2021年、ヴェネチア・建築ビエンナーレから学ぶこと
2021年11月5日|執筆:山下めぐみ (ロンドン在住)
例年より人出は少ないヴェネチア・ビエンナーレ会場。©Andrea Avezzù
アート展と交互に2年おきにイタリアの古都ヴェネチアで開催になる『ヴェネチア・ビエンナーレ・建築展』。17回目となる今回はパンデミックで一年延期後、関係者の渡航もままならないなか5月にスタートしている。8月末には少し渡航がしやすくなり、金獅子賞などの各賞の審査が行われるのを機に、各国から展示者の多くも現地に集合。私もロンドンよりヴェネチア入りした。
ジャルディーニの中心にあるセントラーレ館。 今年のテーマはHow will we live together−我々はいかに共存していくのか。© Francesco Galli
『ヴェネチア・ビエンナーレ』とは、イタリア政府の援助で1895年に始まった国際芸術展である。各国から出展が並ぶ博覧会のような形式で「芸術のオリンピック」と称されることもある。メイン会場の公園「ジャルディーニ」はナポレオンの命で整備されたもの。ここに1907年よりビエンナーレ展示のための各国のパビリオンが建ち始め、現在は30カ国のパビリオンが並ぶ。日本館は吉阪隆正の設計で1956年に建てられたものだが、各館とも建てられた時代のスタイルや国力が反映されたものというのも興味深いところだ。ジャルディーニにパビリオンを持たない国は、もう一つの会場、旧海軍の造船施設である「アルセナーレ」内などに展示されることになる。
建築展が始まったのは1980年のことで、定期的に開催されるようになったのは2000年からと、アート展に比べ歴史は浅い。毎回、指名された総合ディレクターがテーマを設定し、それに沿って国別のものと企画展的なものが展示になる。私自身、2002年の建築ビエンナーレから毎回欠かさず取材をしてきたが、『ミラノ・サローネ』のような商業的「見本市」ではなく、世界が抱える問題に対する建築を通した解決策の提案の場といった感じで、毎回、建築が人の暮らし、あるいは環境にポジティブなインパクトを与えるための社会性の高い展示が中心になる。
過去20年のビエンナーレを振り返る
ざっと過去20年のテーマを振り返ってみたい。2000年といえば、テクノロジーの進歩もありアイコンになるような派手な建築が世界各地に建ち始めた時期だが、その年のテーマは敢えて「見た目重視から、倫理重視へ」だ。以後、2002年「ネクストー次の建築」、2004年「メタモルファー変容」、2006年「建築と都市」、2008年「建物を超えた建築」と続く。
2008年はプレビュー時にリーマンブラザーズが倒産し、時代が大きくシフトするなか「アウト・ゼア 建物を超えた建築」をテーマに、バブル崩壊を見越した展示も見られた。2010年は妹島和世が女性かつ東洋人で初のディレクターに起用され、「建築で人々が出会う」をテーマに空間の体感性などを提示。2012年 「コモン・グランド 共有するもの」と続く。
2014年にはレム・コールハースが「ファンダメンタルズ」をテーマに、近代建築100年の歴史を膨大なリサーチを元に検証。一つの時代の集大成を行い、今後100年をどのような世界にしていくべきかを考えるための「基礎知識」が示された。
今年のテーマは「我々はいかに共存していくのか」
それから2回のビエンナーレを経て5年。今回のディレクターを務めるのはレバノン出身で、MIT建築計画学部長ハシム・サルキスだ。テーマは「How will we live togetherー我々はいかに共存していくのか」。環境破壊、気候変動、移民、難民、格差、人種やジェンダーの問題、家族の在り方の変化など、世界が直面する課題への答えを探ろうというものである。
パンデミックという予想外の事態で一年延期になったわけだが、このことが、今回のテーマを一歩深めることにつながった面もある。
日本館のキュレーターを務めた明治大学准教授で建築家の門脇耕三氏は言う。
「ビエンナーレは各国が受賞を競うという形式でもありますが、会期延期で各国のキュレーターとオンラインで対策など話し合うなか、『競争してる場合ではない』『連帯を示すような展覧会にしたい』という思いが強くなりました」。
いわゆる有名建築家の展示はほぼなく、「エゴからエコへ」という意識のシフトや、「地球の住民」として国を超えてのコラボレーションも多く見られた。
各国の展示や受賞作をはじめ、印象的な展示をいくつか紹介したい。
審査委員長の妹島和世らと受賞者たち。© Andrea Avezzu – courtesy La Biennale di Venezia
各国館の展示
アラブ首長国連邦館 Wetland (金獅子賞受賞)
