070 白金台のどんぐり児童遊園(日本)

070 白金台のどんぐり児童遊園

070 白金台のどんぐり児童遊園
070 白金台のどんぐり児童遊園
070 白金台のどんぐり児童遊園

070 白金台のどんぐり児童遊園
070 白金台のどんぐり児童遊園
070 白金台のどんぐり児童遊園

ストーリー:

 目黒駅から白金台駅まで目黒通り沿いに歩くと、左手に白金自然教育園がある。森が鬱蒼と生い茂る、山手線内では貴重な自然が残る公園である。その隣にある、明るい芝生とちょっとした散策路と木々がつくりだす木陰が周辺住民に親しまれる公園が、どんぐり児童遊園である。
 その面積は6100平方メートルであり、港区最大の児童公園である。この公園はたいへんよく利用されている。平成26年港区が行った利用実態調査では平日594 人、休日374人という利用者がおり、これは54ある同区の児童遊園の中でもそれぞれ1位、2位である。その理由は、このどんぐり児童遊園が人々のニーズに合致したコンセプトでつくられたからである。
 どんぐり児童遊園のある場所は、以前は公務員住宅地であった。この跡地利用をどうするか、という話がなされた時、自然保護と生活環境保護の観点から、いまある緑を活かし住民が共同で利用できる空間として機能することを望んだ近隣住民や議員らが署名を集め請願書を提出し、国や東京都、港区に対し積極的に働きかけた。これを受けて港区は2005年に財務省より土地を29億5900万円で取得した。
 このような経緯で取得したこともあり、児童遊園の基本計画案策定においては地域住民の意見を取り入れるためワークショップ形式を採用した。
 ワークショップのメンバーは28名。地域自治体(町会)、幼稚園・小学校PTA、地域請願団体・白金台地域緑化協力員の団体から選出された。期間は2005年9月から2006年2月までで、計6回のワークショップが開催された。内容はコンセプト設定から配置図の作成、施設の取捨選択など様々で、その多くが児童遊園を形づくり、意見として取り込まれている。
 ワークショップでは「自然を生かした広がりのあるはらっぱ」をテーマに、多目的利用、シンボル樹木、休息・交流、自然の中での遊び、防災・安全、健康づくりが計画案のキーワードとして挙げられた。また、「区と住民・各町内会・団体が連携して管理」する意見も出るなど、積極的な地域参加型の姿勢がみられた。整備方針と施設に関しては、既存樹木をできるだけ保存し、自然に親しむはらっぱ広場を基本に、盛土による起伏やじゃぶじゃぶ池といった子供の遊び場、お年寄りがくつろいだり軽く運動する場等の提案がされた。公園の管理も区、住民、各町内会や団体が連絡を取り合い行うことが決定した。開園したのは2006年である。
 このようなプロセスでつくられたこともあり、白金台どんぐり児童遊園は地域住民の関心が非常に高く、関わりも深い公園なのである。整備費は1億7257万円。

キーワード:

都市公園,市民参加

白金台のどんぐり児童遊園の基本情報:

  • 国/地域:日本
  • 州/県:東京都
  • 市町村:港区
  • 事業主体:港区
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:基本設計・基本計画:住民のワークショップ、南海カツマ株式会社
    実施設計:森緑地設計事務所
  • 開業年:2006年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 どんぐり児童遊園がある港区白金台はマンション需要が極めて高い地域である。特に目黒通り沿いであれば、相当の階高が得られるため、デベロッパーからすれば喉から手が出るほど欲しい物件であったと思われる。しかも、白金自然教育園が隣にある。そのような市場の開発ニーズを無視して、この極めてマンション需要の高い土地を、港区は広く人々が楽しめる児童公園を整備したのである。
 そもそも白金台が住宅地として人気があるのは、自然が豊かであるからだ。私はもう15年以上も前だが『週刊住宅情報』にて都内の高級住宅のルポルタージュの記事を書かせてもらっていた。そこで白金台も取材をさせてもらったのだが、まだ南北線が通る前のことでもあり、白金自然教育園、聖心女学園、東京大学医科学研究所付属病院、瑞聖寺、芝白金団地(公務員住宅)、八芳園や、住宅街に林のように育つ樹木に彩られるその緑の豊かさに感銘を覚えた。そして、この緑の豊かさが、白金台という住宅地の価値の源であると理解した。しかし、現在はそれらの緑をつぶして高層マンションを建ててしまっている。自ら、その価値を壊してしまったら、そのうちただのマンション街になってしまうと思われるのだが、そのような短期的な利益だけを追求するような再開発が進展してしまっている。
 そのような流れに抵抗し、白金台の価値を維持し、むしろ向上させるような効果をもたらしているのが、このどんぐり児童遊園であると思われる。しかも、それをつくるうえで、住民主体のワークショップを何回も重ねた。この丁寧な住民の意思を汲んだ公共空間をつくったことで、ここはまさに白金台の住民にとっての共通財産、宝のような空間となっている。ここを、このような公共空間として整備できたことは港区という行政の英断であるし、また、そのように判断させるよう意志を統一させた住民も素場らしいと思う。
 行政がしっかりとよい都市の舞台をつくることで、住民達が、そこで素晴らしいパフォーマンスを始めた、という素晴らしい「都市の鍼治療」事例であると考察する。

【参考文献】泉川留璃(2015) 「白金台どんぐり児童公園における都市空間構成要素の研究」

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