テリトーリオ

vol.4

福井PJ調査報告 WS参加とインタビュー

福井での調査も今年で3年目となりました。

私たちは、ケニアで調査してきた「テリトーリオ」の概念を、日本の地方都市である福井と比較し、その実態を生で体感するために、今年も「光風湯圃べにや」さんを訪れました。

今回のレポートでは、伝統的な美意識に触れたワークショップと、べにやの女将さん、そして室長のひろきさんへのインタビューを通して見えてきた「地方都市のテリトーリオ」について綴ります。

Day1:ワークショップに参加!

1日目は、べにやさんの象徴的な空間である障子を張り替えるワークショップ「陰翳礼讃プロジェクト」に参加しました。

単なる設備の維持管理ではなく、「旅館は地域の美術館でもありたい」というべにやさんの考えのもと 、建築を介して地域の人々が関わり、その建築に愛着を持つ 。
参加者が共に手を動かすことで、新しい関係性が生まれ 、伝統を次世代へと繋いでいく。
これこそが、単なる観光地ではない、生活の延長線上にある「時代を超えたテリトーリオ」の姿なのだと実感しました 。

Day2:女将さんと室長さんへインタビュー!

2日目は、女将さんと室長のひろきさんにお話を伺いました。そこには、効率や規模を追い求めるのとは異なる、豊かさの循環がありました。

あわら温泉の老舗旅館 光風湯圃べにやの室長。べにやは2018年に火災により全焼したが、小堀先生の設計により2021年に再建された。「旅館は地域の美術館でもあるべき」と考え、地域を知ってもらうための入り口としての役割を大切にしている。

—— 生産者さんとの繋がりが、普段の営業にどう活かされていますか?

小さな宿なので、その日の仕入れ量に合わせて献立を柔軟に変えられるのが強みです 。テリトーリオという考え方があるからこそ、臨機応変な対応ができています 。また、お米のネットワークのように、譲り先に宿のお風呂を貸したりといった、地方ならではの深い人間関係も大切にしています 。こうした繋がりを深くしていくことが、食料の需給バランスを保つ上でも大事だと考えています 。

—— 地域に対して、旅館はどのような存在であるべきだとお考えですか?

旅館は「地域の美術館」でもあるべきで、地域を知ってもらう入り口になりたいですね 。実際、地元の小学生のまち探検授業で宿を開放し、幼い頃から和室の美しさに触れてもらう「時代を超えたテリトーリオ」も意識しています 。若い世代が地域に目を向け、旅館が幸せになることで地域も幸せになる。そんな「あわら風のテリトーリオ」を目指しています 。

—— コロナ禍を経て、変化したことはありますか?

コロナ期は「エリアごとどこも潰すな!」というまとまりが非常に強かったです 。この地域はファミリービジネスが多く、その繋がりがエリアの魅力になっています 。

あわら温泉の老舗旅館 光風湯圃べにやの女将。べにやは2018年に火災により全焼したが、小堀先生の設計により2021年に再建された。“楽しく働く”ことが重要だと考え、お客様だけでなく、従業員、また、生産者の方との関係づくりにも力を入れている。

—— 女将さんにとって「テリトーリオ」とはどのような意味を持ちますか?

私たち自身がとにかく幸せに営むことで、それが地域の景色や「まちの見え方」になっていくのだと思います 。コロナでお祭りがなくなってしまいましたが、本来は踊って楽しむことで地域の輪が作られるものです 。

—— 伝統工芸や食についてのこだわりを教えてください。

伝統工芸の繋がりも、あわらを超えて福井県全域まで広げたいです 。実際に自分たちで若狭まで足を運び、その人の「営み」を確認して、私たちの営みと照らし合わせてから取り入れます 。

—— お客さまへのおもてなしで大切にしていることは?

たとえお米の出来が良くない年があっても、それをエピソードとしてお話しすることで、ポジティブな思い出に変えて未来に繋げます 。単なる地産地消ではなく、お互いの「営みを交換すること」を意識しています 。また、高級旅館では子供禁止のところも多いですが、べにやでは子供たちを受け入れます 。子供の時に得た心地よい体験は、将来思い出してもらえる大切なものだからです 。

インタビューから見えてきた福井の「テリトーリオ」

今回のインタビューを通して、べにやさんの活動の根底には「営みの共有と交換」があることを強く感じました。

それは、ただ地元の食材を使うだけでなく、生産者さんの思いや苦労を「物語」としてお客さまに届け、ポジティブな体験に変えていく姿勢です 。また、旅館を「地域の美術館」と捉え、地元の小学生を受け入れたり、伝統工芸の作り手を直接訪ねたりすることで、地域文化の守り手としての役割も果たされています。

建築についても、外壁をなくして厨房を見えるようにしたり、蛇行する廊下を作ったりと、従業員が楽しく働きやすく、建築の力を感じられる工夫が凝らされています。完璧さを追求するのではなく、70点でも前向きに「みんなで夢を見る(Collective Dreaming)」という考え方が、べにやさんらしい温かなテリトーリオの広がりを作っているのだと学びました。

最後になりましたが、多忙な中、私たちを家族のようにあたたかく迎え入れてくださった女将さん、ひろきさん、そして「べにや」のスタッフの皆様に心より感謝申し上げます。

皆様の朗らかなお人柄と、随所に感じられるおもてなしの心に触れ、私たち自身もこの土地のテリトーリオの一部になれたような、そんな温かい気持ちで調査を終えることができました。教えていただいた「営みの交換」という視点を大切に、今後の研究を深めていきたいと思います。本当にありがとうございました。

次回は、これまでの調査から、ケニアと福井を「テリトーリオの2つの姿」として再構成し、自然との共存という観点から、それぞれの地域構造や思想の共通点・異なる点を探っていきたいと思います。

福井テリトーリオ
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