国別部門の金獅子賞を受賞したのは、サステナブルなセメントに関する展示を行ったアラブ首長国連邦(UAE)だ。ドバイと東京にスタジオを置くレバノン人のワイル・アル・アワールと寺本健一率いるwaiwai による作品である。(寺本は受賞前に退社)。原油がもたらす富を元に、遊牧民が暮らす砂漠から、アブダビ、ドバイなど高層ビルが林立する近代都市が急激に開発されたUAE。国民一人当たりのCO2 排出量では世界のトップ5に入るが、パリ協定に基づき2030年までに排出量の大幅削減する必要がある。サステナブルな建材を求めるなか、「サブカ」と呼ばれる結晶化した塩で覆われた湿原に着目。塩から取り出した酸化マグネシウムを結合材にしたセメントを開発することを思い付いたという。
サブカは塩に覆われているが、その下には何層にも渡って生物、植物、微生物らの生態系が形成され、一平方メートルあたりでは熱帯雨林よりCO2 を吸収するそうだ。一方、UAEは海水の淡水化が世界で三番目に多く、海に垂れ流される濃縮塩水が生態系に与える影響が問題になっているという。そこで、この濃縮塩水を利用し、そこから酸化マグネシウムを分離。東京大学などの協力をもとに、セメントの試作製造に成功した。自然の美しさや伝統と環境破壊を対比させながら、国境を越えたコラボレーションによる具体的な解決策の提案で、詩情豊かな展示も評価されての受賞となった。https://nationalpavilionuae.org/architecture/2020-2/
ヴェネチアでキャストされた2400個のプロトタイプとサブカの様子の写真で構成された展示。©Megumi Yamashita
プロトタイプは東京大学の佐藤淳研究室と小渕祐介研究室が協力で製作。©Courtesy of National Pavilion UAE – La Biennale di Venezia and waiwa
デンマーク Con-nect-ed-ness
ジャルディーニにあるパビリオンの屋根などから集められた雨水をテーマにした展示。パビリオンの外には雨水を集めたタンクが置かれ、館内には天井から水が落ちるインスタレーションがあり、水溜りがあり、川があり、池があり、植物を育てるプランターがあり。生命の元にして癒しの効果もある「水」について五感で感じる展示になっている。ここで育てたハーブと浄化した雨水で入れたお茶も出してくれる。人間にとって必要不可欠な「水」だが、ここで集めた雨水だけでここまで可能なのだ、ということが具体性とデザイン性も素晴らしい。https://dac.dk/en/exhibitions/con-nect-ed-ness/
集めた雨水を配水するパイプが回らされたデンマーク館。ハーブなども育てている。©Megumi Yamashita
館内の一室は「池」になっており、その上にプラットフォームが浮かぶ。©Francesco Galli
アメリカ American Framing
パビリオンの前に3階建ての木造のストラクチャーが登場したアメリカ館。19世紀に北欧やドイツからやってきた移民たちによって建てられ、中西部から全国に拡がっていった木を骨組みにしたフレーム構造(バルーン構造・プラットフォーム構造)住宅の展示だ。安価な木材を使って比較的簡単に建てられるので、現在でも全米の90%の住宅はこの工法で建てられているとか。シンプルでフレキシブル、そしてサステナブル。アメリカの「ヴァナキュラー(土地固有の)」としての再評価と可能性を促している。https://americanframing.org
パビリオンの前に3階建ての木造フレームのストラクチャーを建てたアメリカ館。©Megumi Yamashita
中に柱がないフレーム構造なので、フレキシブルに間取りを決めたり変更したりできる。©Megumi Yamashita
フィンランド New Standard
第二次世界大戦時にソ連に領土を奪われ、41万人が難民となったフィンランド。早急に住宅を供給するために開発されたのが、DIYで建てることができる「プータロ」と呼ばれる木造のプレハブ住宅だった。戦後は「住宅キット」として世界各地に輸出され、引き換えにポーランドとは石炭、イギリスとはトラクター、デンマークとは乳製品、フランスとはワインとシルクなどと交換されたという。基本は仮設住宅だが、築80年になるプータロも各地にあり、サステナブルな住居としてのリバイバル、また「物々交換」で各国が助け合った歴史を振り返るものでもある。https://www.thestoryinstitute.com/new-standards
戦後の住宅不足を支え、世界各地の輸出し物資と交換された木造のプレハブ住宅「プータロ」。©Francesco Galli
