テリトーリオ

vol.4

2回目の取材先は福井県越前市を拠点に活動しているヒュージの内田裕規さん。
ホームページを見てみると、Web デザインや古民家再生、イベントのプロデュースなど様々なことを行っていて、デザインの何でも屋さんなのか….。と思いながら福井に行った我々。
実際にお会いしてみると、事務所の1階にはスケートボードパーク!内田さんが淹れてくださった美味しいコーヒーとともに取材が始まりました。なんかすごくオシャレ… 冒頭から心を掴まれた我々は、内田さんの地元・福井に対する考え方や取り組みについてお話を聞いて記事にしました。

内田 裕規/ 株式會社ヒュージ代表
福井県越前市を拠点に伝統工芸の振興や、イベントの企画など、地域に特化したデザイン・プロデュースを行っている。内田さんは大学卒業後、建材会社に就職しましたが、不景気な時代背景や、手に職をつけたいという思いからグラフィックデザインの仕事を志向します。その後、デザイン事務所に転職。
しかし、商業広告系の仕事に違和感を覚え、自分のデザイン観を実現できる仕事を求めていたそうです。

デザイナーとしての
キャリアスタート

 何か広告っていう、目立たせるためのものっていうデザインじゃなくて、自分はもうちょっと何かグラフィックっていうものを生かした仕事をしたかった。

そして、デザイン事務所に務めて1年ほど経ったとき、友人とニューヨークに遊びに行ったことをきっかけに独立しました。

 デザイン事務所に入って1 年ぐらい経ったときに、なんか建築の友達がニューヨークに遊びに行こうって言って、そしたらなんかもうニューヨークのパワーにやられてやれ…みたいな、これはもう自分で何とかやらなきゃみたいな感じで1 年で独立しちゃって(笑)

地元での交流拠点づくり

2008 年頃、内田さんは知人の紹介で黒崎輝男さん(世田谷ものづくり学校創設者)に出会い、地元福井で空きビルを改装して地域交流拠点をつくることに。友人3人と一緒に、メディアを発信する場所、勉強会をする場所、お茶を飲みながら色んな人と出会うことができるカフェを入れた3階建てのビル「FLAT」に改装することを決めました。ビルのリノベーションは、ブログなどで募集して、毎週10人ほどが集まり、みんなで解体したり、ペンキを塗ったり、1年かけてイベントのように行っていったと内田さんは言います。

 なんかそれ(解体やペンキ塗り)も全部イベントにしてったのは、やっぱりみんなが携わると、なんかみんながこのビル愛着持つなって思ったんで、その後、作った後も常連さんになってくれるだろうし…

FLAT での活動をきっかけに、地域おこしへの思いが高まっていったそうです。

福井には世界と戦えるものが
たくさんある

内田さんは、黒崎輝男さんとの交流をきかっけに、福井出身ではない人をアテンドすることによって、地元(福井)には伝統工芸からクラフトまで豊富な文化があることに気づきました。

 当たり前の世界が、ああいう人をアテンドすることによって、何か価値、地元にこんな価値があるんだっていうのがわかるようになってきた。
 福井には眼鏡もあるし、日本酒もあるし、和紙もあるし、包丁もあるし世界と戦えるものがあるけど、そこにデザインがあんまりないからもうちょっとデザイン良くしたい。

これをきっかけに、内田さんは黒崎さんとともに古民家再生機構を立ち上げました。

 古民家ってその当時(2010年)で1日3棟ぐらい壊されてる感じで、もう過疎地帯でみんな都会に出ていくし、その家を守る人もいないし、どんどんどんどん廃墟みたいな感じになってくるので、なんか自分が生きてるうちに始末しとこうみたいな感じで、みんな壊すっていうか、もったいないねって言って…。
 黒崎さんが現代の古民家も、古民家を普通に古民家風に改修しても

美しくない。けど、現代的に改修して、そこにデザインとかが入ってくると、古民家はもっと美しくなるんじゃないかっていうことで、古民家再生機構のそういう概念みたいなものを作られて、一緒にやろうよって言って古民家再生機構とかをやり始めた。

内田さん自身も、実家の古民家をリノベーションして事務所に改築されました。事務所の1階はスケートボードができるようになっていて、誰もが驚く仕掛けが施されていました。また、その上部は吹き抜けになっていて2階のキャットウォークからは福井の自然を見ることができます。

千年未来工藝祭の開催

いくつかのイベントの企画を行っていた内田さんのもとに、越前市から集合型のクラフトマーケットイベントをやりたいという依頼がきて、千年未来工藝祭の構想が始まりました。しかし、この時期には他にも多くのイベントが行われていて、「よほどエッジが効いたものじゃないと差別化できない…」と。千年未来工藝祭のコンセプトづくりにとても悩んだそうです。そのときに参考になったのが大瀧神社で1300 年続いているお祭りの存在でした。

 自分はやっぱイベント、こうやれって言われたんなら、いやそれぐらいの気持ちじゃないとあかんなって思って1000年っていうのをタイトルにつけて、1000年先の未来まで続くような工藝のお祭り、そのタイトルをつけるのに結構時間がかかった。

写真家と、良い写真にだけは
こだわる

千年未来工藝祭を始めた最初の年、内田さんは行政から用意された場所をどう埋めるかを苦労したそうですが、写真撮影に力を入れ次年度以降の集客につなげていきました。

 行政からいきなりイベントやってくれって言われて、埋めれる自信がないっていうかね。もう全く絵がない状態じゃないですか、イベント最初の年って。自分いろんなイベントいっぱいやってきたんで、常にイベントのときにいい写真を残すっていうのは結構あって、いい写真さえ残せば、次からはすごく集客がしやすい。写真家と、いい写真だけにはこだわるっていうかね。

