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第1回 ハイライフセミナー
シンポジウム 「複数居住の期待と現状」


各論報告(2)
「多様化する住居形態」
 山畑 信博 氏 (東北芸術工科大学大学院芸術工科研究科助教授)

● 背景について

 私は、多様化する住居の社会的な背景、所有形態の変化、求められる住居あるいは居室のデザインの変化についてお話ししたいと思います。
 まずライフステージに関しては、戦後日本の高度経済成長の中で定型化され、大多数の日本人が同じようなステージに立って同時に同じような器を与えられればそれで満足していた時代が続いてきました。これまでは、夫婦2人子ども2人の標準4人家族といったいわゆる核家族を中心にマンションなどが設計されてきましたが、それがご承知のように崩れ去っているのです。
 また、家庭にいて幼稚園に子どもを通わせている専業主婦の家庭と、保育園に子どもを通わせる共働きの家庭では、住宅として要求しているものも違いますし、子どもにかけるエネルギーもかなり違っています。男性が働いていても、いつ職を失うかわからない。若い時期の共稼ぎ。共稼ぎで子どもができた場合どう国が保障するのかといったことも、住宅レベルで考えていかなければならないと思います。
 家族の形態も、いわゆる「シングル」、「DINKS」という子どもを持たない共稼ぎ、「シングル・ペアレント」という母子家庭・父子家庭、それから「ミングル」と呼ばれている世帯があります。これは例えば母子家庭の母親同士が友だちで、共同でアパートを借りて一緒に助け合いながら住むというかたちです。また、もともとデンマークで始まった、片親の子どものグループが共同で集合住宅を建て、子育てを支援しようという「コレクティブハウス」といったものも現れてきており、このような血縁のない家族といったものがこれから出てくるのではないかと思います。
 次に住環境の変化についてですが、同じライフステージだとしても、それまでのライフヒストリーやライフコース、あるいは経験が違えば、同じ家族構成だったとしても求めるものは当然違ってきます。郊外に住宅を構えて落ち着いた生活がしたいという人もいるでしょうし、都心に住んで刺激を求めながら住みたいという人もいるでしょう。
 20代後半から30代をターゲットにした雑誌で、さまざまな住宅情報、インテリア情報が提供されます。こうした雑誌は、普通の住宅展示場に出ているものとはかなり異なり、それぞれ先鋭的な内容の編集をしています。これらを手本にしながら、自分の住宅、住むべき場所というものを考えていくということになると思います。こうした雑誌では、LDKや2DKといった間取りは一切意味がなくなってきています。デザインの規範となるものがどんどん多様化しているし、非常にレベルが高くなってきているわけです。その一方で2間続きの和室の需要は、地方ではまだまだあります。東京あるいは大阪を中心にした大都市圏では、2間続きの和室は新築住宅の場合ほとんどなくなっていて、和室はあっても1つです。しかし地方に行くと、わりと若い世代でも2間続きの和室を求めます。

山畑氏

 それからリビングルームですが、最近はフローリングに直接座布団を敷いたりしますし、またかなり低い椅子が開発されており、住宅展示場でも一つのモデルとして提供している場合があります。「座室」といわれる座る生活は、靴を脱ぐことで可能になります。そうした快適性、気候風土、伝統をふまえた様式が、伝統回帰に近いようなかたちで出てきていると思います。
 次は高齢者の問題です。実をいうと、今まで住宅計画の研究者の場では、高齢者の問題は論じられていませんでした。しかしここに来て急に、ハード面でバリアフリーにしようとか、もっと進んでユニバーサルデザインにしようといったことや、地方に残した両親の終の住みかをどこに持ってくるのか、自分が帰るのか、あるいは両親を都会に呼ぶのか、そういった問題も出ています。時代は高齢化社会になっていますので、これからモデルを考えるゆとりはないため、試行錯誤的にいろいろなパターンがどんどん出てくると思われます。
 新しい集住の形態ということで、先程「コレクティブ」という言葉を使いましたが、スウェーデンの例として、個室があってそこで住むこともできるし、キッチン、ダイニング、寝る場所は各自プライベートとして持っていて保育も可能な、似たような環境の人が集まって集合住宅全体が一つの家族になるようなタイプの住居がアメリカでも急速に普及してきています。日本でも本当に数は少ないのですが、事例はできています。自分ができないことを、それぞれ助け合いながら生活していく住宅といったものが考えられるようになってきていますし、欧米では実際に増えているのです。
 それから、展示場やモデルルームに行けば、そこでの生活そのものが何となくイメージされますが、それは自分の生活スタイルと違うのではないか。では、どのようなかたちを求めていくのかという場合、「コーポラティブ」という方法があります。これにはいろいろな方式があって、例えば、ある土地に家を建てたい人を募集します。そこで手を挙げた人が共同で、個々の家族に応じたデザインで集合住宅を造るというものです。地権者がいて、そこのアパートを建て替える場合に募集する場合もありますし、区画整理等で現在の土地を追い出されて別の場所で住むとき、もともと近所付き合いのある人たちが新しく集合住宅を造る場合や、公募型で作っていく場合など、いろいろなタイプがありますが、今後日本で増えていく形態だろうと思います。


