
日本国憲法に定められた国民の3大義務として「教育の義務」「勤労の義務」「納税の義務」がありますが、今回は勤労についての都市生活者意識を見ていきます。
憲法には勤労についてその年齢を定めておらず、勤労とは何かの定義も罰則も規定されていません。また、勤労の権利を有す、とも定められており、生活を支えるためや、社会参加・社会貢献のためなど、どのような動機であれ、勤労する自由を認め、それを推奨しているのが日本だと言えます。
一方法律においては、少子高齢化による労働力不足を背景に、雇用者に対しては高年齢者雇用安定法により60歳未満の定年が禁止され、2025年4月からは本人が希望すれば65歳まで働けるようにすることが義務化されました。さらに70歳までの就業機会の提供が努力義務とされています。
それはつまり、日本の就業者の5割を超える正規雇用者1にとって、60歳まで働くことが多く、望めば65歳~70歳まで働ける環境があることが多い、ということになります。
雇用者であってもより長く働ける環境が作られる一方、働く側の意識はどのようになっているでしょうか。

調査対象者2のうち、きまった職についている人が何歳まで働きたいか答えた結果です。おおよそ75%の人が65歳を超えて働きたいと考えているようです。
コロナ禍前後からFIREやアーリーリタイアという言葉が比較的よく聞かれるようになりましたが、当調査ではこの6年間で59歳以下や60歳までで仕事に就くことを終わりにしよう、という変化は起こっていないようです。
ところで、男女の就業率3が大きく異なることはよく知られており、24年平均では男性84.5%に対し女性は74.1%4と10ポイントほどの違いがあります。
そこで、男女別、かつ、雇用者であれば中堅~ベテランにあたる30代~50代に注目して掘り下げてみましょう。
※1:総務省統計局「労働力調査(基本集計)2024年(令和6年)平均結果」より、労働力人口
6957万人、就業者6781万人、雇用者6123万人、役員を除く正規の職員・従業員3654万人より、3654万人/6781万人=53.9%で算出
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/gaiyou.pdf(2025年9月11日取得)
※2:調査対象者の年齢は、18歳から79歳までの男女です
※3:15 歳以上人口に占める就業者の割合、注記3の調査による
※4:15~64 歳の就業率、注記3の調査による

男女の30代について、いつまで働きたいかの推移を見たグラフです。
男女とも各年ごとの合計がそれぞれ100%になっています。
まず気づくのは、男性30代は各年度の回答傾向が似ているのに対し、女性30代はばらつきが大きいこと。原因の一つには女性のほうが回答者数が少ない5ことがありますが、女性の回答が年によって変わるのは、女性のほうが労働環境が安定せず、その時々の情勢に影響を受けやすい、ということなのかもしれません。
会社の中では中堅世代となる男性30代の傾向は、コロナ禍では働ける限り働くと答えた人が多く出ましたが、その後コロナ前に回帰して65歳まで働きその後リタイア、と考えている人が多いようです。一方で、コロナ禍以降で59歳で仕事は終わり、という考えの人も増えてきており、仕事観が変わってきている兆しを示しているのかもしれません。
30代女性についてはばらついた結果ではありますが少し踏み込んで傾向を考えてみると、コロナ禍でより長く働くように意識が変わったものの、直近ではコロナ前に回帰して定年前に仕事を辞めるか、65歳まで働くか、働ける限り働き続けるか、の3極化しているようです。東京都女性の平均初産年齢が約32.5歳6で、出産を機に仕事を辞めるか、働き続けるかなど、将来の暮らしを左右する決断にさらされる影響が出ているのかもしれません。
※5:男性30代の回答者数が約110人ほど、女性30代は約90人ほどです
※6:厚生労働省「令和5年(2023)人口動態統計(報告書)」による
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/houkoku23/dl/02.pdf(2025年9月11日取得)

男女とも40代になると、各年の傾向がばらつかなくなってきます。
男性40代の傾向は30代と似ており、仕事は65歳まで、とする人が一番多い一方、働ける限り働きたい人が増加しています。一方30代男性同様、59歳以下で仕事を終えたい人の割合がコロナ禍以降で増加傾向のように見え、会社の中では柱となって活躍する世代でも仕事観は変化しているのかもしれません。
女性40代では、コロナ禍で働ける限り働きたい人が最も多くなりましたが、直近2年では66歳以上7と若干早めに仕事を終えたいと意識が変わってきています。

