テリトーリオ

vol.2

ケニアPJ調査報告①
6日間の調査概要

今年の海外テリトーリオ研究地はケニアです。

7/30 - 8/4にかけて行った調査には、ケニアで建築活動を行っている一般社団法人OSAジャパン会長の 坂田泉さん、追手門学院大学 青島啓太准教授、東京外国語大学 田口紗野さんと共に東アフリカ最大の経済規模を持つ都市「ナイロビ」を中心に6日間調査を行いました。

未知の地域、ケニアがもつテリトーリオを探っていきます。

ケニアへの事前準備

3年目のテリトーリオ研究プロジェクトの核となるケニア・ナイロビ地域での調査は、私たちにとって未知への挑戦です。福井地域との比較から「共存のテリトーリオ」の可能性を探るという壮大なテーマを実現するため、私たちは現地の文化、建築観、そして思想的背景に関する知見を深く掘り下げていきました。

また、TICAD9(第9回アフリカ開発会議)において、「ジョモ・ケニヤッタ農工大学発電農園模型」を展示しました。 アウトプットのプロセスを経ることで、現地の空間構造と生活のあり方に対する理解をより立体的に深めることができました。

ケニアでの調査内容について

普段、大学の授業でもお世話になっている坂田先生からお誘いをいただき、黒綿土ブロックプロジェクトに限らず、ケニアの様々な場所や文化も解説・ご案内していただき、大変お世話になりました。

また、今回はエチオピアで様々なプロジェクトを行っている青島啓太さん、現地の旅行会社のインターン生で通訳を務めてくださった田口紗野さんのお二人とともに進行していきました。

ケニアのテリトーリオ研究として、近未来的なスマートシティ計画やグローバル資本による建設事業といった都市開発、経済的な工夫が凝らされた持続可能な住宅(アフォーダブル住宅)、またその対極にある場所性に根ざした伝統建築(ヴァナキュラー建築)、土地の知恵に満ちた果樹農園での営み、偏見・差別により社会から離れて暮らす人々の生活など、多様な視点から調査を行ってきました。これらはそれぞれ土地の素材と技術を活かした豊かな生活の工夫が感じられました。

以下に、7月30日から8月4日までの6日間の現地調査とプロジェクトの概要を記します。

1日の流れ

  • [Great Rift Valley]アフリカ大陸を南北に縦断する巨大な谷
  • [Karen Blixen Museum]デンマーク人作家の元邸宅
  • 小堀先生、坂田先生、青島先生と合流し、ホテルで夕食会!

土地性や文化を肌で体感する

[Great Rift Valley]アフリカ大陸を南北に縦断する巨大な谷

ケニア初日の調査は、アフリカ大陸を南北に縦断する壮大な地形、グレート・リフト・バレーから始まりました。わたしたちは、この広大な大地を目の前にし、日本のテリトーリオとは全く異なる根源的なスケールと、そこに根付く人々の生きる力を肌で感じ取りました。

私たちが目にした「谷」は、対岸の崖が遠すぎて見えないほどの距離があり、日本の谷とのスケールの違いに驚愕しました。稜線が無く、建物がほとんど見えないその風景は、永遠に広がるような広大な土地であり、その地の根源的な風景を見たような高揚感に包まれました。私たちは、約2,000万年〜3,000万年前の地層のずれの上に人々が根付いた歴史の重みを全身で体感することができました。

当初予定していた観光客向けのビュースポットから外れ、集落の奥へ進んだ経験は、私たちの研究テーマである「共存のテリトーリオ」を体感する上で非常に重要なものでした。バスから見える景色は、羊の群れに遭遇したり、変な形の木があったりと、日本の地方都市にはない、自然と生活が混ざり合った新鮮な光景で、胸を躍らせました。

集落の中に入ったとき、正直なところ最初は不安も感じました。しかし、地元の人の助言で向かった小さな村では、集落のほとんどの住民が私たちを温かく囲んでくれ、ビュースポットに案内してくれました。彼らの手作りの階段を降り、手作りのベンチから眺めた景色は格別でした。村の人たちと一緒に見たことで、その景色はより美しく見えたと感じています。日本の村ではなかなか体験できないような温かい交流に、私たちは大きな感動を得ました。

しかし、交流の中では、現代社会の経済的な側面にも直面しました。帰り際、地元民の若い子たちが「give me money」と私たちがバスに乗るまでずっと言い続けてきたことが強く印象に残っています。この言葉は日本ではほとんど聞かない言葉であり、私たちは日本との経済的格差を肌で感じさせられました。交流の喜びとともに、自分たちよりも若い子たちの集落での厳しい生活の一端を垣間見て、複雑な気持ちにもなりましたが、赤ちゃんや子供たちの無邪気な姿には大いに癒されました。

