最終回

Tenki Report: Final

 8人のインタビュー取材は、3回を東京で実施、残りの5回は地方都市で実施した。取材場所もご自宅であったり、職場に伺ったりと様々で、2022年7月から10月という期間を要した。途中、新型コロナウイルス感染症による延期も2度経験した。「たかが8名」というご指摘もあるかもしれないが、充実した時間を過ごさせて頂いたと思っている。
 結果的に8名のうち6名が女性ということになった。男女均等に割り振ることもできたと思うが、たまたま得られた機会が女性に偏ってしまい、むしろ均等に振り分けることにこだわる必要はないと考えた。女性の方が多様な生き方を選択しているのではないかという先入観・偏見があり、男性の人数を増やす事にこだわる必要はないと判断したのは、私自身が男性であることが影響しているのかもしれない。
 インタビューでは転機にフォーカスをあてているので、過去から現在、そして未来といった流れになる。実際に学生時代から振り返ってもらい、現在までの転機となる出来事やタイミング、そして現在の自分、これからの自分という形で、インタビューを進めることとなった。
 対象者には、二十歳そこそこのZ世代に含まれる方と、団塊ジュニア層(1971年から1974年生まれ)前後の方がいる。両者においては約30年の年齢差があり、年齢による転機の絶対量が異なるという事実がある。また、時代が異なることに加え、地域も異なり、育った背景というものも異なる。概ねバブル以降、経済成長を背景としない時代に社会人として成長していく、彼ら彼女らの転機の捉え方、自らの進む道、幸せや自己実現の模索といったものがどのように繰り広げられるのか。また、共通するような考え方、つまり、団塊ジュニア以降の世代に通底する人生の転機における考え方とは何か、本インタビュー取材から、導き出そうと試みた。
 取材を終えてから着目したポイントとして、下記の4つを挙げたい。各々の結果において定量調査から導かれるような相関や法則性といったものはないが、取材を通して感じたこととして整理したうえで、特に印象に残る部分について言及していきたい。

① 親・家族という環境

 誰しも最初のコミュニケーション環境であり、信頼関係を構築するのは、親そして家族ではないだろうか。下表はインタビューを実施した8人の方の親との関係について、印象に残る言葉を抜粋して一覧とさせていただいた。比較して優劣を問うものではなく、転機や生き方への影響を考えるため、分かりやすくしたつもりである。また、その後変化して「現在は尊敬している」といった言葉があったり、身近な存在故に、関係が変化したりしていることも事実である。故に下表は、対象者が10代から20代に差し掛かる頃の親との関係と言えるだろう。

親との関係を示す象徴的コメント

 最初に、佐藤さんの「両親のような家庭を築きたい」という言葉のインパクトを取り上げたい。外連味なく発せられた言葉に、今どきこんな人がいるのかと失礼ながら驚かされた。更に失礼も顧みずご本人に、「周囲の人との違いを感じますか」と問うたところ、周囲の人が別の生き方をする、価値観をもつことについてはそれを理解した上で、自分の考えとしては全くぶれないとのこと。彼女は仕事に対して真面目に取り組んでいて職場での評価も高い。但し、やがて本人は結婚し、退職し、専業主婦という母親と同じ道を選ぶことを決めている。幸せという価値がそこにあることを信じて疑わない姿に感動を覚えた。私と同じような思いを感じる人も多いのではないだろうか。その一方で、かつての日本は親の姿をトレースすることが最初の選択肢であったのかも知れないという気づきももらった。
 続いて、田中さんの「いかにも楽しそうに、生き生きと働く両親」の影響を受けて農業に邁進されている姿に感銘を受けた。ご夫婦で取り組む農業、しかも新たな挑戦を実践されている姿は、単に親の代からの継承ではなく、イノベイティブな取り組みとして継承し、誇りを持ち、また、時代の要請(環境問題など)にも対応し、次代へと繋ぐ…、そこには企業が課題として取り上げるようなテーマが埋め込まれていて、それを自然体で楽しんでいる姿が何とも魅力的である。ご主人もほぼ同様の考えをお持ちであり、異なる点が生じた時には話し合って解決するらしい。既に10代後半のお子様が「農業を継ぎたい」と意思表示されているとのこと。決して容易な道ではないと話されているが、前向きに楽しく取り組む親の後ろ姿を見てきた故のことだろう。
  山本さんの場合はお母様との関係が興味深い。専業主婦であったお母様とともに、会社を興して、子育てを終えたお母様の生きがいを創出するといったことを行っている。人生100年時代、子育てを終えてからのやりがいを我が子との協働に見いだせる母親の姿には、考えさせられるものがある。友達のような親子という関係以上に、子どもと一緒に働くという親子の関係性、ある意味では親子逆転的でもあって教えられることはたくさんある。

