366 ケイラニエミ・トンネル(Keilaniemi Tunnel)(フィンランド共和国)

道路 トンネル 公園

フィンランド・エスポー市の「ケイラニエミ・トンネル」は、タピオラとケイラニエミを分断していた4車線の高速道路101号線を地下化し、上部に2ヘクタールの回廊公園を生み出して、分断というマイナスをプラスへ転換した。きっかけは、本来は国の事業である国道の地下化を、エスポー市が1億ユーロの自前予算で決断したことである。一日4万台の車が走っていた空間は緑の憩いの場へと変貌し、住宅地から湾岸のオフィス街へ続く歩行者動線をもたらした。

ケイラニエミ・トンネル(Keilaniemi Tunnel)の基本情報

国/地域
フィンランド共和国
州/県
ウウシマー
市町村
エスポー
事業主体
エスポー市
事業主体の分類
自治体 
デザイナー、プランナー
トンネルの設計(Swecoとエスポー市)、ランドスケープ・デザイン(VSU Landscape Architects)
開業年
2019年

ストーリー

 エスポーはヘルシンキ大都市圏を構成する自治体であるが、フィンランドではヘルシンキに次ぐ人口を擁する。といっても33万人ほどであるので、日本の自治体の規模としてみると決して大きくない。エスポーはヘルシンキの郊外自治体として発展したが、その契機となったのは、ここにタピオラ・ニュータウンが1953年からつくられてからである。それまでは、農村であり、1920年の人口は1万人以下であった。しかし、タピオラ・ニュータウンができてから、その人口は25,000人(1950年)、20万人(1998年)、そして33万人(2025年)と急ピッチで増加していった。
 新しい街として開発されたエスポーでは自動車型都市が追求され、それまでの幹線道路は高速道路へと格上げされた。それは、人口がそれほど多くなかった時は、生活の利便性に大きく寄与していたが、人口が増え、また都市開発なども進んでくると、それがもたらす騒音、排気ガス、そして何より地区を分断させる弊害が大きな課題となってきた。
 そのような高速道路の中でも大きな問題となっていたのが101号線(環状1号線)であった。これは、合計4車線の広幅員の道路であり、タピオラとその東側に位置するケイラニエミ地区を分断し、その地区間を移動するうえでは大きな障壁となっていた。また、高速道路を絶え間なく走行する自動車による騒音は周辺の生活環境を悪化させていた。
 そこで、この高速道路を地下化して、タピオラとケイラニエミのアクセスを容易にして、騒音も遮断するという計画が策定され、2019年に完成した。ケイラニエミ・トンネルと名付けられたトンネルは長さ445メートル。上部空間は公園として整備された。これによって、タピオラの人々はケイラニエミに接するケイララハティ湾へアクセスできることになり、また、その沿岸に立地するオフィスへも容易にアクセスすることができるようになった。
 ケイラニエミ・トンネルの建設費は1億ユーロ。それはエスポー市によって建設され、管理されている。高速道路101号線は国道であるために、本来であればフィンランド政府の予算で事業が進められるところであるが、それはエスポー市の予算で行われた。
 エスポー市は高速道路を地下化することで創出した土地において、オフィス・ビルディングと高層住宅を建設することを計画している。これによって、トンネルの工事費の多くが回収できるであろうと計算している。また、建物を立地していない部分は2ヘクタールの回廊公園を整備した。これによって、それまでアクセス不能であった道路空間が緑の憩い空間へと変貌したのである。
 その事業はエスポー市の指揮のもと、多くの企業、団体が参画した。元請業者はSRVグループである。トンネル工事のコンサルタントはSweco Finlandが請け負って、新たにつくられた公園部分とオフィス・高層住宅部分はSARC建築事務所とMASU計画事務所がそのデザインを請け負った。

地図

都市の鍼治療としてのポイント

 エスポーにあるアールト大学(当時はヘルシンキ工科大学)で開催された都市計画の国際学会に2010年に参加したことがある。その学会が企画したフィールドトリップで、ケイラニエミの再開発地区を訪れた時、高速道路101号線を横切る橋がすくなくて随分と遠回りをした。その時、解説をしていた人が、この高速道路は地下化される計画があって、その上部空間は公園となり、そうすればタピオラからケイラニエミまでは随分と行き来が容易になると述べて、たいへん驚いたことがある。
 確かに、この高速道路は地区を分断している。しかし、その状況を改善させるために高速道路を地下化するとはあまりにも大袈裟ではないのか。というか、当時はそんなプロジェクト計画はあまりにも現実的ではないので頓挫するであろうと考えていた。それは、この高速道路が分断しているのは人口密集地区ではないから、費用便益的にみるといいプロジェクトに思えなかったからだ。
 さて、しかし2026年6月に再び、アールト大学で開催された国際学会に参加する機会に恵まれた。そこで、早速、このタピオラとケイラニエミを分断していた場所を訪れたら、見事、高速道路は地下化され、その上部空間は公園として整備されていたので驚いた。高速道路は地下化したのと同時に4車線から6車線と拡幅され、交通処理量も向上されていた。公園はそれほどしっかりとランドスケーピングされてなく、若干、安上がりではあるが、それでも、ここが毎日40,000台の自動車が通過していた空間であったことと比べれば、マイナスがプラスに変換したという大きな効果はあった。そして、それはタピオラの住宅地から分断されていたケイラニエミとを結ぶ歩行者動線を具体化させた。実際、この公園で寛いでいると、下に高速道路があり、多くの自動車が走行していることは想像できない。
 それにしてもエスポー市が建設費をすべて支払ったということは驚きである。行政でも、本気を出せば、凄いことができてしまうという示唆的なプロジェクトである。

【参考資料】
・ランドスケープ・デザインを手がけたVSUのホームページ
https://vsu.fi/referenssi/keha-1-lansivayla-tapiolantie/
・フィンランドの統計局のHP
https://stat.fi/en/statistics/vaerak

類似事例

取材・執筆:服部圭郎 龍谷大学 政策学部 教授

都市政策・都市計画を専門とし、世界各地の都市再生事例を現地調査しながら 「都市の鍼治療(Urban Acupuncture)」として記録・発信している。