シリアやアフガニスタンからの難民や移民が多いヨーロッパ。「プータロ」が再活躍するか?©Francesco Galli
日本館 ふるまいの連鎖:エレメントの軌跡
1954年に東京に建てられた後、何度か増改築を繰り返した後に解体された「高見澤邸」の建材や建具などを会場に持ち込んだ日本館。そこに刻まれた建物の歴史と時代背景、技術などの変遷を解析した展示になる。当初は会期中、建築家チーム(門脇耕三、長坂常、岩瀬諒子、木内俊克、砂山太一、元木大輔)が順番で日本の職人と現地入りし、部材をリサイクルした作品などを制作予定だった。コロナにより現地入りができなくなり、代わって部材は3Dスキャンしてデータ化し、展示作業もリモート指示で進められた。その間、フィリピン館の展示とのコラボレーションが実現し、会期後、部材はノルウェーに輸送され、オスロの郊外のスレッテロッカと言う街で、移民の多い地区のコミュニティセンターとしてリサイクルされることになっている。予期しなかった「ふるまいの連鎖」が起こることこそ、こうした国際イベントの醍醐味だろう。https://www.vba2020.jp
ブルーシートの上に解体された「高見澤邸」の残骸が年代中に並ぶ。階下のワークショップの様子も見える。© Francesco Galli
パビリオンのピロティ部はワークショップで、家具作りなどが行われている。©Megumi Yamashita
ロシア Open (特別賞受賞)
ロシア館は1914年に開館したもの。今回はこのパビリオンのリノベーション自体が、「展示」である。石上純也に師事したアレクサンドラ・コヴァレヴァと佐藤敬による建築ユニット〈KASA〉がコンペを経て改修を担当している。パビリオンはこれまで改装が繰り返され、ソ連時代には窓が塞がれるなど、暗くて閉鎖的な雰囲気だった。それを元の建築の要素を尊重しながら、天窓や窓を開放するなどでガラリと明るく再生。「開かれたロシア館」を印象付けた。また、各所に可動式の要素を取り込み、フレキシブルなスペースを体現。将来、会期外には地元市民が使えることも考慮に入れての改築は、これからの建築のあり方を示唆したものとして評価され、特別賞を受賞している。https://www.pavilionrus.com/en
ロシア館の改修を手掛けたロシア人アレクサンドラ・コヴァレヴァと日本人佐藤敬による建築ユニットKASAの二人。©Megumi Yamashita
オリジナルの建物を尊重しながら、フレキシブルで明るいスペースにリノベーション。©︎Marco Cappelletti
フィリピン Structures of Mutual Support − 助けあいの仕組み(特別賞受賞)
ロシア館と並んで特別賞を受賞したのはフィリピン館である。ノルウェー人のアレクサンダー・エリクソン・フルネスとフィリピン人のスダルシャン・カードゥカによるプロジェクトになる。
パビリオンは持たないため、会場となったアルセナーレの一室に、フィリピンから解体して持ち込んだコミュニティ図書館が移築されている。フィリピンには村落の人々が共同で道路や橋を作ったり、農作業をする「バヤニハン」という慣習がある。この延長で、この図書館は地元の人たちと共同でデザインから建設まで行ったものだという。2013年のスーパー台風ハイヤンで大被害を受けたフィリピンだが、二人は孤児院の再建に参加。その体験から住民が復興作業に具体的に参加することが、心理的な立ち直りに重要であることを学んだという。この方式を世界に広げて行こうというプロジェクトだ。ノルウェーの「ダグナッド」、日本の「結」など世界各地の相互援助制度や慣習についての展示もある。日本館に展示中の「高見澤邸」の部材をリサイクルしてノルウェーにコミュニティセンターを建てる計画も、この一環になる。 https://philartsvenicebiennale.org
住民とともにデザインして建てられた図書館を一旦解体し、アルセナーレの会場に移築している。©Andrea D. Altoe
フィリピンで実際に地元の人たちによって建てられた時の様子。©Chris Yuhico
ドイツ The 2038 New Security
今回、QRコードからのリンクで内容を補足する展示が目についたが、ドイツ館はその極端な例。パビリオン内には展示は何もなく、白い壁にはQRコードがあるのみ。これをスキャンしてバーチャルな展示をスマホなどで見て下さい、というものだ。内容は2038年の世界はどうなっているか、というもの。ファクトとフィクションをあえて曖昧にしようというのが意図のようだが、コロナ禍、デジタルやバーチャルに飽き飽きしている訪問者には、すっかりスルーされている印象を受けた。https://www.labiennale.org/en/architecture/2021/germany
