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2023年度第5回
価格の変化と購買行動の変化
(2021年9月~2023年8月)

2023年度の第5回は、世界的なインフレと円安、またウクライナ・ロシア紛争の影響を受け食品の値上げが続いていますが、その値上げが購買行動に与えた影響をいくつかのカテゴリーで分析した結果をご紹介します。集計には、特に引用元の表示がない場合近未来消費研究で使用した株式会社ショッパーインサイトの購買履歴データを用い、同社が保持する購買履歴データを本コンテンツ向けに独自の集計、加工を行い分析いたしました。

今回のレポートでは、2021年9月から2023年8月にかけてのショッパーの購買行動を集計・分析し、価格の変化と購買行動の変化を見ていきます。
尚、一部分析対象店舗が異なるため、以前のレポートとは結果が一部異なることをご了承ください。

1.普通鶏卵

最初に生鮮カテゴリーから「普通鶏卵」を取り上げます。「普通鶏卵」とは親鳥の品種や飼養方法に特徴のある鶏卵ではない一般的なたまごを指すカテゴリーで、長らく物価の優等生と呼ばれ安定した価格となっていましたが、飼料となる穀物相場の高騰とエネルギー価格の上昇に加え、2022年末から鳥インフルエンザのまん延により供給が制約され歴史的な価格高騰が見られたカテゴリーです。 まずは価格の変化を見てみます(図表1)。

図表1 「普通鶏卵」平均価格推移

図表1 「普通鶏卵」平均価格推移

「普通鶏卵」の大部分は10個入りの価格ですが、2022年の秋までは170円程度で安定していました。これが冬に入ると鳥インフルエンザが流行し価格が急騰。ピークとなった2023年6月には254円まで上昇し現在もまだ価格は高止まりしています。4割以上の価格上昇ですから値上がり当初は驚きましたが最近は少し見なれてきてしまったかもしれません。

価格が上昇することで販売数量はどう変わったのでしょうか?販売数量の変化を点数PI(Purchase Index。 1000人当たりの購入数)で見てみます(図表2)

図表2 「普通鶏卵」点数PI推移

図表2 「普通鶏卵」点数PI推移

2022年秋に値上がりが始まってから、2023年2月まではそれほど販売数量に影響は見られなかったのですが、3月以降は減少しています。点数PIが最も低くなった2023年6月4月で101個となっていますが前年同月が112個でしたからそれでも1割程度の減少に留まっています。供給不足で売り場に欠品ということもしばしばありましたから、もし供給があればもっと売れた可能性もありますし価格が高騰しても需要にそれほど変化はなかったといえるのではないでしょうか。なかなか代わりもない商品ですし値段が高くなっても買わない訳にはいかない不可欠な食材という位置づけなのでしょうね。

このように価格が上昇し、販売数量が減少したわけですが、その掛け算となる販売金額の変化を金額PI(Purchase Index。 1000人当たりの購入金額)で見てみます(図表3)

図表3 「普通鶏卵」金額PI推移

図表3 「普通鶏卵」金額PI推移

販売金額で見ると、価格高騰後上昇傾向にあります。数量は減少したものの価格がそれ以上に高くなったため販売金額は増加したという結果です。

2.食用油

次に調味料カテゴリーから「食用油」を取り上げます。ここで挙げる「食用油」は、オリーブ油やごま油などを含まない無色のキャノーラ油や大豆油などのカテゴリーです。原料がほぼ輸入品となるカテゴリーなので円安の影響とアメリカ、カナダ等生産国のインフレによる価格高騰が見られたカテゴリーです。 まずは価格の変化を見てみます(図表4)。

図表4 「食用油」平均価格推移

図表4 「食用油」平均価格推移

「食用油」は900ml、1000ml、1300mlなど各種の容量がありますが、おおよそ1000ml程度を平均とお考え下さい。データ期間のより前の2021年春から上昇は始まっていたのですが、データ期間でも2023年1月までじわじわと価格上昇が続きその後は少し落ち着いてきています。データ期間内では2021年9月の333円から2023年1月の409円まで最大で2割程度の上昇となっています。

では次に販売数量の変化を見てみます。点数PI(Purchase Index。 1000人当たりの購入点数)で見てみます(図表5)

図表5 「食用油」点数PI推移

図表5 平日に夜試合があった日のその他の平日と比べた惣菜カテゴリ別合計金額比較(増減額順)

月ごとに凸凹はありますが、均して見ればそれほど数量に影響はないように見えます。集計期間の前半1年間の月平均数量PIは20.4個、後半1年では20.5個となり、比べる0.2%と僅かにプラスで、度重なる値上げにも関わらず数量は減少していません。食用油も代わりはなかなかない商品ですし、値段に関らず買うしかない必需品なのでしょう。