[Karen Blixen Museum]デンマーク人作家の元邸宅

グレート・リフト・バレーを出た後は、デンマーク人作家カーレン・ブリクセンの元邸宅、カーレン・ブリクセン博物館を訪れました。

この博物館で私たちが特に魅力を感じたのは、館内の調度品よりも、むしろ施設を取り巻く美しい芝生と解放された庭園空間でした。

庭に散りばめられた椅子と机が、その自由な空間の使い方を象徴していました。それらは移動できる軽いもので、人々は人数や好みに合わせて自由に配置してくつろいでいました。私たちは、芝生に座って木をスケッチしたり、標高の高いケニアの気候を感じるために走ってみたりと、その自由で解放された空間を心ゆくまで満喫しました。

さらに印象的だったのは、道沿いのショップで見たアフリカ人の色彩感覚の豊かさです。全ての絵にバイオミミクリー的デザイン性を感じ、日本で学んできた以上に、動物を模倣し、動物へのリスペクトが作品の絵から強く伝わってきました。これは、私たちの研究テーマである「生きものや環境を含めた共同体」としてのテリトーリオを深く考察する上で、重要な示唆を与えてくれました。

小堀先生、坂田先生、青島さんと合流し、ホテルで夕食会!

博物館を出た後は、ホテルで先生方と夕食会!
アフリカの伝統食品である穀物の粉を湯で練り上げた「ウガリ」をいただき、素手で食べるケニアの食文化にも触れることができました。

壮大な大地、現地民との交流、建築や風景のスケッチを通して、ケニアの土地性や文化を肌で体感することができました。

ケニア2日目

1日の流れ

  • [Kick off Seminar]坂田先生と、ゼネコンのケニア事務所(清水建設様・フジタ様・ 鴻池組様)より、アフリカ事業についての講義
  • [Affordable Housing Village]アフォーダブルな住宅のための工法展示施設の見学
  • ホテルの裏にあるまちを散策
  • 小堀さんと共に中華街へ!

経済的・構法的な視点での学びを深める

[Kick off Seminar]ゼネコンのケニア事務所の方々からアフリカ事業についての講義

調査2日目、私たちは坂田先生と、ケニアで実際に事業を展開されている日本のゼネコン3社(清水建設様・フジタ様・鴻池組様)の現地事務所の方々をお招きし、貴重な講義を受けました。

先生が描かれるスケッチは、単なる記録ではなく「コトバ」であるという話に強く感銘を受けました。言語を超えた「コトバ」は、出自・人種・性別・職業などの違いがあっても、直感に響き合い、お互いに感じていることを共有することができる稀有なちからであると理解しました。

また、アフリカに進出している日本の土木業界の現状を知るため、3企業の方々からは、アフリカで行なっている事業について具体的な講演を聞かせていただきました。
特にペットボトルのゴミを建材の一部として利用する計画など、発展途上国ならではの課題解決に向けた具体的な取り組みに興味を持ちました。

[Affordable Housing Village]アフォーダブルな住宅のための構法展示施設の見学

キックオフセミナーを受けた後は、ケニアにおける生活格差という大きな問題と向き合うアフォーダブルハウジングの試みを知るため、Affordable Housing Villageを訪れました。スラム街を通ってきた後にこの場所を訪れたこともあり、ここでは住宅供給の重要性と難しさを改めて痛感しました。

この地で住宅をいかにコストパフォーマンスとタイムパフォーマンス良くつくれるかということにフォーカスした家づくりは、非常に大きな刺激となりました。特に印象的だったのは、パズルのように組み立てる壁の構法です。

建材をブロック化し、安価な材を用いて、建設をパターン化することで、建設費用を抑える工夫がされていました。これは、家を建ててから住むまでの工程を私たちにも想像させ、張り切った形や単純化されたつくりに新たな可能性を感じました。

自分たちでつくることが多いからこそ生まれる形であり、現地にいる人たちといかに協力してつくるかを深く考えられているのだと感じました。ブロックの形状を工夫して耐久性を模索する試みは、組み立て、組み替えといった固有の場所にとらわれない住宅の可能性を感じさせてくれました。

ホテルの裏にあるまちを散策!

