第3回:都市生活者の生活実感

2022年ごろ以降、連日のように食品やガソリン代の値上げが報じられ、2024年からは令和の米騒動と言われるように主食も値上がりする一方で、日経平均株価は過去最高値をつけるなど、暮らしが良くなっているのか悪くなっているのかはっきりしない状況が続いているように感じられます。政治面でも毎年のように総理大臣が交代し、新たな主張を掲げる政党が躍進したり、外国人問題が大きく報じられるといったように日本全体が混沌とした状態に陥っているとも言えそうです。

このような社会環境のなかで、都市生活者は毎日の生活をどのように感じているのでしょうか。
都市生活者意識調査では、「現在の生活満足度」と「現在の生活水準」を聴取していますので、その結果を確認することでどのような生活実感にあるのかを探っていきましょう。

①現在の生活満足度について

現在の生活に満足している度合いを4段階で聴取した結果から確認していきましょう。

こちらは各年度調査の回答者全体を対象に、各選択肢の回答者構成比の推移を見ているグラフです。
満足と不満が同程度の水準で、やや満足が最も多く、やや不満がそれに次いで多い、という結果が毎年続いています。
コロナ禍で「やや満足」が3ポイント低下し、その後持ち直しましたが直近2年ではコロナ禍水準に戻っています。一方で「やや不満」も増加しており、満足と不満足の間で揺れ動いているように見受けられます。
この傾向をよりわかりやすくするため、満足と答えた人の割合から不満と答えた人の割合を引いた値と、やや満足と答えた人の割合からやや不満と答えた人の割合を引いた割合の2つの指標を作成し、傾向を確認してみます。

数字がプラスであれば、各年度の調査結果で「満足」と答えた人の割合が「不満」と答えた人の割合より多いことを示しています。したがってグラフにプロットされた点が上にあるほど、満足している人の割合が高いことを示しています。
「満足-不満足」、「やや満足-やや不満足」のいずれともプラス側になっており、6年間とも満足している人の割合が高い結果になっています。
一方、グラフを横に時系列で見ていくと、「満足-不満足」の傾向はコロナ禍で減少しており、生活に不満を感じた人が増えていたことがわかります。その後水準はコロナ前に戻ってきました。

「やや満足-やや不満足」についてはコロナ禍で値が高くなり、23年度にコロナ前より低くなったのちに24年度にはコロナ禍水準に戻りました。やはり、やや満足とやや不満足の間で揺れ動いているようです。

それでは内訳を年代別に掘り下げていきます。 会社や家庭の中心となっている世代として、男女の30代~50代にしぼって傾向を確認していきましょう。

「満足-不満足」の傾向について男性から見ていきますと、男性30代はプラスマイナスともに値の変動が大きく、その時々の情勢に影響される度合いが高いように思われます。男性40代50代はマイナスの結果になっている年度が多く、不満足と感じている人が多いようです。
これに対して女性は値の変動が少なく、あまり情勢の影響を受けていないように見受けられます。女性30代と女性40代の値の推移が反対の動きをしていることが目に留まる一方、女性50代は直近2年間でマイナス方向に進んでおり、不満を感じている人が増えてきているようです。

「やや満足-やや不満足」では、男性40代で満足する人が増える形で推移していますが、男性50代が不満足側に振れています。もやもやとした不満を感じている人が増えているのかもしれません。 女性40代も同様にここ2年間継続して不満足側に振れてきている一方で、女性50代は24年度には大きく満足側に転じています。男性に比べ女性のほうがばらつきが多く、「満足-不満足」の傾向と比較すると情勢の影響で変動しやすいのかもしれません。

②現在の生活水準について

次に、現在の生活水準をどう感じているかの回答結果を見ていきましょう。

最初に回答者計での傾向を確認します。
6年間の間では目立つような変化は起こっていないようです。

「満足度」で見たのと同様に、「上-下」と「中の上-中の下」の回答率差を見てみましょう。グラフの縦軸がマイナスになっていることから、生活水準が低いと答えた人の割合のほうが高いということがわかります。
時系列の変化を見ると、「中の上-中の下」がマイナス方向に変化しており、そこそこの暮らしだけれど平均よりやや低い生活水準だと感じる人が、平均よりやや高いと感じる人に比べて増えてきていることが見て取れます。

それでは30代~50代の男女がどう感じているか、掘り下げていきましょう。

グラフにプロットされた値がマイナスになっていますので、生活水準については「上-下」の関係では下と答える人の割合のほうが高いことがわかります。男女各年代ともに似たような水準ですので、性別年代などライフステージによる違いはあまりないようです。時系列での傾向も、コロナ禍以降はおよそ安定して推移しています。
ただし、女性50代については24年度でマイナス側に大きく変化しており、この年代での生活実感が変化した可能性があります。

