高橋順一教授の
ライプツィヒ通信

高橋順一早稲田大学教育学部教授

第7回 資本制システムにおける「成長」と「3つの無限」

11月にはいると急に寒さが増してくる。

そして冬時間になって時間表示が1時間遅くなったにもかかわらず朝7時をすぎてもなかなか明るくならない。日が短くなるのと寒さが平行しながらやってくる感じだ。ドイツの家庭暖房は基本的にすべて温水循環によるセントラルヒーティングシステムになっており、電器店やデパートへいってもストーブ等の個別暖房機は売っていない。

セントラルヒーティングの目盛りを最大にしても、菅のなかを通っている温水による関節暖房なので、ストーブの火の熱で直接暖めるときのようには部屋の温度はなかなか上昇してくれない。いきおい寒さがきつくなると部屋の中でも厚着にならざるをえなくなる。調理器も電磁システムなので家のなかにはいっさい直火は存在しない。火事に関しては安心だが、われわれ日本人としては火のぬくもりが恋しくもなる。

そうこうするうちに11月末ヨーロッパ全域を猛烈な寒波が襲ってきた。アドヴェントに入りクリスマス市が始まってすぐのことだった。朝から雪が降り積もり、たちまちライプツィヒ全市が銀世界と化していった。天気予報では気温が零下12度になったと報じていた。方々で交通網が寸断されているとも報じられていた。

外を歩くと外気にさらされている顔の皮膚が針で刺されるようにぴりぴりし、手袋をしていても指先がかじかんで痛くなる。あらためてドイツの緯度が樺太よりも北のシベリア北部地域とほぼ同じであることを想い起こした。いよいよ冬の本格的始まりである。

さて前回、私たちの社会を動かしてきた産業資本主義に根ざす経済システムが今臨界に達しつつあることを指摘した。

この間にも危機状況は深刻さをいっそう増している。アイルランドが財政支援の要請に踏み切ったことにより、EUがもっとも恐れていたギリシアに続く第二の破局がついに現実のものとなったからである。ドイツの経済成長率の大幅な伸びが報告されて以来やや持ち直していたユーロの為替水準はふたたび下落を開始している。早くも市場では、ギリシア、アイルランドに続く破綻国がどこになるかをめぐって揣摩臆測、疑心暗鬼がとびかい始めている。ポルトガルか、スペインか、イタリアか、それともイギリスか?

確実にいえることは、今名前をあげたどこか一国でも破綻へと至れば、その影響はギリシア、アイルランドの場合とは比べものにならないくらい深刻になるだろうということである。ややおおげさに聞こえるかもしれないが、今EUはユーロ通貨体制を含め存亡の崖っぷちに立たされているといってもよいと思う…



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寄稿
高橋順一 早稲田大学教育学部教授

1950年、宮城県生まれ。立教大学文学部卒、埼玉大学大学院文化科学研究科修了。現在、早稲田大学教育学部(教育・総合科学学術院)教授。専攻はドイツ・ヨーロッパ思想史。
著書に、『ヴァルター・ベンヤミン : 近代の星座』(1991年、講談社現代新書)、『響きと思考のあいだ : リヒャルト・ヴァーグナーと十九世紀近代』(1996年、青弓社)、『戦争と暴力の系譜学 :〈閉じられた国民=主体〉を超えるために 』(2003年、実践社)、『ヴァルター・ベンヤミン読解 : 希望なき時代の希望の根源 』(2010年、社会評論社)などがある。

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