展示施設を出た後は、宿泊しているホテルの裏の小さなまちを小堀先生と散策しました。 飲食店や屋台のような小さな店が並び、どこからともなく現地の人から声をかけられ、お店へと勧誘されました。

勧誘されたうちの1つの飲食店に入ると、驚くほどの歓迎を受け、頼んでいないものまで次々と運ばれてきてしまいました。
お店を出るときには、記念撮影をし、現地の方のあたたかさとユーモアを感じました。

Kick off Seminarからケニアでの事業のやりがいや難しさなどを学んだ後に、実際に様々なタイプの住宅に触れることで、経済的・構法的な視点での学びを深めることができました。

ケニア3日目 ケニア3日目
ケニア4日目

1日の流れ

  • [KAIST]ケニア政府が推進するKonza Techno Cityの一角であるKAISTの視察
  • [Heritage Leisure Park]ヴァナキュラー建築が展示されている公園へ
  • OSAケニアのエマニュエルさんの果樹農園にご招待いただきました

近未来の都市計画と
ヴァナキュラー建築を比較する

[KAIST]ケニア政府が推進するKonza Techno Cityの一角であるKAISTの視察

調査4日目は、韓国の教育モデルを輸入した「KAIST(ケニア科学技術院)」という大学機関と、「Konza Technopolis(コンザ・テクノポリス)」と呼ばれる技術革新都市への視察に向かいました。
ケニアの首都ナイロビから南東側に60キロほど離れている地域に、未来のテクノロジー・ハブとしての活躍を期待されているのが、「Konza Technopolis」という技術革新都市になります。

広大な未開拓の土地に突如として現れたこの場所は、それまで私たちが目にしてきた生活の痕跡が色濃いアフリカの風景とは全く異なり、まるで違う国に来たような感覚を覚えました。

この場所で私たちが感じたのは、都市計画の「一歩目」を見る面白さです。未開発な土地だからこそ、道路や信号、宿舎などの街のような機能と、学校として必要な機能を同時に作り、都市の計画と建築の計画を同時に行うことができるという特異な状況がありました。

広大な未開拓の土地に道路と信号だけが整備されている風景や、そこに点在する建物の存在に違和感を覚えると同時に、都市計画がどのように進んでいくのかを実際に経験し、感じることが出来ました。

特に、学校を中心として都市が広がっていくという計画が現実の現場で行われていることに興味を惹かれました。これは、現代の都市計画においては少し古い考えとされている手法でもあります。だからこそ、私たちは文献や写真で学ぶ都市計画を、この目で実際に確かめることができ、その難しさや複雑さといった、文字だけでは感じることができない現場のリアリティを体験することができました。

[Heritage Leisure Park]ヴァナキュラー建築が展示されている公園へ

KAISTを出た後は、ヴァナキュラー建築が残るHeritage Leisure Parkを見学しました。

Heritage Leisure Park内の建築は、日本の東屋のような建築が多く、外気に触れながら過ごす現地の暮らしを想像させてくれました。これは、ケニアが年間を通して、暑すぎず寒すぎない気候で、外でも過ごしやすいことが影響しているのかもしれません。

そして、今回、Heritage Leisure Park内の建築で気になったのは、タイヤという素材でした。タイヤは、屋外階段や土台の一部として使われていたものがあったのですが、そのタイヤの表現が、「化粧タイヤ」とも「タイヤ装飾」ともいえるものがあり、タイヤの見せ方に関して、新たな魅力を感じました。

まず、タイヤに刻まれた模様にはトレッドパターンと呼ばれる種類があり、屋外階段のものには、「リブ型パターン」という波線を連続させたものが使われており、階段を上がる際のリズムにあったタイヤを選択しているところに、空間への配慮がうかがえます。

土を装飾して、タイヤを完全に不可視化することはせず、タイヤの側面に塗装という化粧を施すことで、 “木材と土の茶色”や“植物の緑色”に対するアクセントとして、「化粧タイヤ」を利用しています。

「リブ型パターン」の見栄えを補完するトリコロールカラーは、人工的な波線という近代的な言語に、土着的な色彩を付与することで、近代ヴァナキュラーの様相を呈しているといえるでしょう。

海外に行くと、「そこにしかないもの」に目が行きがちになりますが、「そこにしかないもの」と「今そこにあるもの」を掛け合わせることで、今を生きる現地の人々にとって、最も自然体な建築の在り様が現れ、その様相そのものを近代ヴァナキュラーと呼ぶことができるのではないかと感じた見学でした。