展示は白い壁にQRコードのみのドイツ館。©Francesco Galli
QRコードをスキャンしてバーチャルな展示を見る。©Francesco Galli
そのほかの展示
アルセナーレの巨大なスペースの展示テーマは「多様な存在の中で」「新しい世帯のあり方」「これからのコミュニティ」となっている。膨大の量の展示から、いつくかピックアップしてみた。
アーバン・プラクティスの実例 by〈ラウムラボア・ベルリン〉(金獅子賞受賞)
展示に与えられる金獅子賞は、ドイツの建築家集団〈ラウムラボア・ベルリン〉が受賞。ベルリンの空港跡地に仮設運営されるFloating University や旧東ドイツの旧統計局ビルの再生など、草の根的コミュニティプロジェクトの展示だ。Floating Universityは雨水の貯水池内に建つ水の濾過施設を中心にした仮設的な建物で運営されるもので、バイオダイバーシティを保全しながら、未来のビジョンについて考えるワークショップやイベントを主催している。
このほかにも1960年代後半のヒッピームーブメントを彷彿とさせる展示が多く見られた。
ただし、単にレトロなプロジェクトなのではなく、テクノロジーを駆使しながら、人類がいかに地球の未来を築いていくのか考える実験的なものが目に付いた。https://www.labiennale.org/en/architecture/2021/emerging-communities/raumlaborberlin
ベルリンの「フォローティング・ユニバーシティ」の一部を再現。©Andrea Avezzù
イラストなども1960年代風。©Andrea Avezzù
いかに再スタートするか:統一的アーバニズムへのイニシエーション by Cohabitation Strategies
オランダ、ロッテルダムをベースにするコレクティブによる展示は、資本主義や商業主義がリードしてきた都市開発によって、コミュニティが分断され、文化や環境も破壊されたことを指摘。そこから脱却し、環境的にも社会的にも正当な都市を再び構築するための4つのステップが展示されている。ヨーロッパで実際に進行中のアクティビズムを分析している。https://www.labiennale.org/en/architecture/2021/emerging-communities/cohabitation-strategies
資本主義の限界を指摘する扇動的なデザイン。©Marco Zorzanello
「自分を変えることで、都市を変えよう」などのスローガンが並ぶ。©Andrea Avezzù
エゴからエコへ:自然より学ぶ by EFFEKT
デンマークの建築スタジオEFFEKTによる展示は、1000本の小さな苗木をハイドロポニック(水耕栽培)で育てながら、自然との共生を学ぶというもの。随時更新されるデータをもとに、システムの管理はコペンハーゲンのスタジオから遠隔で行っている。会期後、苗木はデンマークで植樹される計画だ。テクノロジーを使いながらも「自然から学ぶ」ことを促す展示であり、また、会期後も無駄にならないことも、今回、多くの展示に見られた傾向だ。 https://www.labiennale.org/en/architecture/2021/emerging-communities/effekt
「エゴからエコへ」は未来のためのキーワード。©Marco Zorzanello
1,000本の苗木を水栽培し、会期後はデンマークで植樹される。©Marco Zorzanello
タンバクンダ病院に関わるたくさんの人たち by マニュエル・ヘルツ&イワン・バーン
アフリカや中近東などからの展示もかなり増えた今回。欧米のNPOや建築家がサポートするものが主流ではあるが、地域の特性や文化に寄り添い、コミュニティや経済の活性化を目指すプロジェクトから学ぶところは多い。セネガルのタンバクンダに病院を建てるプロジェクトは、ヨゼフ&アンニ・アルバース財団とLe Korsa (https://www.aflk.org/)の主導で、スイスの建築家マニュエル・ヘルツが手掛けるものだ。テラコッタ製の透かしブロックを使ったデザインは、風通しがよく涼しいだけでなく、視覚的な美しさも患者のウェルビーイングに効果が大きいだろう。
展示は単なる建築デザインのことではなく、医療、文化、経済など、地域に与える多角的な効果を問いかける。日本からは遠い国であるセネガルだが、同じ財団が手掛けた文化センター〈スレッド〉はニューヨークをベースにする森俊子によるものになる。https://www.labiennale.org/en/architecture/2021/emerging-communities/manuel-herz-architects-and-iwan-baan