他にも、照明をわざと暗くしたり、オリジナルの出展ブースを8の字型に並べることでデッドスペースをなくすなど、様々な特徴をもった展示デザインを行ったそうです。

越前ならではの仕掛け

千年未来工藝祭を企画・運営した後、観光協会と連携した越前市のPRツールを作ってほしいという依頼が来たそうです。しかし、いわゆる観光雑誌のように、若い女の子たちが喜ぶように作るのは、なにか違うと内田さんは考えました。越前市にある、包丁や和紙、蕎麦といった強みを、建築系や大きなマーケットを持った人に向けて発信しようと思い、「越前叡智」という名前をつけて、観光コンテンツづくりに取り組み始めました。

なんか伝承っていうか、その知恵の伝承みたいなのを見に来て欲しいなって思って、そういったのに響く人だけに来てほしい。

行政は何人観光に来てくれるかという「数」を追い求めますが、内田さんは少し時間はかかるけど結果大きなお金が落ちて、満足度も高くなる渋くてかっこいいPR方法を提案しました。2022年には、「越前叡智」の取り組みが全国の産業観光大賞を受賞されています。

動いたもん勝ち

こういう取り組みをしていて、職人さんたちの意識みたいなところに変化ってありましたか?
昨日取材に行った新山さん(TSUGI)のところで話を聞いて、最初は結構バチバチだったと聞いたのですが…

 やっぱなんか同じ産地の中、漆なら漆の人たち、和紙なら和紙、刃物なら刃物って、みんなその輪の中でバチバチやってるよね。やっぱあんだけちっちゃいところ、和紙の里もそうだし、うるしの里とかもそうなんですけど、もう本当に業界がちっちゃいし狭いし、もう隣でやってるみたいなものだよね。千年未来工藝祭は職人さん10人ぐらいで作ってやってるんですね。だから、産地をまたいでやってるんで、

3つの産地から、3~4人づつぐらい出てきてもらってやっていると産地を超えて仲良くなれる。飲み会とかでも、どうやって儲けたとか、何かそういった話が産地内ではできなかったので、同じ業種ではできなかったことができるようになって、それは『すごい楽しい』って言ってくれてますね。

広い意味でのコミュニティみたいなものを行っていると、お互いに刺激とかが生まれそうですね

 そう、千年未来工藝祭は、大体その事業を回してる親方が出てきてやってるんですけど、そうじゃなくて、何か子方っていうか、何かもうちょっとそういうスタッフさんとかも活躍してほしいなと思って、若手チャレンジっていうものをスタートさせて、例えば3つの産地、紙と箪笥と刃物の若手職人を集めて、その子方たちで切磋琢磨して発表をしてもらおうみたいなこともやってる。

 やっぱり刃物は男ばっかだよね。けど、和紙は女の子ばっかだよね、職人さんって。漆も、ここん中に入ってないけど女の子が多い。箪笥は男の子が多い。その産地の中だけだと、あんまり男女が仲良くなるっていうのはないんで、産地をまたいだ方が職人さん同士で仲良くなって、いずれ結婚したりとかなってくるといいなと思って。

それは別のところからわざわざ来た方達なんですか?

 そうそう、県内の子もいるけど、もう本当、長野県から来ましたとか、兵庫県から来ましたって子も、ちょこちょこいるよ。やっぱり工房しか通ってないんだよね。もう朝起きて工房行って、田舎なんで、どこも寄るところもなく、家帰って過ごすっていう子たちが多いんで、友達もいないし、よその工房とはやっぱりあんまり仲良くしないから、友達もできないよね。結構それで、つらいって言って帰っちゃ

う子も多いけど、若手チャレンジを作ってから、みんなで誕生会やったりとか、ボーリング行ったとか言ってて、すげえいいなと思って。

そういう修行だけしている若い方たちって食べていけるんですかね。

 なんかやっぱり修行やってると自分の作ったものがいくらで売っていいかっていうのがわからない。値づけがわからないんで、どんどん自分で作ったものをこの場で売ってみて、値付けが間違ってないかとかをちゃんと知るような感じの、マーケティングリサーチも兼ねてるっていうイメージですね。

ちょっと話をそらしちゃうんですけど、僕はアイヌの研究をしていて、アイヌも若い人たちが来るけど食べていける術がわからなくて、結局、働きながらじゃないとできないからどうしても続かないみたいな。平日全部働いて、土日にもう趣味って言えるようなことしかできないみたいなことを聞いて、状況として一緒だなと思いました。

 でも本当に思うけど、動く人しか生き残れないなと思う。
 それは伝統工芸でも何でもそうだけど、動かない人は多分ずっと衰退していくんじゃないかな。技術とは別の、行動力っていうか。やっぱり職人さんって物静かな子が多い。だけど若手チャレンジはそういった子も親方の推薦で来たりして、何かそういう根暗な子でも段々やっていくと、どんどん打ち解けてきて、いい関係性になったりする。

やっぱ動けない子は動くようにプッシュしてあげないといけないなって思いますね。

千年未来工藝祭では、親方の推薦で来る物静かな職人さんでも、イベントを行っていく中でだんだんと打ち解けて、職人同士の良い関係性が築けているそうです。そのように、職人さんの背中を押して新たなコミュニティづくりの手助けをすることも内田さんが大切にしていることです。

【インタビュー取材終了】