② 学校・学友という環境

学校・学友などとの関係

 8人のインタビューを通じて感じたことは、自分自身の興味の延長線上に大学などに在籍する期間が存在しているかどうかである。佐藤さん、山本さん、田中さん、伊藤さんは、専門学校や大学に目的をもって進んでいるため、山本さんは大学院まで進むことになったものの、興味との関係において直接的な繋がりの強さを感じる。専門学校や大学を目的をもって選ぶことの重要性を痛感する。
 一方で、鈴木さんは高専、大学、大学院と進むが、高専や大学での学びがベースとなるものの、人との出会い、ボランティア活動や起業仲間の存在が大きく影響している。中川さんも学生時代のアルバイト先での経験を「人生の財産」と表現している。鈴木さんや中川さんが何かを真剣に模索していたということが、このような展開へと繋がったのではないかと思う。アルバイト先やボランティア活動といった副次的な機会の重要性も学生時代においてはあるのだろう。
 高橋さんは「学生生活を面白いとは一度も感じなかった」とコメントしている。高橋さんは、その後、興味をひかれたという理由で、バーテンやホストを経験している。大卒であるという事実よりも、その時の「今」というかけがえのない時間を重視した上での行動であろう。生きていく上で、模索する夢に関する影響としては、学校における学びだけではなく、人との出会いやその瞬間や時間というものの重要性が再認識させられる。

③ 会社への帰属意識

就職経験や会社・仕事との関係

 会社への帰属というと、「終身雇用制」「年功序列賃金」「企業内組合」という戦後の経済成長を支えたというべきか、経済成長をバックに機能したというべきか、この3つが思いつく。まさに団塊世代がサラリーマンとして生きてきた時代である。団塊ジュニア以降は、生活の安定という意味で、終身雇用制などを評価するむきもあるが、企業の側からもこれら3つを堅持するという意識は感じられず、例えば非正規雇用やジョブ型採用などを推進したりする事実が広がっている。企業が社員の生涯の面倒をみるという時代ではないのは明らかであり、それは雇用する側も雇用される側もともに感じていることだろう。
 中川さんは「生活の安定よりも自分のやりたいこと」とコメントし、伊藤さんは「老後のお金の為に働くより、自分の好きなことをしながら働く」とコメントしている。自分の好きなこと、やりたいことが先ず自分の中心にあって、それに繋がる学びや働く機会の模索という時代になってきている。それは仕事の面だけではなく、人間関係や将来の家族計画などにもあてはまることだろう。
 「あなたの職業は?」「どの会社にお勤めですか?」という問いよりも、「あなたはやりたいことをやっていますか?」「その途上にありますか?」という問いの方が、人生のてんき予報における意味が大きいという時代なのである。

④ 夢を追いかけるということ

夢を追いかけるということ

 夢といっても千差万別である。「親のようになりたい」「貧困問題を解決したい」「自分の好きなアートで働きたい」…、8人のインタビューからも違いが分かる。インタビューからは「大企業に入る」といった夢は時代錯誤なのかもしれない。そこには自分の幸せは約束されないのであろう。但し、約束される人の存在を否定するものでもない。あくまで千差万別なのだから。
 大谷さんは「ありのままでいいんだ」とコメントし、就職や結婚や出産といったことをあてはめられるような、教科書的な生き方を自分らしくないと考えている。確かに寿命が延びる中で、「〇歳で××」とライフイベントに束縛されて生きるよりも、好きなことを追いかける「ありのままの自分」という生き方の方が楽しいし、長い人生を生きる上で幸せなのかもしれない。

インタビュー全体を終えて

 今回のインタビュー対象者は、団塊ジュニアからZ世代までである。この2つの世代には年齢的に大きな幅がある。「失われた30年」といった経済の低迷を指す言葉があるが、生きるということは経済成長(低迷)だけに依存しているわけではなく、生活環境や人間関係など、様々なことがらが変化する中に身を置くということである。従って、51歳の伊藤さんと21歳の佐藤さんにみられる違いは当然存在している。その一方で、共通するであろう特性というものも存在する。
 例えば、私個人の職歴(新卒で入った会社に30年以上在籍)について、伊藤さんは転職経験が無いことに驚き、佐藤さんには同じ会社にずっと長くいることが想像できないと言われた。つまり、同じ会社で勤め続けることについて、不思議がられるということがあった。個人的には、不思議がられるものでもないと思うが、時代は変化しているようで、8人の中で21歳の佐藤さん以外は、転職や起業の経験をお持ちである。農業を営む田中さんは、株式会社として起業している。佐藤さんにおいても結婚を機に退職すると断言している。今、夢の途中にいるかどうか、幸せを追い求めているのかどうか、自らに問うことでしっかり生きている気がする。
 今回、インタビューさせていただいた8人の方は、夢を追いかける、自らの生き方を模索する力が強い人ばかりと言ってもいいかもしれない。それは育った環境や偶然による機会の獲得も影響していることだろう。その一方で現実社会においては、自ら夢を追いかける、探し求める力が弱い人も、かなりの割合で存在するのではないだろうか。極端な例かもしれないが、今日を生きることが最優先となれば、夢を追いかけることが二の次になっても仕方が無いかもしれない。また、恩師と呼べる人との出会い、ボランティア活動、アルバイト先での経験といったことでも、人生のてんき予報は刻々と変化する。夢は突然あらわれるのかもしれないが、環境やきっかけに恵まれない人もいれば、このようなきっかけを必要としない人もいるのかもしれない。
 そもそも団塊世代に比べて、生き抜く力やレジリアンスが弱いのではないかという仮説から今回のインタビューはスタートした。しかし、必ずしもそうではないと感じられた。8名を若者全体の代表として語ることはできないが、しっかりと自分らしく生きていこうとする力の存在を実感できた。そのことはインタビューを企画したものとして喜ばしいことであり、インタビューを見届けていただいた方にとって、前向きなものとして感じていただければ幸いである。

 「人生のてんき予報」のインタビュー取材はこれにて終了いたします。ご精読ありがとうございました。