出町座

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出町座3
出町座4
出町座5
出町座6
出町座7


キーワード:

リノベーション, 商店街, 映画館, 日本

鍼レベル:

ストーリー:

 出町座は京都市の出町柳駅そばにある桝形商店街の中にある映画を中心とした文化複合施設である。桝形商店街という個店揃いの個性的な商店街にあった薬局の跡地に2017年に開業した。出町座のスクリーンは2つ。地下一階に42席、二階に48席。そして一階はカウンターだけでなく、書店の本が展示されており、さらにカフェまで揃えていて、ちょっとした交流空間となっている。街の小さな広場のようである。
 桝形商店街は京都にあってもユニークな商店街である。個店も多く、チェーン店特有のユビキュタス感がない。商店街を舞台としたアニメ『たまこまーけっと』のモデルがこの商店街であることからも、その魅力は推察できる。その商店街の街並みの個性をさらに際立たせるように出町座は立地している。そして、出町座の広場的な空間は、商店街に買物に来る人に滞留する機会を与える。映画を目当てでこの商店街に来た人も、それをきっかけとしてこの商店街のクオリティの高さを理解する。相乗的な効果をお互いが与えている良好な関係性が構築されているのだ。
 出町座は河原町にあった立誠小学校の跡地を使って映画作品を上映していた「立誠シネマプロジェクト」が2017年7月に運営が終了したことに伴い、代わりの映画拠点を設けようとクラウドファンディングの出資協力を募り、実現したプロジェクトである。
 出町座・座長の田中誠一氏は、ここ出町座から映画や本などの文化を盛り上げていき、新しい価値を生み出していきたいと筆者への取材で述べていた。そのためにも、しっかりと上映する作品をセレクトし、また、テナントで入ってもらっている書店やカフェとも、場所をシェアするという関係性を活かし、相乗効果を発揮させ、公共的な価値をこの場でつくりたいとも述べていた。
「セレクトをしっかりとしていけば需要はある。コンパクトだから質が高いということはある。大きいということは資本の論理でいうと、質よりも量になる。安くはできるけれけど質はどうなのか。コンパクトな場所で、質の高いものを提供できていれば生き残れる。やり始めたから分かった。今後のもののヒントではないかと思う。」
 筆者の取材への田中氏の言葉である。この出町座という文化拠点ができたことで、出町座周辺にも徐々にアーバンでポジティブな影響が及び始めている。街にとって映画を中心とした文化複合施設が貴重な資源であることを再確認させてくれるプロジェクトであると考えられる。

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 ジャイメ・レルネル氏はその著『都市の鍼治療』で、一章を割いて都市における映画館の重要性について次のように述べている。
「今日、多くの都市は、コミュニティーや地域独自の持色ある文化を守らなかったために鍼療法を必要としている状況にある。その典型的な例は、都市の映画館が次々と消え失っていることだ。(中略) 都市の歴史、記憶は我々の家族の古い写真と同じである。誰もが家族の古い写真を破り捨てないのと同じように、古い映画館はこの家族の古い写真と同様に我々のアイデンティーにとって極めて大事な象徴として、それを失うべきではない。」
 インターネットが普及しNetflixやAmazon Primeで手軽に映画が観られる時代。映画を観るための装置としての映画館の役割はどんどんと矮小化されていく。しかし、取材に応じてくれた出町座・座長の田中誠一氏は、それが街中から失われていくことに危機感を覚えている。それは「文化的なこととして最低限のものじゃないか」と指摘する。田中氏の指摘は、まさに上述したレルネルさんの問題意識に呼応したかのようである。
 桝形商店街に立地することにした背景としては、京都市内をみると映画館は四条から南か、二条、あと郊外のイオンしかない。しかし、高感度のアンテナを有している若い人は出町柳の周辺に住んでいる。ここはニーズがあるのに供給がないということで、代替地を考えている時も出町柳周辺は一番の候補であった。
 2019年6月、京都のミニシアターは出町座、京都シネマ、京都みなみ会館しかない。映画都市として名高い京都市として、また若者の多い大学都市として、現況は心許ない限りではあるが、そのような状況であるからこそ、出町座の社会的価値も高くなっている。
 また、出町座がある桝形商店街の雰囲気は素晴らしい。この街があるからこそ出町座も映えるし、また出町座があることで桝形商店街の魅力も増すという素晴らしい相乗効果がここでは観察することができる。そして、施設内にあるCAVA BOOKS(サヴァ・ブックス)という書店は、映画関係の本やカルチャー系の新刊、中古本をここで販売している。書店が設置した書棚が見事、映画館のカウンターがあるフロアの空間を文化的香りのあるものへと演出している。加えて、「出町座のソコ」という名前のカフェは、軽食とドリンクを提供し、テイクアウトも可能なのだが、桝形商店街の街路と空気を共有するような、ここのカウンターはちょっと時間を潰すには最適である。出町座が広場的な公共空間であることを確認させてくれるようなカフェである。
 映画館という装置を都市に復活させただけでなく、それが持つ文化的な要素を商店街という空間にまで浸透させることに成功させた。
 レルネル氏は上述の文章に続けてこう述べている。「昔の映画館の再生は、我々の文化的アイデンティティを強化するプログラムである。そして、それは我々の失われつつある記憶やアイデンティティをとりもどす都市の鍼療法なのである。」
 出町座はまさに、レルネル氏が述べる「都市の鍼治療」を実践した事例である。

事業主体:

シマ・フィルム株式会社

事業主体の分類:

民間

デザイナー、プランナー:

田中誠一

開業年:

2017年

類似事例:

・ 鶴岡まちなかキネマ、鶴岡市(山形県)
・ ブルックリン・キングス劇場、ニューヨーク市(ニューヨーク州、アメリカ合衆国)
・ ニュー・ミッション劇場、サンフランシスコ市(カリフォルニア州、アメリカ合衆国)
・ アラミダ劇場、アラミダ市(カリフォルニア州、アメリカ合衆国)
・ パラマウント劇場、オークランド市(カリフォルニア州、アメリカ合衆国)
・ パレース劇場、セイント・ポール市(ミネソタ州、アメリカ合衆国)
・ フアレス劇場、グアナファト市(メキシコ)
151 オックスフォード・カバード・マーケット、オックスフォード市(イングランド)
172 ハッケシェ・へーフェ、ベルリン市(ドイツ)

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