男性50代ではコロナ禍を経て65歳まで働きたい人が最も多かったですが、直近では66歳以上が最多となり、より長い期間働きたいと答える人が増えました。
女性50代でも直近では65歳以上までと働ける限り働きたい人が増え、より長期間働きたいと答える人が増加しています。
次に、その年齢まで働きたいと考える理由を見ていきましょう。 最初は大まかな傾向をとらえるため、年別ではなく6年間計で、各年代男女別に働き終える年齢までのグループごとの労働理由を確認していきます。
実際の調査設問では、その年齢まで働き続ける理由について「日常の生活費を稼ぐため」「老化防止のため」などの複数選択式8で全20選択肢で聴取していますが、傾向把握のために設問を3つのグループにまとめています。
設問のまとめ

それでは回答結果を見ていきましょう。
※7:設問では66歳以上で年齢区分を設定して聴取しており、70歳ぐらいまでと回答している人が多いようです
※8:複数選択式では、各選択肢ごとに当てはまるか当てはまらないかを聞いているため、同じ回答者でも例えば金銭的理由内の選択肢を複数当てはまると答えている場合があります。今回は各グループ内の選択肢に1つでも当てはまると答えていればその理由を選択した、とし、各理由を選択した人の出現率を出したうえで、各設問グループに含めた選択肢数で割ることで、選択肢数の違いによる各理由の選ばれやすさの影響を除外しています。

男女30代では、大まかな傾向として早くリタイアしたいほど金銭的理由で働く傾向があり、より長期間働きたいほど健康的理由・自己実現的理由が高くなっています。

男女40代でもその傾向は同様でした。

男女50代になってもおおよその傾向は同じですが、女性で働ける限り働きたい人は、年代が上がるほど健康的理由が挙げられる率が高くなっています。
コロナ前後を含む期間を通して見ている限りでは、長く働きたいと思うほど、金銭的理由だけではなく健康的・自己実現的理由も選ばれるようです。
また、自己実現的理由を選んだ率は3つの理由群の中で最も低く、自己実現のために働くよりも健康に暮らすために働く、ということがより長期間働くモチベーションにつながっていると思われます。
それでは経年変化を見ていきましょう。
今回の記事の最初に確認したように、労働人口の減少を食い止めるために、高齢者の活躍が期待されています。生涯現役で働くつもりの人の動機は何かを見ることで、高齢層労働力の供給側(働き手側)を活性化するヒントが見えるかもしれません。
各性年代とも、働ける限り働く、と答えている人にしぼり、その理由の推移を確認していきます。

男性30代では、金銭的・健康的理由が同水準なのに対し、女性30代は直近2年間の回答で金銭的理由が低下しているようです。

男性40代は男性30代と傾向は似ており、金銭的・健康的理由が同水準です。
女性40代は女性30代と異なり、最新年調査で金銭的理由が健康的理由を1.5ポイントとわずかに上回っており、自己実現的理由が低下していることも併せて変化の兆しなのかもしれません。

男性50代もそれ以下の年代と傾向は同様ですが、自己実現的理由の値が比較的高く出ています。
女性50代は40代とは逆に、健康的理由が優位な傾向が続いています。
各年代の傾向を比較してみると、男性は50代になると自己実現的理由が高いほうが働ける限り働く気持ちが強くなるようです。
女性は最新年で40代のみ30代・50代と傾向が異なり、金銭的理由がトップになりました。年代的に子育て家庭であれば食費や教育費など何かとお金がかかる年代です。2021年のウクライナへのロシア軍事侵攻に端を発した物価の値上がりが直撃していることがより金銭的理由で長期間働く動機になっている、もしくは働かざるを得ないと思っている、原因なのかもしれません。
男女ともにおおよその傾向としては、コロナ禍で傾向変化があったものの、最新調査年ではコロナ前同様に、65歳まで働いてリタイアしたい、という意向を持っている人が一番多いという結果でした。
働ける限り働くという回答をした人は、金銭的理由に加えて健康的・自己実現的理由がある人が多くなっていました。
長く働きたいと思ってもらうには、労働の健康的な価値や、健康維持につながるような仕事の紹介など、「働いて社会参加し、健康でいよう」という気持ちになる人が増えるような働きかけが効果的なのかもしれません。