● 所有形態

 また、所有の形態についても、従来と違うものがいくつか見えてきています。日本では約6割が持ち家、借家が4割といわれています。戦前の日本では農家の8割が持ち家でしたから、トータルすれば持ち家が多かったのですが、都市部に限って話をしますと、持ち家が3割、借家が7割。特に大阪では、大正15年の借家率は9割と、都心のサラリーマンはほとんど借家に住んでいたわけです。
 それが第二次大戦後変わってしまった。何が起爆剤になったかというと、大家さん側のメリットがなくなったのです。ここにアメリカ、イギリス、フランス、日本の持ち家と借家の延べ床面積を比較しますと、持ち家面積と借家面積の差が、イギリスもフランスもそれほど違いはありませんが、日本の場合は3分の1ぐらい借家の面積が狭いのです。これには、あまり長く住まれると大家さんの方も追い出せなくなるといった、いろいろな社会的背景があります。しかし、逆にこれが起爆剤となって「もうちょっと大きい家を建てたい」という夢を日本人に与えてきたということも考えられます。
 ハード面からも、貧弱であったファーストハウスとしての日本の借家は、今後変わっていくだろうと思います。その理由の一つとして考えられるのが、定期借地権と呼ばれるものです。定期借地権というのは、例えば50年を区切って自由に家も建てられるし売買もできる。しかし50年たったら更地にして大家さんに返すという考え方です。土地を買うのではないので、初期投資が非常に安く上がるために、より広いグレードの高い住宅を取得できるメリットがあります。この場合、50年後どうするのかということ、あるいは日本人の「どうしても土地を持ちたい」という意識がネックになります。そこで筑波方式と呼ばれる方式が開発されました。これは定期借地権の期限が来るまでは持ち家と同じで、期限が来れば借地・借家として居続けることができるというものです。このほかにも、将来の不安を多少解消するような方式がいろいろと開発されています。それからマンションにおいても、2段階供給方式やあるいは住宅公団が中心に進めているフリープラン、水回りやエレベータ、共通の廊下といったものは共用で、住戸に関しては各自が設計するという供給の仕方も増えてきています。
 次に所有の形態の分類ですが、すべての権利の買い取りによる所有、分譲による所有、定期借地権による所有、賃貸による所有、期限付き建物賃貸借による所有、預託・会員制による所有、リゾートクラブなどの共有制による所有、レンタルによる所有、期間限定利用権による所有、知人同士での共同購入などがあります。単に家を所有する、分譲の土地・住宅を買う、あるいは分譲マンションを買う、賃貸で借りるという以外の選択肢について法制面でも整備されていますし、今後はこの定期借地を利用して、どんどんいろいろな商品が出てくるでしょう。借り手側から見れば、自分のライフスタイルに合った選択肢というものが、単に買うとか借りる以外のかたちで出てきているのです。


● 住宅デザインのこれから

 最後に住宅デザインのキーワードを考えると、1990年以降だけに限ってもいろいろな言葉が飛び交っています。まずバリアフリー、これを一歩進めてユニバーサルデザイン、あるいは社会のノーマライゼーション化ということもあります。
 また法制面では、長寿社会住宅設計指針があります。ここでは、30代、40代の人が住宅を買う際に、買うときは普通の家であっても、手すりが付けやすい、エレベータが設置しやすい、段差をなくしてあるなど、将来その家に長く住むことを想定したハード面での仕掛けを作っておくということも奨励されています。
 それから、環境共生住宅、あるいは省エネ住宅についてもいわれています。日本はアメリカを目指してしまったために、エネルギー浪費型の住宅が造られています。これからは日本型の省エネ住宅を考えていかなければなりません。高断熱高気密型住宅についても是非論があります。どんなところでも同じように生活できるという、技術力があって初めて実現できるものですが、果たしてそれでいいのかどうか考える時点に来ているといえます。
 次は耐久性です。日本の場合、木造住宅は大体20年で壊されてしまうのですが、これが果たしていいのかどうかということです。建設省は先程の長寿社会の指針から、長く住んでもらわなければ困るということでいろいろ考えています。イギリスは先進国の中では住宅の建て替えのサイクルが最も長い国で、住宅の建設戸数が年間20万戸程度であるのに対して、日本は130万戸程度となっています。アメリカも日本と大体同じ数の住宅が建設されているのですが、アメリカの場合人口が倍ありますし、中古市場も日本の3倍以上あるのです。
 最後に戦後与えられた器の中で、どういう生活をしてきてどういう方向に向かうのかということをお話ししたいと思います。アメリカ南部の郊外型住宅の写真を見ると、クルマが最低2台入るガレージがあり、自分がビクトリアン・スタイルが好きだったら壁紙から何から張り替えてビクトリアン・スタイルにする、あるいはカントリーが好きだったらカントリースタイルにするというように、スタイルがはっきりしています。
 日本の場合、住宅メーカーを見ると、常に生活の臭いのしない展示場を作っています。台所もこれでは「何も作るな」と言っているに等しいような、きれいな台所を夢として与えるわけです。リビングルームも、一般にそのようなものを見ると、こういう住宅を買えばこのような生活ができるだろうと思うのですが、現実は違います。
 その一方で30代の夫婦が小さな土地を買って建築家に頼んだ住宅の例では、奥さんのスペースと旦那さんのスペースを分け、ブラインドを下げれば仕切れるし、普段は見えたり見えなかったりといった、既存のかたちにとらわれないスタイルが見られます。これは逆にアメリカとかヨーロッパでは考えられない日本ならではのものです。もともと大工さんに頼むという習慣があるということもあり、自分独自の夢を実現してしまうという新しい動きが、30代ぐらいの世代から実際に出はじめているのです。

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