地元で作るテラコッタ製の透かしブロックを使い、風通しのいい施設に。©Megumi Yamashita
プロジェクトが地域に与えるさまざまな影響をイワン・バーンの写真でつづる。©Andrea Avezzù
マテリアル・カルチャー:共生の物理的基質の再考 by アキーム・メンゲス+ヤン・クノッパーズ
新素材とロボティックを使った建築を追求するのはシュツットガルト大学の ICD (コンピューテーショナルデザイン研究所)のアキーム・メンゲスとITKE (建築構造&構造デザイン研究所)のヤン・クノッパーズによるプロジェクト「メゾン・ファイバー」だ。カーボンファイバーとガラスファイバーをロボティックが編み上げた構造体で、未来の建築の可能性を問いかける。https://www.labiennale.org/en/architecture/2021/new-households/achim-menges-icd-university-stuttgart-and-jan-knippers-itke-university-stuttgart
カーボンファイバーとガラスファイバーをロボティックが編み上げた構造。©Andrea Avezzù
細いファイバーも重ねることで強度が出る。©Megumi Yamashita
そのほか、ジャルディーニにある「セントラーレ館」では「境界を超えて」「ひとつのプラネットとして」の2テーマで展示。建築家だけでなく科学者やアーティストによるプロジェクトが所狭しと並ぶ。日本からは海法圭による新潟県上越市の雪を使った「天然の冷蔵庫」が出展されている。
そのほか、新人賞に当たる銀獅子賞はアムステルダムの〈Foundation
for Achieving Seamless Territory (FAST) 〉が受賞。イスラエルの攻撃を受けながらも野菜や果物作りをよりどころに暮らすパラスチナのガザのコニュニティの様子を伝えるで展示である。
気候変動、格差、難民、人種、ジェンダーなど、課題が山積みのなか、草の根的なものから都市規模のものまで、世界各地で実際に行われている各種の取り組みはインスパイアされるものだ。テクノロジーの進歩でコロナ禍でも国境を越えたコラボレーションは着実に進行し、世界は以前にも増してつながっていると感じた。小さな取り組みが社会全体、地球全体へと拡がる速度も早まっている。「いかに共存するか」というテーマは、コロナ禍で奇しくも更に重要性を増している。
近代化の歴史は、エゴ的な搾取の歴史でもあると言える。地球から資源を搾取し、欧米諸国の多くは植民地や奴隷によって富を築いた。そして先進国が発展途上国を「指導する」という姿勢だったわけだが、この「近代化」によって得たものの代わりに、自然やコミュニティ、伝統技術など、多くのものが失われてしまった。古代から引き継がれる暮らし方や生活の知恵、天然素材を使った建設方法など、実は発展途上国の方が失わずに維持している、という面もあることも気付かされた。
また、アイコン的な派手な建築で「町を興す」という時代が終焉したことも、今回はっきりと示された。経済が潤う仕組みであったとしても、それは地元の人より観光客のためのまちづくりだったとも言える。奇しくもコロナ禍で「観光」が停止したことも、街や都市のあり方を考え直すきっかけになった。では実際にどうしたらいいのか? そのヒントとなる取り組みの展示がここにはたくさんある。テクノロジーの進歩により、地域性を重視しながらも世界とつながり、「共存」していく道も示された。建築とは「建物」だけでなく「街」そして「未来」を創造していくことなのである。今年は日本からの渡航は難しいと思われるが、次回、2023年の建築ビエンナーレはぜひ多くの方に訪問していただきたい、今からそう願っている。
La Biennale di Venezia 17th International Architecture Exhibition Giardini and Arsenale, Venice, ☎︎39 41 5218 828 ~2021年11月21日 11時~19時。入場料25ユーロ(事前オンライン購入必須) https://www.labiennale.org
執筆:山下めぐみ (建築ジャーナリスト/コンサルタント) ロンドンをベースにヨーロッパ各地の最新建築やデザイン、都市開発について各誌に執筆する。在英は28年め。世界のトップクリエーターへのインタビューや現地取材を通して学んできたことを伝え、交流の場となるプラットフォーム Architabi (アーキタビ)主宰。www.architabi.com
企画・構成:紫牟田伸子(Future Research Institute)