006 バロー・マーケット(イングランド)

006 バロー・マーケット

006 バロー・マーケット
006 バロー・マーケット
006 バロー・マーケット

006 バロー・マーケット
006 バロー・マーケット
006 バロー・マーケット

ストーリー:

 ロンドンのバロー・マーケットは、イギリス最古、かつ最大の屋外市場である。1756年から正式に、ここでマーケットは開催されている。実際は、それ以前、11世紀頃からここでは市が立っていた。しかし、ロンドン橋がつくられて交通量が増えたので、市場は追い出された。そこで、1755年に地元住民が6000ポンド(現在に換算すると10ミリオン・ポンド相当)ほどで、王様からマーケットを開催する権利を獲得して、今日に至る。この権利は未来永劫のものだ。バロー・マーケットは、信託統治されているロンドン唯一の自治市場なのだ。
 バロー・マーケットでは120店が出店している。また、その周辺の建物も、このバロー・マーケットが所有しており、出店者の中から「出世」したものが、これらの建物の店舗に入っているそうである。
 開催日は木曜、金曜、土曜日。日曜日は開いていないのだが、特別な日には開催する。週に3日間の開業だけで、年間600万人を集客している。特筆すべき集客力である。
 バロー・マーケットで印象的なことは、品質管理に大変力を入れていることである。需要と供給とのギャップをしっかりと分析して、テナント・ミックス的に必要度の最も高い店舗を入れるようにしている。また、テナントが提供する商品は、食品であれば、4人のエクゼクティブ・シェフによって審査してもらっている。シャングリラのレストランなのでチーフ・シェフをやっているような人たちに審査をしてもらっている。
 加えて、食材がどこから来ているかを意識して出店者を選んでいる。フードマイルを気にしていること、また生産者が出品することを重視しているそうだ。バロー・マーケットはバルセロナのボカリア広場と姉妹提携をしているそうだが、ボカリア広場は仲介人が売っているので、バロー・マーケットと比べて今ひとつであると、バロー・マーケットのマネージャーであるデービス氏は述べていた。ただし、実際、市場に出店しているのは、イギリス産というものは少なく、フランスのチーズやスペインのチョリソ、イタリアのパルメジアンといったイギリス産以外の食材が多く、これは食文化が貧相であるイギリスの事情を物語っていると思われる。フードマイルは気にはしていても、地産地消に拘ったら、おそらくここまで人気を博さなかったであろう。
このバロー・マーケットであるが、王様から権利を授与しただけあって、いろいろな権利を有している。まず、1000ヤード以内のマーケットを閉鎖する権利がある。去年も、実際、この権利を使って、屋外でマーケットを開催していた人達の営業を停止させたそうだ。ただし、この権利はスーパーマーケットには効かず、あくまで屋外マーケットに対してということだそうだ。ついでに、逮捕権もあり、バロー・マーケットには牢屋もあるそうだ。ただ、この逮捕権はほとんど使ったことがなく、牢屋も物置になっている。
バロー・マーケットは8人の評議員によって運営されており、この評議員はまったくの無報酬で、しかも経費等も認められない。それなのに、経営責任は取らされ、赤字などになった場合は私財を放出しなくてはならない。
 バロー・マーケットのスタッフは35人。清掃者からマーケティング、財務管理、マネージャーなどから構成されている。NPOであり、利益はチャリティに回すようにしているそうだ。

キーワード:

マーケット,歴史建築物,アイデンティティ

バロー・マーケットの基本情報:

  • 国/地域:イングランド
  • 州/県:グレーター・ロンドン
  • 市町村:サザーク区
  • 事業主体:バロー・マーケット(Borough Market)
  • 事業主体の分類:その他
  • デザイナー、プランナー:Jestico + Whiles 等
  • 開業年:1756

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 バロー・マーケットは建築家ピアノが設計した高層ビル「シャード」のほぼ真下にある。土曜日に訪れたのだが、本当に立錐の余地がないほど混雑していて、歩くのにも難儀をしたほどだ。バロー・マーケットでは、旅行代理店や航空会社には一切、広告を出さないのだが、今ではロンドンで行くべき観光スポットとして広く紹介されており、多くの観光客が訪れるようになっている。外国人とイギリス人の割合が6:4だそうだ。また、この4割のイギリス人の中にもロンドンに観光に来ている人が含まれているので、そう捉えると、ほとんどが観光客といってもいいかもしれない。このような市場は、東京の築地もそうだが、地域色が繁栄されているので面白い。レルネル氏は『都市の鍼治療』において、伝統的な市場の持つポテンシャルを高く評価していたが、着飾ったロンドンの観光地が有していない、地元くささ、ローカリティ溢れるこのバロー・マーケットが、観光需要に対して「ロンドン・ナウ」としての記号としての魅力を十分に有していることは間違いない。バロー・マーケットが観光資源として、注目されるようになったのは本当に最近である。他都市でまだ市場が観光資源として人を惹きつけていない場所においては、バロー・マーケットの成功例は多くの示唆を与えてくれるであろう。

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