この月ごとの凸凹の理由ですが、季節性というより価格の上下の影響が多いように見て取れます。前月と比べた価格差と、前月と比べた点数PI差をグラフにしてみます(図表6)

図表6 「食用油」価格前月比と点数PI前月比

図表6 「食用油」価格前月比と点数PI前月比

前月より価格が下がると前月より数量が増え、上がると減る傾向があり、前月より価格が上がった10回の内6回は数量が減少し、前月より価格が下がった13回の内9回は数量が増加しています。保存の効く商品で特売の目玉になることも多いため安い時に買われる傾向があるカテゴリーでもありますし、値上げ前の駆け込み購入も原因と考えられます。

「食用油」は、価格が上昇したものの均せば販売数量は微増という結果でしたが、販売金額の変化を金額PI(Purchase Index。 1000人当たりの購入金額)で見てみます(図表7)

図表7 「食用油」金額PI推移

図表7 「食用油」金額PI推移

販売金額で見ると月ごとの凸凹はありますが、傾向的には価格上昇と同程度に販売金額も増加し、価格上昇が落ち着いた2023年1月以降は販売金額も落ち着くという推移になっています。

3.小麦粉

次は「小麦粉」を取り上げます。輸入が大部分のため円安の影響を受けたこと。また、ロシア・ウクライナ紛争により大生産地からの輸出が困難になったこと、同様に大生産地のアメリカにおける不作などで価格が上昇したカテゴリーです。 価格の変化を見てみます(図表8)。

図表8 「小麦粉」平均価格推移

図表8 「小麦粉」平均価格推移

「小麦粉」も食用油同様に集計期間前の2021年春から値上がりが始まっていましたが、集計期間内では2022年7月までは比較的安定して推移していました。しかし2022年春からアメリカにおける不作見込みが広がるとともに再び値上げトレンドに入ったという推移です。小麦粉は容量1㎏と500gどちらも一般的に販売されるためその間の価格とお考えいただきたいですが、期間内最安値の2022年6月に192円だったものが2023年8月には225円まで上昇しています。集計期間内では2割弱の価格上昇となります。

販売数量はどう変わったのでしょうか?販売数量の変化を点数PI(Purchase Index。 1000人当たりの購入数)で見てみます(図表9)。

図表9 「小麦粉」点数PI推移

図表9 「小麦粉」点数PI推移

かなり凸凹がありますが販売数量は価格とは反対に減少傾向にあります。集計期間の前半1年間の月平均数量PIは5.8個、後半1年では5.0個となり、数量PIはマイナス13.1%とかなり減少しています。
減少は単なるトレンドの可能性もありますが、小麦粉はお好み焼きやホームベーカリーなど主食としての利用もあり、その場合には他の主食との競合があり価格が上がれば需要が減る関係にあるのかもしれません。米穀が数少ない値下がり傾向にあるカテゴリーなので米穀への流出などもある可能性があります。

このように価格が上昇する反面で販売数量が減少したわけですが、販売金額の変化を金額PI(Purchase Index。 1000人当たりの購入金額)で見てみます(図表10)

図表10 「小麦粉」金額PI推移

図表10 「小麦粉」金額PI推移

販売金額で見ても、価格は上昇したもののそれ以上に数量が減少し金額でも減少傾向にあります。集計期間の前半1年間の金額PIは1,149円、後半1年は1,081円となり比べると金額PIはマイナス5.9%と減少しています。

今回は2021年9月から2023年8月の期間を対象に、「普通鶏卵」「食用油」「小麦粉」の価格変化とそれによる購入点数、購入金額への影響を分析した結果をご紹介しました。 大幅な価格上昇で若干の数量減にもかかわらず販売金額も大きく増加した「普通鶏卵」、価格上昇にも関わらず数量減少につながらずそのまま販売金額を増加させた「食用油」、価格は上昇したもののそれ以上に数量が減少して販売金額も減少した「小麦粉」とどれも価格は上昇しましたがそれによる購入への影響はカテゴリーごとに異なる結果となりました。
異なる結果になる理由としてはもちろんトレンドの影響はありますが、「代わりになるものの存在」などが影響していると考えられます。また保存の効く商品では値上げ前の駆け込み需要とその反動という減少で月単位ではばらつきが出る場合があるようです。

まだまだ円安傾向は継続しており、ウクライナ・ロシア紛争の行方も不透明であり値上げの流れは継続しています。
今後もショッパーの行動を継続して観察し、生活者や市場の変化を追い有益な洞察をご提供していきたいと考えています。