166 クリチバのバス・システム (ブラジル連邦共和国)

166 クリチバのバス・システム

166 クリチバのバス・システム
166 クリチバのバス・システム
166 クリチバのバス・システム

166 クリチバのバス・システム
166 クリチバのバス・システム
166 クリチバのバス・システム

ストーリー:

ブラジルのクリチバ。人口は180万人、大都市圏人口であれば300万人を越える大都市であるが、公共交通は鉄軌道ではなく様々な工夫が施されたバス・システムである。

クリチバ市は、赤い3連節のバスが颯爽とバス専用レーンを走り、アクリルのチューブ状のバス停留所では、バスが停車すると踏み板が自動的に降りて、短い停車時間で速やかに去っていくといった、それまでのバスの概念を払拭するような格好良さで広く世界中に知られている。クリチバのバス・システムはコロンビアのボゴタ、インドネシアのジャカルタ、韓国のソウルなどで模倣され、クリチバ・モデルとでも呼ぶべき効率的なシステムである。

さて、しかし、このバス・システムは実は、予算がない中、苦肉の策として考えられたものであった。レルネル氏が第一期の市長になった1971年当時、クリチバ市の人口は100万人の大台が目前であった。当時、100万人都市の公共交通といえば地下鉄と相場が決まっていた。しかし、クリチバ市には地下鉄を整備するだけの予算がなかった。さらには、地下鉄を運営管理するだけの技術もなかった。したがって、地下鉄ではなくバスで公共交通ネットワークを整備することにした。ただ、レルネル氏は、地下鉄が整備できなかった悔しさもあり、バスと地下鉄の違いはどこにあるのかを考察し始めたのである。そして、地下鉄とバスの違いを次のように「都市の鍼治療」的対応で克服していく。

a)定時性:バス専用レーンを整備することで自動車による道路混雑を回避する。
b)スピード:拠点性の高い停留所にしか停車しない急行バスを運行する。停留所での運賃支払いの遅延をなくすために、バス停留所に入る時に事前に運賃を支払うシステム、また、バスでの乗り降りを円滑に実施するためにバスの入り口と同じ高さのプラットフォームを持つバス停留所を設計する。
c)輸送人員:3連節のバスを導入することで270人の輸送を可能とする。
d)運行頻度:バスの運賃ではなく、バスの走行距離によってバス会社に報酬を支払うシステムを導入し、運行頻度を削らせないようにする。

このようにお金ではなく、知恵を使うことで、クリチバのバス・システムはワシントンDCの地下鉄と同じだけの交通量を処理することを可能にしたのである。

そして、クリチバのバス・システムの成功は多くの都市が模倣することになり、広く世界に広められることとなる。

キーワード:

公共交通,バス

クリチバのバス・システム の基本情報:

  • 国/地域:ブラジル連邦共和国
  • 州/県:パラナ州
  • 市町村:クリチバ市
  • 事業主体:クリチバ市、URBS(クリチバ都市公社)
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:ジャイメ・レルネル
  • 開業年:1974年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

1992年のリオデジャネイロの国連サミットで広く世界にその名を知られることになったのは、ホスト都市のリオデジャネイロではなく、そこから1,000キロメートルほど離れたパラナ州の州都クリチバ市であった。

これは、クリチバ市が同時期にローカル・アジェンダの会議を開催し、リオデジャネイロを訪れた世界の人々がクリチバ市を訪れたからである。彼らがそこで見たのは、人口100万人(当時)を越える大都市であるにも関わらず、バスだけでしっかりと公共交通サービスを提供できている常識外れの事実、廃棄物のリサイクルがちゃんと行われている状況、スラム街の子供達が元気そうに野外学校で遊んでいる姿、そして都心部から自動車を排除してつくられた歩行者専用道路などであった。

そして、これら幾つもの驚くべきクリチバの都市政策の成果の中でも、最も印象深かったのはバス・システムではなかっただろうか。レルネル氏が輸送人員を増やすために連節バスを注文しようとしたら、そのようなバスはこの世に存在しない、と当時ボルボ社に言われたそうだ。そして、ボルボ社はクリチバ仕様で連節バスをつくることになる。さらに、このバスの象徴性を高めているのが、バスのプラットフォームに入る前に料金を徴収してしまうシステムを具体化させるためのチューブ型のプラットフォームである。この極めて未来的なデザインのプラットフォームをデザインしたのは、ジャイメ・レルネル氏本人である。また、このアイデアに気づいたのは、彼が日本を訪れた時、阪急電車に乗っていた時だそうだ。駅の停車時間の短さに驚いた彼は、その理由を乗車時(降車時)に運賃を徴収しないことに気づく。この話を聞いて、日本の都市バスも、日本の電車の効率性から学んで欲しいと思うのは私だけではあるまい。

リオのサミットの後、クリチバのバス・システムは広く世界に知れ渡ることになり、コロンビアのボゴタ、インドネシアのジャカルタ、メキシコ・シティなどで導入されることになる。バスという一時代前の公共交通機関をちょっとした知恵で見事再生させた、さすが本家「都市の鍼治療」の素晴らしい事例であると思われる。

類似事例:

060 ストラスブールのトラム
077 富山ライトレール
095 メキシコ・シティ・メトロバス(BRT)
1003 ジャイメ・レルネル氏インタビュー
229 サンフランシスコのケーブルカー
318 カールスルーエのデュアル・システム
・ 都電荒川線、北区(東京都)
・ フライブルグのライトレール、フライブルグ(ドイツ)
・ ヴッパータルのモノレール、ヴッパータル(ドイツ)
・ サンノゼのライトレール、サンノゼ(カリフォルニア州、アメリカ合衆国)
・ ポートランドのライトレール、ポートランド(オレゴン州、アメリカ合衆国)
・ マンチェスターのライトレール、マンチェスター(イングランド)