「中の上-中の下」でも、おおよその値がマイナスとなっており、中の上と感じるよりも中の下と感じる人のほうが多いことが読み取れます。
男性30代は回答のばらつきが大きいため、その時々の情勢からの影響で回答が左右されている可能性がありそうですが、男40代・男性50代は右下がりの傾向となっており、「中の上」より「中の下」と答えている人の割合が年々増えていることがわかります。
女性30代は男性30代の時系列の推移と似た動きとなっており、社会情勢の影響を同じように受けているように思われます。女性40代・女性50代も男性40代・男性50代と似た動きになっており、年代が同じだと男女とも似た生活実感のようです。ただし女性50代は直近調査では上昇傾向に転じており、前の項目で見た「上-下」では下と答えた割合が増えていたのと対照的に、中の上と答えた人が増えてきています。中間層ではそこそこよい暮らしに感じている人が増えているのでしょう。

③生活満足度と生活水準の関係

ここまで生活満足度と生活水準についてそれぞれ見てきましたが、この二つの生活実感の間の関係がどうなっているか見ていくこととします。

こちらの表は上が24年度調査、下が19年度調査の結果で、表側側に満足度、表頭に生活水準を置いて回答の構成比を集計したものです。それぞれの表ごとに、すべてのセルを合計すると100%になります。

生活水準が高ければ生活に満足していることが自然だと思われますので、回答は表の左上から右下にかけての対角線にあるセルの値が高くなると予想されますし、実際にそのような傾向になっていることが読み取れます。
一方で、中の上や中の中で満足している、ほどほどの生活で充分、という“現状肯定派” もそこそこ出現しています。19年度調査でも同程度のボリュームで存在しているところを見ると現状に満足して幸せに暮らしている人が一定のボリュームで存在するのは安定した社会の証でもあり、よいことだと感じられます。
一方で、やや不満・不満と答えている層も同様に一定のボリュームで存在しています。

生活水準を「中の上・中・下」と答えた人のうちで、生活満足度が「不満・やや不満」と答えた人の割合を時系列で確認したのが左のグラフです。先ほどクロス表で確認した傾向の通り、生活水準が下がると不満と答える割合も高くなっています。
もう少し細かく見ると、「中の上」では、コロナ禍で不満を抱いた人が増えたもののその後コロナ前より低い水準に低下していますが、「中の中」ではコロナ前より2ポイントほど高い水準で落ち着いています。
中程度の生活水準と考えている人たちの中でも、「中の上」と答える人はより満足度が高くなっていき、「中の中」と答える人では以前よりは満足度が下がっている、というように差が出始めているようです。
一方で「中の下」と答えた人ではコロナ前より過半数が生活に不満であり、コロナ後に不満率が下がったもののその後2年続けて不満率が上昇、コロナ禍の水準に戻りつつあります。中流と感じつつもその中で相対的に生活水準が低いと感じている人たちの中では、暮らしへの不満が高まりつつあることが見て取れます。

それではもう少し踏み込んで確認を進めていきましょう。
調査対象者の年齢は18歳~79歳の間ですが、家庭や職場で中心的な立場で活躍している年代と思われる30代~50代に絞って、前の項目で見た切り口で性年代別に確認していきます。

男女30代では、全体傾向としてはコロナ禍で不満率が高まったものがその後低下してきたが、直近でまた不満率が高まった、という推移になっています。
「中の下」群では女性の不満率が男性より5ポイントほど高い傾向があります。

男女40代も全体傾向は30代同様、コロナ後に不満率が低下してきたものが直近で再び不満率が高まっている状況です。男女間での不満率の差は30代「中の下」ほどは見られません。

男女50代は30代40代とは傾向が少し異なり、「中の下」群で21年度から継続して不満率が高まっています。それ以外の群は他年代と類似しており、また男女間の不満水準の違いも大きくはありません。

以上の傾向を整理すると、30代~50代の「働き世代」において、中間層の中でもよりよい生活水準の層では不満率が下がっているものの、比較的低い生活水準の層では不満率が高まっており、特に50代では一貫して不満が高まっている、という状況です。
状況を解釈すると、「まあまあ普通の暮らしぶりだな」と感じている中間層の中でも上下層で乖離が起こっており、下側の層では不満が高まっているものの、「生活満足度が不満」という状況を解消する方法を見出すことは難しいと思われ、もやもやとした鬱積感が濃くなっているのではないかと推測します。
そのような「自分では解決できない鬱積」は、食品や燃料などの値上げ、紛争や難民などの国際情勢などの外部要因で蓄積されることはあっても解消される要因がありません。そういった不満の高まりが、これまで見られなかったような極端な政治的主張や社会の分断に発展していかないよう、何らかの形でケアする方法を考えていくべきと思われます。