供給過剰であったが、市場が求めている住宅は必ずしも供給されている訳ではなかったことから、市民が求めている住宅を供給する必要があった。
 セオドア・シュトローム通りの減築プロジェクトは、この政策のパイロット・プロジェクトであり、IBAフルスト・プックラーラントのモデル・プロジェクトとしても位置づけられた。それは、ザクセンドルフ・マドローの中心通りであるゲルゼンキルフェン・アリー沿いにある3棟の高層住宅のうち1棟(11階建ての54戸)を取り壊し、新たに5棟の戸建て住宅をつくったプロジェクトであるのだが、高層住宅の地下室はそのまま残して、解体したパネルでその上に再建した。したがって、その地下室をこれら新築の居住者は使えることができる。建設材料のうち30%は解体した高層住宅のものであったり、都市空間構造は解体以前のものが継承されたりするので、その場所のDNAのようなものは継承することができる。
 このプロジェクトの結果、空き家率が43%(2000年)のパネル工法の高層住宅は、合計床面積が1050㎡の庭付き、テラス付きの13戸の住宅へと生まれ変わった。減築した後は13戸に60人が応募してきた。
 建設費は合計で170万ユーロ。撤去した部分は1㎡当たり1149ユーロに対して、撤去していなくて新設した部分は1㎡当たり996ユーロである。2001年7月から減築工事を開始し、2002年には住居は完成した。

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 ザクセンドルフ・マドローには、これまで3度訪れている。2006年、2010年、2016年である。2006年に訪れた時は、セオドア・シュトローム通り沿いの高層棟の撤去を行っていた。大きなクレーンで建物を壊していく様子は凄まじい迫力であった。ドイツはやることが過激だな、という印象を受けたことを覚えている。さて、しかし、その後、訪れるたびにザクセンドルフ・マドローのまちはよくなっていると感じる。人口は依然として減少してはいるのだが、住環境は改善され、人々の表情も明るくなっているように見受けられる。
 人口が減少することは、まちやコミュニティにとって、その活力の源泉を奪う大きな問題である。特に空き家が増えていくことは、まちの印象を暗く、陰湿なものにしていく。そこで、ドイツ連邦政府は建物を撤去・減築する費用を補助する事業(シュタットウンバウ・オスト・プログラム)を2002年から開始するのだが、その前後で様々な撤去・減築の方法が検討された。
 ちょうど2000年から2010年の10年間事業として、コットブスを含むラウジッツ地方を対象としたIBAフルスト・プックラーラントが実施されたこともあり、ザクセンドルフ・マドローでも多くの創造的で革新的な、団地撤去のあり方が検討された。セオドア・シュトローム通りの事業は、まさにこのIBAフルスト・プックラーラントのプロジェクトとして考えられたものである。
 撤去するのではなく、その構造を残したことで、空間的な配置は残り、それとともに人々の空間への記憶なども維持することができた。住民への心理的なダメージを軽減し、その都市構造を次代に引き継ぐうえでは有益な方法論であると考えられる。値段が新築よりも高くついてしまった点は大きな課題ではあったが、空き家率を大幅に減らすことができたこと(空き家率に限ればゼロ)、また減築という否定的なイメージがつきまとった事業において、実際、その場所の環境を大幅に改善することができる、という肯定的なイメージをつくりあげることができた、という点でその成果はコットブス市だけでなく、ドイツそして全世界に影響を及ぼした。そういう観点でみると、ザクセンドルフ・マドローという場所にとってだけでなく、人口減少そして空き家増加、といった先進国がかかえる課題にとっての極めて効果的な「鍼治療」であったのではないか、と考えられる。

事業主体:

Gemeinnützige Wohnungsbaugenossenschaft "Stadt Cottbus" e.G. Cottbus、IBAフルスト・プックラーラント

事業主体の分類:

自治体

デザイナー、プランナー:

Zimmermann & Partner Architekten Cottbus

開業年:

2002年

類似事例:

020 ニューラナークの再生、ラナーク(スコットランド)
・トゥローヴァー・ストラッセ(Turower Straße)の撤去事業、コットブス(ドイツ)
・アインシュタイン通りの減築事業、ライネフェルデ(ドイツ)
・アーレンスフェルダー・テラッセン(Ahrensfelder Terrasen)の減築事業、ベルリン(ドイツ)
・シュエーンゲルベルグ住宅(Schüngleberg Estate)、ギルゼンキルフェン(ドイツ)

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国:ドイツ
州・県:ブランデンブルク州
市町村:コットブス市