057 オーガスタス・F・ホーキンス自然公園(アメリカ合衆国)

057 オーガスタス・F・ホーキンス自然公園

057 オーガスタス・F・ホーキンス自然公園
057 オーガスタス・F・ホーキンス自然公園
057 オーガスタス・F・ホーキンス自然公園

057 オーガスタス・F・ホーキンス自然公園
057 オーガスタス・F・ホーキンス自然公園
057 オーガスタス・F・ホーキンス自然公園

ストーリー:

 オーガスタス・F・ホーキンス自然公園はロスアンジェルス市の南部の工業地帯にある0.34ヘクタールの公園である。周辺地域は貧困地帯であり、治安も悪く、また土壌環境なども汚染されている。そのような劣悪な環境の地域において、同公園は南カリフォルニアの自然を再生させるという夢を実現させた。そこには、ちょっとした屋外劇場、自然教育センターなどがつくられ、駐車場は透水性のある舗装が施され、植生は乾燥に強い自生のものが植栽されている。周辺の喧噪が嘘のように、そこは落ち着いた自然溢れる空間となっている。ピクニック用のテーブルや芝生もあり、ちょっとしたレジャーには最適である。まさにアスファルト・ジャングルの中のオアシスのような空間である。
 ここは、以前はロスアンジェルス市の水道局が保有しており、破損した水道管などが保管されていた土地であった。それを、自然保護を目的とする公共団体であるサンタモニカ・マウンテン・レクリエーション及び保全協会が取得し、地域政府と住民とで協働して、いかにこのアスファルト・ジャングルを自然化させていくかの検討事業を行った。そして、そのコーディネーターとしては市民参加での公園づくりのパイオニアの一人であるカリフォルニア大学バークレイ校のランディ・ヘスター教授が選ばれた。
 起伏があるランドスケープは、この公園の設計時においてつくられた。それまでは、ただののっぺりした平地であったのだ。公園の真ん中につくられた池も人造の池であるが、自生の植物で植栽をしているため、その風景はとても自然に見える。ヘスター氏は、この公園を設計するにあたって、多くのワークショップを開催し、周辺住民が望む空間をつくりあげ、彼らが帰属意識をしっかりと有することができるような空間を設計したのである。
 オーガスタス・F・ホーキンス自然公園は、大都会の環境に汚染された、深刻な治安問題も抱えるインナーシティ地区において緑を提供し、またコミュニティの強化をも促した成功事例として広く知られている。「ごみ」捨て場のような場所が、自然溢れる公園、そして環境教育の場として再生されたのだ。しかも、それがつくられるプロセスとしては、住民参加を徹底したために、多くの住民がこの公園を自分達のものであると意識している。同公園での若者用のプログラムとしては、ジュニア・レンジャー・プログラム、土曜日のサイエンス・クラブ、ガーデンニング・クラブ、工作クラブなどがある。
 地元住民にとっては大変、人気のある公園で、毎週3000人から5000人が訪れる。この公園の名前の由来となったオーガスタス・F・ホーキンス氏は、南カリフォルニア選出の連邦政府の下院議員を30年近く務めた政治家である。彼は、現在でもこの公園をときたま訪ねるそうである。

キーワード:

都市公園,跡地利用,市民参加,アイデンティティ,土壌汚染

オーガスタス・F・ホーキンス自然公園の基本情報:

  • 国/地域:アメリカ合衆国
  • 州/県:カリフォルニア州
  • 市町村:ロスアンジェルス市
  • 事業主体:サンタモニカ・マウンテン・レクリエーション及び保全協会(2005年以降はロスアンジェルス市のレクリエーション公園局が管理をしている)
  • 事業主体の分類:準公共団体 
  • デザイナー、プランナー:Randy Hester
  • 開業年:2000年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 オーガスタス・F・ホーキンス自然公園を訪れるのはそれほど難しくない。ロスアンジェルスのダウンタウンからは、路面電車のブルーラインでスローソン駅から3ブロックほど歩いたところにある。しかし、物理的にはアクセスは難しくはないかもしれないが、心理的には難しい。というのは、このスローソン・アベニューとコンプトン・アベニューは南ロスアンジェルスでも最も荒廃した治安の悪い場所として知られているからだ。そこは、まさにアスファルト・ジャングルといったランドスケープであり、壁は落書きで埋め尽くされ、壁の上部は鉄格子によって被われている。まさに、そこはセメントと鉄筋とガラスとでつくられた人工的で冷たく、心落ち着かない空間なのである。加えて、そこには絶えず不安感がぬぐえない緊張感を強いるような空気が流れている。
 しかし、その空気を我慢して公園に向かって歩いていると、荒廃した土地にまさに「オアシス」と形容すべき緑が現れる。そこだけが、このアスファルト・ジャングルにおいて命の鼓動が聞こえてくるようだ。そして、門の中を入ると、そこには別世界が広がっている。
 大きな樫の木に囲まれた芝生、その芝生を縁取る小高い丘、そして丘の上には風車があり、その風車は水を丘の上まで汲み上げ、そこから池へと渓流をつくらせ、流していく。それは同じロスアンジェルスにあるサンタモニカ・マウンテンのミニチュア版であった。オーガスタス・F・ホーキンス自然公園のあるロスアンジェルスの南部のスラムでは、そこの住民、特に子どもたちは、同じ都市でもそのような自然を目にする機会がほとんどない。自然への関心を高めさせ、環境教育を勉強する意欲を喚起させることを意図したデザインが施されているのである。現在では、この公園に設置された自然教育センターのプログラムとしてサンタモニカ・マウンテンまで足を伸ばす遠足が実践されている。
 この公園が開業した当初、その立地環境から、しっかりと安全が確保できるのか、施設管理を維持できるのかなどが疑問視されたが、現時点では24時間、レンジャーによって警備されており、何よりも周辺住民がこの公園をしっかりと守っていこうと意識しているために、このような問題は顕在化されていない。
 低所得層のマイノリティが多く居住する地区において、自然と触れられ、また環境教育ができる機会を提供することの効果は大きなものがある。それまで廃棄物が放棄されていた場所が、自然豊かな公園へと変貌したことの町に対するプラスの効用は計り知れないものがある。オーガスタス・F・ホーキンス自然公園のSNSによる住民の評価はほとんど満点に近い。いかにこの公園が近隣住民に親しまれているかが分かる。

類似事例:

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