OSAケニアのエマニュエルさんの果樹農園にご招待いただきました

公園を出た後は、OSAケニアのエマニュエルさんの邸宅に招待していただきました。

周辺にほとんど建築はなく、農場や草地が広がっていました。エマニュエルさんの奥様のフローレンスさんが豪華な料理で迎えてくださり、現地の学生や教授と共に、ケニアの風を感じながらとても素晴らしい時間を過ごせました。

エマニュエルさんのお家の近くにあり、OSAケニアが所有する敷地面積4haのコンザ農園にも訪れました。 斜面地形になっており、目の前には壮大なアフリカ大陸が広がっていました。

現在は地下250m掘った井戸のみがあり、今後はドラゴンフルーツの農園を計画しているとききました。

近くにはトマトの木や蟻塚が多数あり、原始的な自然を体感することもできました。

未開発地の多いケニアでのスマートシティプロジェクトは、日本にはない近未来さが見られ、全く新しい都市計画であると感ました。その計画の初期段階を見られたことは非常に良い経験となりました。また、直で見るヴァナキュラー建築は、素材や組み立て方に場所性や即興性が見られ、都市部とは違った面白さを感じることができました。

1日の流れ

  • [サファリツアー]朝6時に出発し、ナイロビ国立公園へ!
  • [LGBTQシェルター]社会から少し離れたところで生活する方々の元へ

「共存のテリトーリオ」を広義に捉える

[サファリツアー]朝6時に出発し、ナイロビ国立公園へ!

調査5日目は、サファリツアーに参加するため、ナイロビ国立公園に訪れました。 ケニアには、国立公園、国立保護区、動物保護区があわせて59か所あり、全体の中では小さな国立公園として位置づけられています。

ナイロビ国立公園は、ケニア最大の国立公園であるツァヴォ・イースト国立公園と比べると、1/20ほどの大きさになります。それでも東京 23 区より大きく、野生動物たちが生きるサバンナの向こうに、高層ビル群が建ち並ぶ世界観は、ナイロビならではの光景といえます。

特に、大自然を満喫できる場所が首都にあるという点で、世界的にも稀有な地域であり、ナイロビ市内からもジョモ・ケニヤッタ国際空港からもアクセスが良いため、地元住民・観光客ともに馴染み深い国立公園となっており、そのことが地域の価値を高める役割を果たしています。

動物の生息地と人間の生活地域が重なり、自然と都市の共存を図ろうと模索している姿こそが、ナイロビの魅力の1つであるといえるかもしれません。

[LGBTQシェルター]社会から少し離れたところで生活する方々の元へ

サファリツアーに参加した後は、社会から少し離れたところで生活するLGBTQシェルターを見学しました。

日本では理解が進みつつあるLGBTQですが、ケニアでは未だに偏見が強く、社会に受け入れられていない人々が、安全に暮らすために協力して生活しているという生々しい社会問題を直接感じることができました。

シェルターでは、働きながら住む場所を提供し、共同で生活を営んでいます。家の中は生活感があり、それぞれの個性が感じられ、小さな庭にはたくさんの野菜が植えられていました。水の確保は大変だと伺いましたが、この先もその場所に住み続けるために自分たちで建築を建てているという、生きていくための揺るぎない考えを知ることができました。

入らせていただいた住宅は、とてもあたたかく、私たちを歓迎してくれたことが嬉しかったです。特に、ドラム缶を伸ばして外壁として使っているのが印象的で、その生活のための工夫に、生きるための切実な力強さを感じました。

「堂々と過ごせない方達が集まり、協力して生活している」という事実は、私たちにとって非常に重く、なぜこの問題を今まで知らなかったのかという疑問を持たされました。この様な問題を野放しにしてはいけないと感じると同時に、世界という大きな目で見ることの大切さを実感しました。

広大な土地の中で風や音、匂いなど様々な感覚が刺激される経験を通して、生きる力のようなものを感じることができました。また、LGBTQシェルターを通して、ケニアの社会問題は貧困・経済という面のみでは捉えきれない、人間関係における生きづらさを感じている人々が多くいることを体感しました。その中でも工夫して生活する営みや喜びが、建築と人々を通して感じられました。

私たちはこの6日間の調査で、広大な自然の力強さと、厳しい環境の中で生き抜く人々の生命力、そして「人間と自然の共同体」としてのテリトーリオが持つ多様な姿を目の当たりにしました。

次回は、私たちが現地で学んだ知見に基づき、アフリカの環境課題と向き合う「黒綿土ブロックプロジェクト」についての具体的な活動報告を行います。そして、今回のケニア調査全体を通して得た、「共存のテリトーリオ」という概念の深化について、掘り下げて綴っていきたいと思います。

ケニアテリトーリオ
調査メンバー紹介